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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−38 社会的に抹殺して差し上げましょうね

「だけど……あなたをここまで怒らせた相手には、お仕置きは必要よね? しかも、幼気な少女を攫った上に床に放っておくなんて。全くもって、信じられませんわ」


 やや間抜けな口上込みでやってきたルエルであったが。床に転がっているリリカにもすぐさま気づき、美しく整った眉をクイと上げる。そうして、キュラータが怒り出した理由も鮮やかに悟ると、嬉々として残酷なお仕置き内容を口にする。


「……キュラータ。もちろん、こちらの方達の身元は調べてあるのでしょうね?」

「無論です、ルエル様。ルルド・マーコニーとその使用人。そして、周囲の男は……取るに足らぬ傭兵崩れのゴロツキ共ですね。傭兵崩れはともかく、こんな事を画策した坊っちゃまにはそれなりの制裁が必要かと」


 一方で、ルエルの心意気を知るや否や。キュラータはキュラータで面白そうに口元を歪めるのだから、なかなかに趣味がよろしい。なんだかんだで、ルエルとキュラータは似たもの同士なのかも知れない。


「ウフ。でしたらば、社会的に抹殺して差し上げましょうね。貴族にとって急激な没落ほど、苦しい事はないもの。……それがいかに惨めか、あなた達も思い知るといいわ」

「……あなた達も? ルエル様、それは一体……」

「あら、失礼。……今のは忘れて頂戴」


 まるで自分も「惨め」を経験したかのような口ぶりであったが。ルエルはうっかり口を滑らせただけのようで、思い出話をするつもりはないらしい。ツカツカと少女の元に歩み寄ると、驚きと恐怖を隠せない坊っちゃま達を尻目に、リリカに回復魔法を施し始める。


「えぇと……嘆き、苦しみ、痛み。汝の命を脅かす咎を禊ぎ、清めん! ミディキュア」


 ちょっぴり、詠唱に手間取ってしまったけれど。ルエルはしっかりと回復魔法を発動し、きっちりと無垢な少女を救済する。可哀想に、最大の被害者であった少女は傷は治っても、意識はまだまだ朦朧としている様子。そんな彼女をルエルが抱き上げる……と見せかけて、スッと側に寄ってきたキュラータがサッと代わりに抱き上げた。


「あら、そこで意地を張らなくてもいいでしょうに」

「……レディの細腕に、リリカ嬢を預けるわけには参りませんので。ここは私めが責任を持って、お運びいたします」

「そう? でしたら、そういう事にしておいてあげるわ。えぇ、喜んで」

「ルエル様、何か勘違いされていません?」


 そういう事とは、どういう事だろう?

 回復魔法の手腕はともかく、ルエルが天使であることを伏せている以上、キュラータは他意もなく(見た目だけは)華奢なルエルがリリカを抱き上げたら不自然だろうと思っただけだったが。妙な方向に勘違いをされたようで、キュラータは「まーた、面倒な事になったなぁ」と内心で呆れてしまう。どうやら、彼女の中では「例の事案」を進めることは決定事項のようだ。


「とにかく、キュラータ! 恋の進展に向けて、レッツ・エンジョイですわ! ついでに、横暴貴族の制裁もやっておしまい!」

「いやいやいや、待ってください、ルエル様! どう頑張ってもレッツ・エンジョイできる内容ではありません! そんなに楽しげに、変な事を宣言なさらないで下さい!」

「ウフフフ……! これは久々に、素敵なネタを投下できそうですわ。マディエル様の新作に期待が膨らみますわね……!」

「……マディエル様? 誰ですか、それは」


 天使のテンションに、半ば置いてけぼりのキュラータや坊っちゃま達を差し置いて、ルエルが説明するところによると。マディエルは「彼女達の界隈(つまりは神界)」で有名な恋愛小説家とのこと。某大天使様や某大悪魔様の恋愛事情を赤裸々に語った一連の恋愛小説は、「彼女達の界隈(要するに神界)」で不朽の名作として語り継がれているのだとか、何とか。

 ……天使の恋愛小説家がいることも、驚きだが。それをネタにしてキャッキャしている天使達の姿は、驚きを通り越して、いっそのこと嘆かわしい。


「それはつまり……ルエル様の妙な誤解があらぬ方向に進んだ結果、私めをネタにして物語が生み出されてしまうという事でしょうか……?」

「その通りですわ! もう、恥ずかしがらなくてもよろしくてよ? これは誤解ではなく、事実でしょう?」

「……全くもって事実ではありません……」


 もう、いいや。これ以上の茶番は精神的に持たない。

 キュラータは自身の身に降りかかる天使の受難よりも、リリカを送り届ける方が優先だと判断すると、最後にギロリと睨みを効かせて……坊っちゃまにちょっとした死刑宣告を残してみる。


「いずれにしても、此度の処遇についてはしっかりと対応させていただきます。……今後、クージェでマーコニーが大手を振って商売ができなくなるようにして差し上げましょう。とある製薬会社に、クージェへの販路拡大を進言しておきますよ」

「とある製薬会社……。それって、もしかして……!」

「おや、坊っちゃまにもお心当たりがおありか。……クク、その通りですよ。これで、この執事めはかの大手製薬会社の会長とも縁がございましてね。ルルシアナ製薬が本格的に乗り込んできたらば、今の堕落したマーコニー製薬の地位はあっという間に地に落ちるに違いありませんね。調べた範囲では、マーコニーはかつての良心的な価格設定を捨てて、暴利を貪っているようですし。ルルシアナ製薬の介入はクージェの民にとっても、好都合なのでは?」


 マーコニー家は貴族である以前に、商人である。商人にとってライバルの新規参入と同時に、顧客を奪取されることは生命線そのものに関わる。


「そ、そればかりはご勘弁を! そんな事になったら、生きていけなくなっちゃいます!」

「……別に貧乏になろうとも、生きていけるのでは? 貴族に固執するから、苦しいのでしょうに」

「だ、だって! 父上が言っていたんだもん! 秘薬さえ手に入れれば、ちゃんと貴族になれるって……」

「秘薬?」


 しかしながら、マーコニー家が利益を追求するようになったのは、浅からぬ事情があったようで……ようよう坊っちゃまが後悔混じりで謝罪と言い訳をするところによると。彼らには大金を積んででも、どうしても手に入れたい秘薬があるのだそうで。その秘薬さえあれば魔力適性を獲得でき、貴族社会でも「貴族もどきの平民」と謗られる必要もなくなると……父親から言われていたらしい。


(マーコニーの強欲は、その秘薬を得たいがためだったのですか。しかし、これはまた……キナ臭い話になってきましたね)


 それもそのはず、その秘薬の名前があまりに心当たりがありすぎて。ルエルとキュラータは坊っちゃまの自白に、思わず顔を見合わせてしまう。


「ヴァルヴェラの微笑……ですの? まぁまぁ、なんて因果な事かしら。これは、例の事と絡んでいそうね?」

「でしょうね。それにしても、この陳腐な製品名……もう少し、捻りはなかったんでしょうかねぇ?」


 坊っちゃまの口からリュシアンの(表向きは)愛妻とされていたヴァルヴェラの名が出たのは、偶然ではないだろう。しかも、彼の口ぶりからするに、その秘薬は現代でも販売されている代物の様子。ヴァルヴェラの名を冠している以上、ハルデオン家がばら撒いていた「魔力増強剤」とも関連性があるだろうし、取り扱っている相手はハルデオン家の裏事情を知っている可能性も高い。


「そうでしたの。でしたらば……そちらの情報をいただければ、今回の事は不問にして差し上げましてよ」

「本当ですか!」

「えぇ。その秘薬について、洗いざらい白状なさいな。万が一、嘘偽りがあった場合は……そうね。キュラータに腕を捻り潰してもらおうかしら?」

「ヒィッ⁉︎」


 怒らせた執事も恐ろしいが、その主人も大概にして恐ろしい。しかも、2人揃って嗜虐的な微笑を浮かべているともなれば。……プルプルと怯え切った坊っちゃま達に残されたのは、きちんと白状して延命を乞う選択肢のみであった。

【登場人物紹介】

・マディエル(地属性/光属性)

神界の「救済部門」に所属する、上級天使。

かつては救済の大天使・ラミュエルの補佐の名目で「記録係」として辣腕を振るっていたが、大天使・ルシエルの活動報告書を恋愛小説仕立てにし始めたのを機に、恋愛小説家としての地位を確立。

それ以降、数々の恋愛小説を生み出し、天使達の乙女心を存分に満たしてきた。

なお、代表作・『愛のロンギヌス』は天使と悪魔の恋愛事情を描いた革新的な作品とされており、発表から100年経過した今でもブームが続いている化け物作品である。


【魔法説明】

・ミディキュア(光属性/中級・回復魔法)

「嘆き 苦しみ 痛み 汝の命を脅かす咎を禊ぎ 清めん ミディキュア」


3種類ある「傷を癒すための回復魔法」のうち、中級に分類される魔法。

プティキュアよりも深刻な怪我を治療できる魔法であり、やや重度の裂傷や骨折等をカバーする。

自然回復が難しい怪我にも対応できるが、発動にはある程度の医療知識が必要なため、中級と言えど、発動難易度は比較的高め。

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