表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
29/325

1−26 無限大の可能性

(ミア殿! 次が来ましたぞ!)

「は、はいッ!」


 刹那の記憶に触れて、物思いに耽るミアレットだったが。次の欠片が放出されたことを知らせる、是光の声で我に返っては、少しばかり慌ててしまう。そうして、とにかくエルシャを呼ばなければと、急いで大声を張り上げるが……。


「エルシャ! ここよ! さ、こっちに戻ってきて! ……あれっ?」

(どうやら、聞こえていないようですな。今度は少し、近づかないといけなさそうです)

「……えっ? 近づく……んですか? あの状況で……?」


 二番手の欠片は距離が遠すぎて、ミアレットの声が届いていないらしい。確かに、先程確保した光よりは遠くに輝いている気がしないでもないが……問題は、欠片が漂っている場所に近づくには、明らかな激戦地を乗り越えなければならないという事で……。


「……えぇと、防御に使えそうな魔法、あったかな……?」


 しかし、残念なことに……風属性の初級魔法には防御魔法は存在しておらず、ミアレットが発動できる中には、守備に有用そうなものはない。マモンは戦闘の最中であるし、これ以上は足を引っ張るわけにもいかないと、ミアレットはまたもウンウンと唸ってしまう。


(ミア殿、ウィンドトーキングは使えますか?)

「えっ? えぇ、そのくらいなら……」

(でしたら、そのウィンドトーキングを使うのです。ウィンドトーキングで辿るべき経路を確認し、何も考えずに走りなされ。守りはこの是光にお任せあれ!)


 是光の思いがけない言葉に、ミアレットは面食らってしまうものの。マモンの刀は自我と一緒に、相当の知識も持ち合わせている様子。持ち主が風属性ということもあるのだろうが、ミアレットが使えそうな魔法をピックアップしては、建設的な提案を出してくる。


「分かりました! 私、やってみます! えぇと……!」


 実戦での魔法行使は初めてだが。ウィンドトーキングは風属性における、基本中の基本とされる補助魔法である。仕方なしに、勉強熱心にならざるを得ないミアレットはもちろん習得しているし……一応は、何度か発動したことのある魔法でもあった。


「空虚なる現世に、風の叡智を示せ……我は空間の支配者なり、ウィンドトーキング! で、できました、是光さん!」

(うむうむ、上出来ですよ、ミア殿。して、魔法の効果はいかがですか?)

「大丈夫です。……何となく、経路も把握しました。なので、後は……走るのみッ!」

(承知ッ! 防御は某に任せ、ミア殿は走り抜くのです!)


 相手は面影らしい面影さえ見当たらない、魔法道具のはずなのに。是光の鞘が傾いた仕草に、なんとなく彼は頷いているんだろうなと想像しては、ミアレットも力強く頷き返す。そうして、一目散に走り出す!


(実際に魔法を使うって、こういう事なんだ……!)


 疑心半疑という訳ではないが。ミアレットは今ひとつ、是光がウィンドトーキングを指定してきた意図を理解できていなかった。しかし、実際に魔法を使ってみれば、彼の意図を疑う事が馬鹿馬鹿しいくらいに、効果は覿面。手に取るように、風がミアレットに安全な経路を伝えてくる。

 タイルの道が脆いところ、霊樹ベビーが踏み荒らして、穴だらけになった場所。風の流れを読み解いては、障害になりそうな悪路を避けながら。ミアレットは精一杯、真っ黒な芝生の上を駆け抜けた。


「エルシャ! こっちに戻っておい……キャァ⁉︎ こ、是光さん!」

(なんぞ、これしき! 某のことは気にせず、しっかりと友の名を呼ぶのです!)

「はっ、はい!」


 グラディウスの攻撃はますます熾烈になっており、マモンを捉え損ねたらしい流れ弾が、周囲に容赦なく降り注ぐ。そんな流れ弾を、いつの間にか抜き身になっている是光がしっかりと防いで見せた。どうやらミアレットを守り抜くという彼の宣言は、なまじ嘘でもないらしい。


「とにかく、私はできることに集中しなきゃ……! エルシャッ! こっち、こっち!」


 さっきまでいた地点より、瘴気が濃いのも……確かに、感じる。しかしながら、ここは負けていられないと、ミアレットは声を張り上げた。幸いにも、今度は無事に欠片に声が届いた様子。心許なくふわふわと浮かぶばかりだった光が、ようようミアレットの方へ向かってくるが……。


「……⁉︎」


 しかし。生憎と、声を聞き届けたのはエルシャの魂だけではなく、グラディウスにも届いてしまったらしい。その上、ミアレットが明らかに「自分にとって都合が悪いこと」をしでかしていると認めるや、否や。悍ましい咆哮をあげると同時に、腕を振り上げて……そのまま、垂直に振りかざしてくるではないか。


「あわ、あわわわわ……!」

(ミア殿、逃げるのです! 早くッ!)


 そうは言われましても。迫り来る恐怖を前にして、咄嗟に駆け出すなんて、運動神経もごくごく普通の少女には無理である。ガクガクと膝を笑わせては、ミアレットはその場で蹲ってしまう。

 

「させるかッ!」

「キャァッ⁉︎」


 マモンの鋭い言葉と一緒に、ミアレットのすぐ鼻の先を強烈な突風が駆け抜ける。彼のあまりに鮮烈な攻撃はグラディウスの腕を捥ぎ、ミアレットの体をいとも簡単に浮かせては、遥か上空へ吹き飛ばす……。


(ちょ、ちょっと待って! おっ……落ちるぅぅぅぅ⁉︎)


 舞い上がった後は、ただただ落ちるのみ。今度はヒュルルルと情けない風音をさせながら、ミアレットの体は急降下をし始めた。


「舞い遊ぶ風よ! 乱れ吹く嵐よ! 鎖となりて、我が手に集え! したたかに紡げッ! ウィンドチェイン……エイトキャスト!」

「へっ……?」


 なす術もなく落ちていくミアレットを助けようと、すぐさま展開されたのは……拘束魔法のはずのウィンドチェイン。しかし、連結された風の鎖は丁寧に編み込まれており、彼女の着地点に柔軟な風の網を作り出していた。


(す、すごい……! ウィンドチェインに、こんな使い方があるなんて……!)


 工夫と才覚次第では、魔法のアレンジも可能。この世界の魔法は無限大の可能性を秘めている。

 そう、魔法学園で教えられても……ただ漠然と、ミアレットは聞き流していたけれど。しかしながら、こうも鮮やかにアレンジ例を見せつけられたら、納得をせざるを得ない。しかも……。


(こんな状況でも、マモン先生は余裕なんだなぁ……あは、あははは……)


 大悪魔様は戦闘におけるスキルも、格が違うものらしい。自らに降り注ぐ攻撃を防ぎつつ、ミアレットのピンチをフォローした上に、部下にもきっちりと叱咤を飛ばしてくる。


「おい、是光! テメー、何をボサッとしてるんだ!」

(面目ありませぬ、お館様! しかし……)

「言い訳は後でいい! これ以上、ミアちゃんに無理をさせるんじゃねーぞ!」

(しょっ、承知! ところで、ミア殿。大丈夫ですか? それと……欠片は?)

「大丈夫です。……私も欠片も無事です……」


 ミアレットの手のひらの上で、先ほど確保した1つ目の欠片と、2つ目の欠片とが混ざり合うように融合する。そして……またもエルシャの記憶と思しき、映像をミアレットに見せ始めた。


“貴族だから、魔法を使えて当然……”

“そうは言われても、できないものは、できないもん……”

“お父様も、お母様も……別にできなくていいって、言ってくれるけど……”

“お兄様に馬鹿にされるのは、少し辛いかも……”


(……そっか。エルシャはずっと前から、セドリックに見下されてきたのね……)


 そのままでもいいよ。

 そう言ってくれる両親がいる事が、彼女にとっては幸せだったと同時に……不幸でもあったのかもしれない。もし、彼女の両親に「少しでも頑張ってみようか」と、エルシャを励ます素養があったのなら。彼女も最初から努力を放棄することもなかったのかも……と、ミアレットは考えてしまうのだった。

【魔法説明】

・ウィンドトーキング(風属性/初級・補助魔法)

「空虚なる現世に 風の叡智を示せ 我は空間の支配者なり ウィンドトーキング」


魔法効果範囲内の空間把握を可能にする、補助魔法。

風の流れがどこで遮られたかを術者が感じ取る事で、効果範囲内の空間の構造や遮蔽物、魔力の流れを把握する事ができる。

主に経路確認に使われる魔法だが、隠し通路や経路の脆い部分を発見することもできるため、この魔法を使えるかどうかで、探索の難易度が変わると言っても過言ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ