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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
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1−28 昨日の自分を越えていけ!

 栄養源を取り上げられた「霊樹ベビー」にはもう、抵抗する余力はないに等しい。幾度となく繰り出される、重厚な斬撃の連鎖に……とうとう「彼女」は黒い芝生へと倒れ込む。しかしながら、ベテランの特殊祓魔師は深魔の元凶に対する容赦や慈悲は持ち合わせていない様子。弱り切ったグラディウスの苗木へと、最後のトドメとばかりに陸奥刈穂を振りかざした。


「こいつで最後だ! カリホちゃん!」

(分かっておる! 小生の切れ味、とくと味わわせてくれる!)


 マモンの掛け声に応じて、陸奥刈穂の刀身が一層激しい輝きを纏う。そうされて垂直に繰り出された風刃は、ものの見事に霊樹ベビーの頭をスパリと落として見せた。


「ふぅ〜……意外と手間取ったが、何とかなったな〜。んで……ミアちゃんは無事か?」

「はい! もちろん、ピンピンしてますよ! ……薬が苦かった以外は、特に問題ないです……」

「そうか、そうか。そいつは何よりだ。ま、薬に関しては勘弁してくれよ。良薬は口に苦し、ってよく言うだろ?」

「それはそうですけど……いや、冗談抜きでメチャクチャ苦かったんですけど⁉︎ まだ口の中がニガニガするぅ〜」


 ミアレットのしかめ面に、体調も悪くないと判断したのだろう。ブーブーと文句を垂れる教え子とは対照的に、マモンはさも安心したとばかりに、ようようニコリと微笑むが。しかし、すぐさま笑顔を渋い顔に戻しては……懸念事項をポツポツと呟く。


「さて、と。元凶をぶっ倒したから、心迷宮とはそろそろお別れだ。しかし……まさか、霊樹ベビーと一戦交える羽目になるとは思わなかったな。まだ根っこが浅くて、助かったが。……無性に不安な幕引きだな、これは」

(そのようだな。そこまでの深度はなかったように思うが、とは言え……ふむ。小生の刃の通りからしても、一端の霊樹であったことも間違いなかろう。今後もこのような相手が出てくるとなると……あまり楽観視できぬ状況なのは、変わらんか?)

「……だろうな。まさか、カリホちゃんを引っ張り出す羽目になるなんて、思わなかったな〜。しかし、どうしよーかな。……霊樹に対抗できるのって、それこそカリホちゃんしかいないんだよなぁ……」

「そうなんですか……?」

(そうなのですよ、ミア殿。口惜しきかな、霊樹へ有効な一手を与えられるのは、現存する武具の中でも酒呑のみなのです)


 話の筋からして、是光の言う「酒呑」とは陸奥刈穂のことだろう。

 マモンの刀達は互いの間でも呼び方が決まっているらしく、武具名とは異なる名前がチョコチョコ出てくるものだから、ミアレットとしては混乱してしまうが。持ち主も含め、彼らは意に介する様子もないので……これは今までの関係性による慣例なのだと、サクッと割り切る。聞けば理由も含めて教えてくれるだろうが、少なくとも今聞くべきことではない……と、思う。


「ミアちゃん、どうした?」

「いや……私自身、間近で武器を見るのも初めてなら、喋る刀なんて想像もできなかったものですから。しかも、えぇと……酒呑さん? カリホさん? ……どっちにしても、霊樹も相手にできるなんて凄いなぁって……」


 ここはとにかく、話に乗っかるついでに「イケメンボイス」を堪能するに限る。そうして、陸奥刈穂に話を振ってみると……意外や意外、マモンに対する偉そうな態度とは裏腹に、相当に控えめな反応を示した。


(あぁ、呼び名はカリホで良いぞ。酒呑は生前の名ゆえ、内々でしか通用せんし。それはそうと……小生は霊樹相手を想定して、作られた武具だからな。それ以外の特殊効果は持たされておらぬが、一応は持ち主に力を与える事はできるようになってはおるのだ。しかし……今となっては、要らぬお節介かも知れん。……小僧はまた、腕を上げたな)

「そいつはどうも。一応、これでも鍛錬は欠かしていませんから〜。毎日魔法も武器も、ちゃんと訓練していまーす」

(よき心がけぞ。それでこそ、小生の持ち主に相応しい)


 マモンの答えに、陸奥刈穂が満足そうに深いダンディボイスを漏らす。しかし……呼び名は「カリホちゃん」でいいらしい事はさておき、ミアレットにしてみれば、意外な事実が混ざっていた気がするが……?


「えっ? マモン先生みたいに強くっても、訓練するんですか……?」

「そりゃぁ、もちろん。武器も魔法も、使い込むだけじゃなくて、日々の研鑽がとっても大事なんだな。いざって時に困らないように、いつでも同じように実力を発揮できるようにしておかないと」

「ソ、ソウデスネ……」


 判断材料が、たった1回の心迷宮攻略だけとは言え。マモンが圧倒的な強者であることは、ミアレットとて有り余る程に理解させられている。それなのに……この大悪魔様は更に強くなるつもりのようで、常々鍛錬も欠かしていないらしい。果たして……この世界の「強者」は、どこまで先があるのだろうか?


「それで……マモン先生は毎日、どんな事をしているんですか?」

「う〜ん、そうだなぁ。魔法の場合は習熟度を上げるついでに、使い方を研究してみたりとか。武器の方はこいつらの手入れもそうだけど、状況に応じて刀以外の武器も使えるように、体の動かし方とか、構えとかを模索してみたりとか。あっ、あと、な。魔法学園の本校には、擬似的に強敵と戦える仮想空間システムがあってさ。そこで、本気の自分に挑戦してみたりとか……」

「はい? 本気の自分……って、ナンデスカ?」

「自分で言うのも、間抜けなんだけど。……その仮想空間の最強が一応、俺のデータに指定されているんだよなー。んで、過去の自分に負けるわけにゃいかんと、機会があればミラーマッチしてるんだよ」

「そ、そんな設備まであるんですね……」

「うん。本校に通えるようになったら、生徒も使い放題で試せるから、是非に訓練に役立ててくれよな。生徒は強制的に非公開モードになるが……自分のデータも登録すれば、弱点が分かったりして、なかなかに面白いぞ」

「へ、へぇ〜……」


 昨日の自分を越えていけ! ……と、親指を立ててピシッと胸を張るマモンではあるが。ミアレットとしては、不安要素が更に重なった気がして、目眩がする。……そんな設備まで揃っている本校に登学したら、武器も魔法も、相当に訓練させられそうである。


「なーんて話している間に、現実世界への経路がくっついたみたいだな」

「あっ、そう言えば……確かに、段々と周りが暗くなっているような……」


 中庭がどこもかしこも黒かったので、あまり違和感に気づけずにいたが。DIVE現象は発生時と収束時にそれなりに時間がかかり、現実世界と仮想世界とで往来できるようになるまで、しばらくの待機時間が発生するのだそうだ。そうして、いよいよ真っ暗になった空間で、マモン達が最後の〆とばかりにミアレットを労ってくれる。


「兎にも角にも、ミアちゃん、お疲れ。そんでもって、お前らもありがとな。ご褒美に、きっちり手入れはしてやるから。……また後で」

(いやはや、此度は麻呂も楽しかったでおじゃるよ。ミア嬢も達者での)

(まぁ……妻君以外の護衛も、良い経験になりますね。ミア殿、お疲れ様でございました)

(小僧、今期はいい教え子に恵まれたようだな? ミアはなかなかに見どころがあるようだ。ミア、また会える日を楽しみにしておるぞ)

「はい! 皆様もありがとうございました!(きゃぁぁぁ⁉︎ イケボで褒められた⁉︎ 期待されたッ⁉︎)」


 これはもう、再会に向けて頑張るしかない。

 本格的に暗転した空間がグラリと揺らぐのも、達成感のせいか妙に心地よくて。エルシャからの「贈り物」を握り締めながら……ミアレットは更に深く暗闇を堪能するように、瞳を閉じた。

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[良い点] 「昨日の自分を越えていけ! ……と、親指を立ててピシッと胸を張るマモン」好き♡
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