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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−15 存分に実力を発揮してくださいね

「ご機嫌よう、ミアレット。武闘会のお知らせ、ご覧になりまして?」

「まだ全部は読んでませんけど……あぁ、私は不参加ですから。詳細のご説明は結構ですよ?」


 なーにが、「ご機嫌よう」だ。あなた達の顔を見た瞬間、ご機嫌なんぞ吹っ飛びましたけれど。

 ……なんて、心の中で愚痴りつつ、ミアレットは彼女達の目的も察知し、最初から「不参加ですから」と意思表示をしてみるが。この程度で引き下がるようであれば、こんな場所で待ち伏せなんかしていないだろう。


(この人達、よっぽど暇なのね……。私に「お誘い」をかける暇があったら、魔法の勉強をすればいいのに)


 ちょろっと垣間見えた概要だけでも、武闘会の目的が「最優秀令嬢を決める」……つまりは、プリンス兄弟へのアピールタイムであると分かってしまうもの。大元の噂に現実味がない時点で、こんな事をしても無駄だとミアレットは思うのだが、キラキラした王宮への憧れ(玉の輿願望)もあってか、彼女達は王子様にまつわる噂をとことん信奉しているのだ。……ミアレットが指摘したところで、彼女達の勘違いは是正不可だろう。


「まぁ、なんて生意気な。折角のモリリン様のご配慮ですのに……」

「ご配慮ですか? 私には嫌がらせにしか見えませんけど」

「なるほど? これを嫌がらせと取るなんて……やっぱり、平民の下級生は実力に自信がないから、参加しないとおっしゃるのね?」

「えぇ、それで結構ですよ。実力に自信がないのは、事実ですし。マモン先生に比べたら、足元にも及びません」

「……比較対象がおかしい気がするのだけど。どうしてそこで、マモン先生と肩を並べようとするのよ」

「えっ? だって、目標は高い方がいいじゃないですか。それに心迷宮の攻略にはご一緒してますから、マモン先生の実力もよく知っているつもりですけど」

「な、なんですって……?」


 もちろん、ミアレットがマモンの名を出したのはわざとであるし、比較対象がおかしいのも自覚している。まさに虎の威を借りている状態であるが。あの虎さんだったらば笑って許してくれるに違いないと、ミアレットは比較対象を誇張し、白々しく「私ってば、実は凄いんですよー」な演技を続けてみる。


(強者アピールしておけば、むしろ参加しないでと言ってもらえるかもしれないし……よし。このまま、押し通すわ)


 それに、心迷宮の攻略にご一緒したのは紛れもない事実。尚もギャーギャー言われるようであれば、ミアレットの魔術師帳にある「特殊任務実績記録」を見せればいいのだろうが……。


(でもぉ、あまり魔術師帳を他人に見せたくないんだよなぁ……。色々と変な機能が追加されてるし……)


 ミアレットの魔術師帳は既に【アイテムボックス】やら「心迷宮魔物図鑑」やら、通常であれば解放されていないはずの機能がオープンになっている。明らかに特別仕様になっている魔術師帳を見られたらば、また変な噂を流されかねない。


「特殊祓魔師でもないのに、迷宮攻略ですって……? そんな出まかせが通用するとでもお思い⁉︎」

「いいから、あなたも武闘会に参加しなさいよ! それで、モリリン様にやっつけられればいいの!」

「そうよ、そうよ! 生意気な下級生はコテンパンにやられちゃえばいいんだから!」

「えぇ〜? いやですよ、そんなの。第一、モリリン様ってそんなに強いんです?」

「なっ……!」

「とにかく! あなたみたいな嘘つきは、ナルシェラ様達には相応しくなくってよ!」

「いや、だからぁ。嘘じゃないですって……」


 もう、仕方ないなぁ。ミアレットは渋々と、魔術師帳の「特殊任務実績記録」のタブをタップする。そうして、結局はこうなるんだぁ……と、またも心の中でボヤくが。


「嘘じゃないわよ、お姉様方。私もミアレットに助けられた1人だし。それに……ミアレットは心迷宮の攻略、1回だけじゃないでしょ?」

「うーん……3回かなぁ。全部巻き込まれた感じだけど。ウィンドトーキングが得意なせいか、案内役に丁度いいって連れ出されちゃうのよね……」


 ナイスアシスト。どうやら3対1の構図に見かねたようで、アンジェがそれとなく助け舟を出してくれる。そうして上級生達を黙らせるついでに、話の流れも掻っ攫うつもりなのだろう。心迷宮の攻略に興味を示し、非常に建設的な提案をし始めた。


「そうなの? だったら、ウィンドトーキングのコツを教えてもらおうかしら?」

「あっ、もちろんいいですよ? 私もアンジェに攻撃魔法のコツを教えてもらいたいし。一緒に魔法の練習、しましょ?」

「えぇ、いいわね。同じ風属性の魔術師同士で訓練した方が、よっぽど効率的よね〜」

「うん、私もそう思うわぁ。わざわざ武闘会なんかしなくても、魔法の勉強はいくらでもできるし」


 そうしましょ、そうしましょ。

 わざとらしく、楽しげな雰囲気を醸し出し。3人のお嬢様を堂々と無視しながら、ミアレットとアンジェは「どこで練習する?」と話を弾ませている。しかし……そんな彼女達の迫真の演技に水を差すように、ミアレットの魔術師帳から「ピロン」と着信音が鳴った。


「……えと? アケーディア先生からだ……」

「あら、副学園長先生からダイレクトメッセージが来るなんて。もしかして、特別指令?」

「そうじゃないって。……でも、アケーディア先生が何のご用だろう?」


 特別指令だなんて、真っ平御免だと思いつつ……心当たりもない分、ゾワゾワと嫌な予感を募らせるミアレット。

 何かと世話好きなマモンならば、「最近の調子はどうだ?」と何気ないメッセージを飛ばしてきそうだが。研究熱心が過ぎるアケーディアの場合、「実験台になりなさい」と突拍子もない事を言ってきそうである。


「……」

「……どうしたの、ミアレット。もしかして、冗談抜きで特別指令なのかしら?」

「ある意味で、そうかも……」


《面白そうなので、モリリン・ファラードの企画書を通しました。

 どうやら、彼女は君に完膚なきまでに叩き潰されたいようです。

 ナルシェラ君達も興味があると申してましたし、参加手続き済みですから、存分に実力を発揮してくださいね。

 楽しみにしていますよ。

           副学園長アケーディア》


「なんで、余計な事をするかなぁ……! 面白そうなので……で、通さないでくださいよ! こんな企画ッ‼︎ しかも、勝手に参加手続き済みですって⁉︎」

「あららら……残念だったわね、ミアレット。こうなったら、やるしかないじゃない」

「もう! アンジェも他人事だと思って!」


 アンジェの配慮と友情も、たった1通のメッセージで台無しに。これを悪魔的所業と言わずして、なんと言う?


「……分かったわよ。参加すればいいんでしょ、参加すれば。……魔法道具も使っていいって書いてあるし、存分に暴れてやるわ」


 悪魔の悪戯心のせいで、結局参加と相成ってしまったが。やるなら徹底的にやってやると、別方向の負けん気を発揮するミアレット。魔法だけならばともかく、魔法道具込みであれば十分に勝算もある。


「そう言えば、ランドルもそんな事を言ってたわね。ミアレットも魔法武器を持ってて、それがかなり凶悪なんだって……」

「う、うん……」


 尚、ミアレットもランドルも、獲得した魔法武器がアンジェの黒歴史部屋から発生したことは伏せている。そもそも、彼女の心迷宮で黒歴史部屋を発見してしまったこと自体、内緒にしているので……アンジェにしてみれば、「いいなぁ」で終わってしまう内容ではあるが。


「ミアレットも武器をお持ちなの……?」


 だが、お誘い側にしてみれば「いいなぁ」では済まない。まさか、下級生が魔法武器を持っているなんて。それこそ、嘘だと願いたいが……。


「え? えぇ……一応。心迷宮攻略の時に、見つけたものがあって。……私がウォーメイジとか物騒なクラスなのは、その武器のせいなんですよ……」

「そ、そうでしたの……」


 最終的には「ミアレットを武闘会に参加させる」目標は達成したお嬢様方だったが。モリリンの目論見を根底から崩しかねない事実が発覚したとあっては、トホホと肩を落とすミアレットを見送りつつ……完璧に当てが外れた彼女達も同じく、肩を落とす。

 そう、モリリンが自信満々で企画書を提出し、ミアレットに挑戦状を叩きつけたのは「自分達側だけが魔法武器を使える」と思い込んでいたからだ。それなのに、ミアレットも武器を持っているとなったらば。モリリンは元より、あぶれた良縁のお裾分けを狙っていた彼女達の旨みもなくなってしまう。


(とにかく、モリリン様に報告しましょうか……)

(そうね……。でも、大丈夫かしら。ミアレット、ウォーメイジとかって言ってたわよ?)

(それってつまり、武器の習熟度もあるってことよね……)


 しかも、彼女の参加は副学園長先生の差し金で確定してしまっており、今更「やっぱり参加しないで」は通用しない状態だ。どうやら……引くに引けない状況になったのは、モリリン陣営の方らしい。

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― 新着の感想 ―
アケーディア先生が背中を後押し。 もう天使のお姉様がたにも連絡が行ってそうな予感がしますし、ミアレットさんが参加しないという選択肢はありませんねー(笑)
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