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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−27 フル装備の執事

 敬愛する姉・カルロッタの不幸な最期。リュシアンに傾倒し、履き違えた恋心を溜め込んだ結果、当時はご法度とされていた帝王への直談判をキメてまで、リュシアンの爵位継承を早めるに至ったが。改めて考えてみれば、「姉の奇行」は明らかに筋が通らない。何せ……。


(……そう。姉上は気に入っていたのです。ヴァルヴェラ嬢を。リュシアン坊っちゃまとの恋路を叶えようとするのであれば、彼女こそが何よりも邪魔だったはず)


 『月刊・騎士道』でのリュシアンの記事では、ヴァルヴェラとの結婚生活はほぼほぼ書かれていなかった。記事に書かれていたのは、いかにリュシアンが美しく、いかにリュシアンが薄幸であったか。そして、叔父一家が如何様にしてリュシアンを虐げたかに大部分の文字数を割いており、不自然な程に肝心のリュシアンの「騎士道」やら「恋路」やらには触れていない。

 そんな記事を見れば、どうして引く手数多なリュシアンは政略結婚をしたのだろうと思うだろうし、現にハーヴェンは「リュシアンはなんで、敵対派閥のお嬢さんと結婚したんだか」と首を捻っていた。しかし……彼らの結婚の背景には政略結婚以上の含みがあったことが判明した今となっては、騎士道を語る雑誌であるはずの『月刊・騎士道』における叔父一家の執拗な掘り下げは「薄幸」をテーマとしていたにしても、やや不自然に映る。


(他の「花騎士特集」もこの調子だったのでしょうか? もし、リュシアン坊っちゃまの特集だけこの調子であったのなら……『月刊・騎士道』の記事自体にも、何かの思惑があったのかも知れません)


 イグノの話では、『月刊・騎士道』の「花騎士・リュシアン特集号」は配送トラブルに巻き込まれ、発刊数自体が少なく、わずかな関係者の手にしか渡っていなかったらしい。だが、他の「花騎士シリーズ」はきちんと市井へ届けられているのだから、他の騎士達の記事を見る分には、図書館でバックナンバーを読み漁れば事足りる。

 ……ちなみに、『月刊・騎士道』の「花騎士特集」はフィギュアも含め、ルエルがちゃっかり懐に収めていた。もちろん、ハシャド王とヴァルヴァネッサ妃両名の了承済みではあるものの。ルエルが神界へ持ち帰って、ロマンスのお裾分けをするのだと息巻いていたのを思い出し……キュラータは辿り着いたクージェ帝国立図書館の門を見上げ、別の意味で遠い目をしていた。


(まぁ、こうして自由行動を許してくれているのですから、多少のハメを外すくらいはよしとしましょうか……)


 こうなってしまうと、主従関係もあったものではないが。天使というのはそういうものと割り切り、キュラータは「娯楽雑誌コーナー」を目指す。しかし……。


(ふむ? 皆様、どうされたのでしょうか……と、あぁ。……この格好だと、悪目立ちするのですね)


 一般市民の娯楽の場でもある図書館に、正装姿の執事が入り込んだらば、目立つに決まっている。現代においても執事という職業はもちろん健在ではあるが、キュラータのようにピシリと礼服を着込んでいる「筋金入り」の生息数は非常に少ない。一般的な使用人はちょっと上質なジャケットにスラックスが基本装備であるし、余程に格式張っていなければ、タイやジレも不要。ロケーションが城でもない限りは、ここまでフル装備の執事にはお目にかかれないに違いない。


(時代は変わったということですね……。私がアルフレッドとして生きていたのは、たった100年前だというのに。……クージェが変わっていないのは、黒鉄の街並みくらいですか)


 考えてみれば、帝王も王妃も(最高級品ではあろうが)非常にカジュアルな装いであった気がすると、『月刊・騎士道』の背を指でなぞりながらキュラータは、フッと意味ありげな短い吐息を漏らす。

 伝統を死守しているローヴェルズの王子達は格調高い紳士コートを愛用しているし、城下町もどことなく厳かなレトロさが息づいていた。しかし、対するクージェはどうだろう。元から街並みが前衛的だったせいか、雑然とした活気はあるものの。かつてのノーブルな品性は鳴りを潜めているように思える。


(無論、伝統にこだわり尽くす必要はありません。民との距離が近いのは、非常にいいことです。しかし……)


 『月刊・騎士道』なんて「娯楽誌」が面白半分に有難がられている時点で、クージェの「お堅い騎士」は絶滅危惧種なのだろう。もちろん、雑誌の趣旨としては「騎士道を正しく伝える」ものであったのだろうが。リュシアン含む「イケメン騎士」を「花騎士特集」とやらで偶像化している時点で、大衆に正しい騎士道が伝播しているかについては疑問の余地がある。ローヴェルズには立派な騎士団(しかも、現役稼働中)があった事からしても、あちらの方が余程に騎士道を心得ていると見える。

 まぁ、元将軍が「あのザマ」だったので、大衆だけではなく、貴族ですら「騎士道」を履き違えている可能性も高いのだが。いずれにしても、「古き良きクージェ」で生きてきたキュラータにしてみれば、今の帝国民は品性さえも後退させているように思えてならない。


「あの……執事さんは、どこの執事さんなんですか?」

「はい?」


 その証拠と言わんばかりに……こうして気安く、キュラータに話しかけてくる帝国民が発生する始末。

 想定外の問いかけに、キュラータが振り向けば。そこには、魔法学園のものとは異なる制服を着た、学生と思しき少女達が立っている。歳の頃は……ミアレットと同じくらいか。キラキラとした眼差しで、こちらを見つめているあたり……キュラータは目立つついでに、彼女達の妙な好奇心を刺激してしまったようだ。


「えぇと……どこの執事と申されますと? お嬢様方は私めがお仕えしている家名を聞かれている、で合っておりますか?」

「うん、そう! きっと、大きなお家の執事さんなんだよね⁉︎」

「わぁぁぁ……! すごい! 本物の執事さんだぁ……!」

「……いや、本物の執事と申されましても……」

「見て見て! この執事さんの上着、裏地まで格好いいよ!」

「ホントだ! やっぱり、執事さん……お金持ちの執事さんだったりする?」

「……」


 しかし、返ってくる言動は無邪気を通り越して、無礼ですらある。キュラータの返答を待つ間もなく、3人でめいめい興味が赴くままに、燕尾服のテールを持ち上げてみたり、黒革のグローブをニギニギしてみたりと、やりたい放題だ。


「申し訳ございませんが、これ以上のお戯れはご遠慮ください。……衣装も含め、主人からの誂え品でございますので。無遠慮にお手を触れぬよう、お願い致します」

「あっ、ごめんなさい……」

「えぇと、執事さん、怒ってる?」


 怒っているよりは、呆れているが正しい。それでも、子供相手に必要以上に事を荒げるのは失策だろうと、キュラータは努めて冷静に「お触り厳禁」を伝えてみる。これ以上の「ご冗談」は、是非に避けたいところだ。

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― 新着の感想 ―
なんかこんなにリュシアン様のまわりが謎だらけだと、「花騎士・リュシアン特集号」の配送トラブルですら、何かの陰謀に思えてくるほど! そして、何か少女たちに絡まれるキュラータさん笑 呆れ顔が想像できます笑
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