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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−7 魔力の裏事情

 更に更に、深く深く。キュラータは昏睡の深海に身を預けたまま、記憶の奔流に身を預ける。

 結果的に、リュシアンは自分の両親やアルフレッドの父を計画的に抹殺せしめたと思われるが。それにしたって、リュシアンは当時5歳。そんな子供が馬車に細工を施し、自分の親を谷底へと葬ったなんて聞いたらば、人はせせら笑うだろうか。だが……。


(リュシアン坊っちゃまは、何かを隠しておいでだった。きっと、自身の変化にまつわる何かを……)


 そもそも、リュシアンの魔力の目覚めは少しばかり不自然だった。魔力を目覚めさせてからというもの、リュシアンは異常なまでに「賢い子供」に成り果て、子供らしさを丸ごとどこかに捨ててきたようにさえ思える。


(事故の直前、リュシアン坊っちゃまは流行り病で高熱を出されて……。連日、お医者様がお見えになっていましたっけ)


 病名までは、キュラータの記憶になかったが。貴族を中心に大流行したことから考えても、魔力因子絡みの流行り病であることは、なんとなく予想できる。そして、その流行り病で多くのクージェ貴族が命を落としたが……奇跡的にリュシアンは病を克服し、その後、唐突に魔力適性を獲得したのだった。

 それからというもの、リュシアンは幼くして魔力適性を開眼させた「天才」と持て囃されるようになっていく。しかし……色々と魔力の裏事情を知ってしまった「今のキュラータ」には、彼の魔力適性は自然開花ではないだろうことは想像に難くない。


(あの時は、まるで中身が入れ替わったかのようだった。おそらく、リュシアン坊っちゃまは……)


 本当は、流行り病で命を落としていたのではないか? 本当は……あの時にリュシアンの「中身」は誰かとすり替わっていたのではないか?

 周囲の大人達やアルフレッドも含めて、リュシアンの急激な精神の成長は魔力適性を開花させたからだと、錯覚していたが。こうして魔法生命体として、自由自在に魔法を使う身になってからは、はっきりと理解できる。……リュシアンの魔法への順応性は異常だった、と。


(現代のように、魔法の使い方を教えてくれる教育機関があれば、話は別でしょう。ですが……復興期のクージェには、魔法学園の分校はなかったはずです。それなのに……リュシアン坊っちゃまは、当然のように上級魔法を使いこなしていました)


 しかも、リュシアンは粗末な屋根裏部屋に追いやられ、従姉妹達に鞭を振るわれても……僅かな抵抗さえしようともしない。あれだけの魔法を使えれば、叔父一家に一思いに報復もできただろうに。しかして、リュシアンは子供らしからぬ我慢強さで耐え抜いてみせたのだ。


***

 時折、思わしげに眉を顰める以外は、キュラータの寝顔は穏やかである。普段の尖り過ぎている表情さえも緩めて、かすかに寝息を立ている以外は……不気味なまでの静寂を保っていた。


「まぁ、キュラータがこんなに深く眠っているなんて。そう言えば、色々とお仕事を押し付けてしまっていた気もしますし……よほど疲れていたのですね」

「いやいやいや、ルエルさん。これ……多分、そうじゃないからな?」


 いくらベースに機神族の性質を受け継いでいたとしても。ここまでの昏睡状態は、流石によろしくないのでは?

 花騎士ワールドで心ゆくまで恋愛脳を満たしたルエルが、ようやくキュラータの異変に気づくが。彼女が漏らした感想に、思わずツッコミを入れるハーヴェン。


「そうなのですか? ですが、キュラータの魔力反応は正常ですし……私には、そこまで具合が悪そうには見えませんわ」

「うーんと。キュラータさんのこれは、純粋に具合が悪いんじゃなくて……」


 そこまで言いかけて、ハーヴェンはまたもどうしたものかと、思い倦ねる。結局のところ、キュラータの不調については憶測の域を出ていない。正確な状況が分からない以上、誤解を与えそうな内容は避けるべきと判断すると同時に……ルエルは意外と、悪魔の事情には疎いのだろうかと困惑してしまう。


(天使様達は悪魔の成り立ちは把握していたはずだし、ルエルさんもキュラータさんが記憶喪失なのも知っていたと思うが……。この反応となると、あまりピンと来てないんだろうなぁ……)


 いずれにしても、彼が目覚めるまで待つしかないか。目覚めた時に、どのくらいの事を「思い出してしまっているか」が焦点になりそうだが……こればかりは、無理やり起きろと言えるはずもなし。中途半端にしたところで、却ってキュラータを苦しめることにもなりかねない。


「仕方ありませんわね。ヴァルヴァネッサ様にも、お部屋をご用意いただいていましたし……今夜はそちらに泊めていただきましょう。キュラータを移動させますわ」

「そうだな。それじゃ……」


 キュラータを休ませても良しと、契約主の判断もいただいたところで、ハーヴェンは当然の如く、キュラータを移動させるのは自分の役目だと手を差し伸べようとするが。……それよりも早く、ルエルがツカツカとキュラータの元に歩み寄ると同時に、軽々と担ぎ上げる。


「あらあら。縦に長い分、意外と重たいですわね……。ふふ、しっかりと詰まっているようで、頼もしいこと」

「えっ……?」


 いやいや、意外と重たいでだけで済ませられる目方ではないだろう、キュラータは。身長はハーヴェンと同じくらい、少なく見積もっても180センチはある。いくら細身とは言え……どう頑張っても、微笑混じりで軽々と担げる相手ではない。


(ハ、ハーヴェン! あれ、どうなってるんだよ⁉︎)

(うん……驚かせて、ゴメンな。ルエルさんは、普段からかなり鍛えているみたいでな。あの位は普通なんだろう。それでなくとも、天使様達は猛者揃いだし……)

(そうなのか……?)


 涼しい顔でキュラータを運び出していくルエルの背後で、ヒソヒソとやり取りをするハーヴェンとイグノ。因みにと、ハーヴェンが更に恐ろしいと呟くことには。……彼のお嫁さんは悪魔モードのハーヴェン(丈4メートル程)を左ストレートで軽々と吹っ飛ばし、ありとあらゆるものを拳1つで粉砕する、凶悪な豪腕の持ち主なのだとか。


(嘘だろ……? あの幼女ちゃんのどこに、そんな馬鹿力があるんだ⁉︎)

(アハハ、俺もそう思うよ。……でも、悲しいことに事実なんだよなぁ。天使様は基本的に、怒らせると怖い生き物なんだ)

(マジで? それはそうと……ハーヴェン、お嫁さんの尻にガッツリ敷かれてる感じか?)


 イグノの遠慮のない指摘に、ハーヴェンは困ったように頭を掻いているが。彼曰く、お嫁さんのお尻に敷かれるのにも慣れてしまったそうで。……天使と悪魔の組み合わせとなると、契約と彼女達の凶暴性の関係上、どうしてもそういうパワーバランスが出来上がってしまうものらしい。


(天使って、かなり凶悪なのかも……。俺、逆らわないようにしとこ……!)


 イケメン枠でストーキングされるのは、百歩譲って、まだいいかも知れないが。罪人枠でお仕置きされるのは、冗談でも洒落にならない。


「キュラータさんはリュシアンについて、何か知ってそうだが……それはそれだ。俺達はとにかく、フィステラさんがどんな状況で深魔になったのかを確認しないと。キュラータさんはルエルさんにお任せすれば大丈夫だろうし、調査を続けるぞ」

「あっ、そうだった。……リュシアンに気を取られてる場合じゃないよな」


 魔法学園から調査の指令があった時にも、それとなく「怪しい魔力の動き」についての前置きはあったが、深魔発生の予兆は確認されていない。深魔調伏を達成したとは言え、謎は残ったまま。フィステラが深魔になった原因究明こそが、ハーヴェンとイグノの最優先ミッションである。……それこそ、天使様達の凶暴性に怯えている場合でもないのだった。

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― 新着の感想 ―
やっと天使様がやばいことに気づいたのね、イグノ君! リッテルさんとか、天使のお姉さまたち口説こうとしたりなめた態度とってましたけど笑、無事で(相手にされてなくて)よかったね、イグノ君! でも、いいんだ…
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