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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−2 霊樹としての権能

「そう言えば……キュラータさん、大丈夫かなぁ。クージェの調査をしているんですよね?」


 エントランスから脱出せしめたはいいものの。ミアレットは別の懸念事項に首を傾げている。

 ガラが女子生徒の群れに孤軍奮闘を強いられていたのは、ルエルに伴われて、キュラータがクージェの調査に出かけてしまっているからだった。きっと、キュラータがいれば体よく女子生徒達を追い払っていたに違いない。


「キュラータ殿はルエル様と同行されているので、無論、無事でしょうが……確かに、彼の様子には気がかりな部分が多かったですね。今回の調査に同行を願ったのは、ルエル様の命令ではなく、キュラータ殿の希望でしたし。様子から察するに……キュラータ殿にはクージェに何かしらの思い入れがあるのではないかと、思います」

「あ、やっぱりそうなんですね? キュラータさん、前にもクージェに来たような事を言っていましたし……」

「ふふ……流石はミアレット様。きちんと気づいておいででしたか」

「えっとぉ? 別に大したことは言ってませんよ?」


 いつも通りにしっかりとミアレットを褒めつつ、カテドナが言う事には。キュラータのクージェに対する執着には、悪魔のそれを思わせるのだそうで……。


「悪魔は闇堕ちの際に記憶を封印……有り体に言えば、記憶喪失ですね……の状態になりますが、残される記憶の量は、生前の欲望や希望への固執度合いに比例します。当然ながら、固執の度合いが深い程、記憶喪失時の苦痛も深くなるのですが……それはさておき。封印された記憶の残量が多い悪魔程、抱えている喪失感も大きいため、少しでも自身の記憶に掠りそうな物事や人物に遭遇すると、異常なまでの執着を見せる傾向があるのですよ」


 キュラータが端々でクージェを知っていそうな様子を見せていたため、それなりに因縁のある場所なのだろうと、カテドナは話を結ぶ。キュラータの成り立ちは悪魔のそれとは同一ではないため、執着のレベルがどこまでのものなのかは、カテドナには分からないものの。もし、仮に……キュラータが生み出された方策が、ヨルムツリーのそれを踏襲しているとするならば。眠っている記憶に掠る出来事があった場合、相当の違和感を感じているのではないかと、推測したりもする。


「……霊樹・グラディウスは知っての通り、霊樹戦役を経て暗黒霊樹となった、やや新し目の霊樹です。しかし、既に神と名乗る者がおり、キュラータ殿やガラ殿のような悪魔にそっくりな魔法生命体を作り出していることを鑑みても、霊樹としての権能は保持しているのでしょう」

「霊樹の権能……?」

「えぇ。……魂を収集し、懐に収めることで、眷属を生み出す権能です。神界の霊樹・マナツリーにしても、魔界の霊樹・ヨルムツリーにしても。天使や悪魔を作り出すには、魂という材料が必要になるのですよ。魂の質によって、生み出される者の能力は多少上下しますが、これらの魂はみな……記憶の消去を拒むあまり、輪廻の輪から弾かれ、正常な循環のルートから外れた者なのだとか」


 精霊の出現はそれぞれの霊樹の魔力に適応し、順応することが条件とされており、彼らのそれは「転生」ではなく「変化」でしかない。だが、天使と悪魔はそれぞれ「転生」……つまりは、「死」という人生の終焉を一度迎えている事が条件であるが、殊、悪魔に至っては欲望を強く残すあまりに、ヨルムツリーへと迷い込んだ魂を大元としているがために、自然と輪廻の輪から外れてしまうものなのだと言う。


「天使様の転生は、魂が清らかな者に限られる……かどうかは、疑いの余地がありますけれども。天使への転生はマナツリーがあらかじめ見定めた少女のみに限定されるので、必要以上の眷属を作り出すことはありません。なので、こうして輪廻の輪から外れた魂は大抵、魔界に流れるものなのですが……おそらく、グラディウスへと流れてしまう者が出てきたのでしょう。キュラータ殿を見ていても、彼は本来、悪魔になるはずだったのではないかと愚考いたします」

「ほえぇ……。なんか、難しい話になってきましたね……」


 悪魔から「清らかかどうかは疑わしい」なぞと言われてしまっている、天使様達の立場はさて置き。カテドナの予想が正しければ、キュラータやガラは本来悪魔になっていたかも知れない存在であり、彼らの実力差は魂の差だと読み替える事もできるが……。


「あぁ……それは確かに、言えてるかも知れないっす。だけど……ちょっとだけ、言い訳させてもらいますと。キュラータ先輩みたいな幹部クラスと、俺達みたいな下っ端はそもそも、魂以外の材料も違うんすよ……」

「そうなのか?」

「そうなんす。俺やメローみたいなアップルフォニーって言われる奴は、黒いリンゴになり損ねて、間引かれたリンゴを大元としてましてね。失敗作なもんで……最初から、魔力が少なめなんすよ。一方で、キュラータ先輩達はグラディウスの一部を使って作られているとかで、魔力も実力も最初から桁が違うんす。もちろん、魂ってものは搭載されているんすけど……この差別がどこからくるのかは、知らされていないっすね」


 区別ではなく、差別。やや自嘲混じりで肩を落とすガラではあったが、彼の話によると、どうやらグラディウスの眷属達にも階級による差があるらしい。この辺りは悪魔の序列にも似ているし……あながち、グラディウスの眷属創生のモデルはヨルムツリー寄りなのかも知れないと、ミアレットは勘繰ってしまう。


「自分を失敗作だなんて言うものではないよ、ガラ君。……僕は君達のおかげで、こうして無事に元の世界に帰ってこれたんだ。僕はガラ君達が失敗作だなんて、思っていない」

「……そう言ってもらえると、相棒も浮かばれるっすね。ま、これからもできることしか、できませんけど。人間界で王子様の護衛くらいは、ちゃんとできるよう頑張るっす」


 ナルシェラに慰められ、ほんのりと笑顔を浮かべるガラではあったが。……それでも、キュラータがいない状況に不安は拭えないようで、すぐさま悩み顔に逆戻りする。


「しかし……どうしましょうかねぇ、これから。俺、女の子達から王子様達を守る自信、ないっすよ……」

「何を気弱な事を。……目障りなハエは叩き落とせばよろしいのでは?」

「いや、それはダメでしょ……。女の子達を蹴散らしたら、色々と問題になるっすよ。カテドナさんは、本当におっかないんだから……」


 そうですか? ……と、あっけらかんと答えるカテドナではあったが。彼女の場合、本当にやらかしそうだから恐ろしい。


「うーん。ガラさんがもっと強気に出たら、いいんじゃないんです? 手を出さないにしても、キュラータさんみたいに睨みを効かせるとか……」

「……いや、あれを真似するのも、無理っすよ……」

「まぁ、キュラータは背が高い上に、表情もキツめだったからなぁ。ガラ君は外観が優し過ぎるのかも知れないな」

「いやいやいや……キュラータ先輩と比べられたら、大抵の相手は優しい部類に入りますって」


 ガラの力ない弁明に、「それは確かに」とディアメロがプッと吹き出す。普段であればディアメロにピタリと寄り添っているはずの強面執事がいないとあって、令嬢達の王妃レースが白熱しているのは、否めない。しかし、いないものはいないなりに対応しなければ、彼女達の猛攻をやり過ごすのは難しいだろう。

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― 新着の感想 ―
「目障りなハエは叩き落とす」ははは、カテドナさんさすが! 相変わらず敵に回したくないわー笑
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