6.5−5 俺だけいのちだいじに
「さて……と。最後の仕上げと行こうかな。……メインディッシュにしては、趣味が悪すぎるけれど。これも仕事だ、仕方ない」
「ハーヴェン、これをよく仕事で片付けられるな……」
Gをミンチだぞ? Gをミンチにするんだぞ……? 普通サイズのアレでさえ、潰すのを躊躇するのに。
(ヴっ……別の意味で、気分が悪くなってきた……!)
特殊祓魔師って、こういう事もできないとダメなのか……? ハーヴェンもさっき、巨大Gは遭遇自体が珍しいって言ってたけど。現に、こうして直面しているわけだし……何より、もっとグロいモンスターがいないとも限らない。
(こんなの、慣れたくもないけど……今のうちに慣れておかないと、精神的に参っちまう……!)
でも、さ。考えたら……前の世界でやっていたゲームとかだと、普通にグログロなモンスターもいっぱいいた気がするんだよな。ゾンビも普通だったし、半分腐ってるモンスターとか、内臓丸出し系のモンスターとかもいたし。だけど、それは画面越しで見ていたから、平気だったわけで……。
(そうか、そうだよな……これが現実だよな。ゲームをしているのとは、訳が違うよな……)
ダイナミックに伝わってくる嫌悪感と、ダイレクトに伝わってくる臨場感。温度に湿度、匂い……そして、恐怖。今まで、ゲーム感覚で攻略に参加していたけど。……俺、ちょっと魔術師の仕事を甘く見ていたかもしれない。
「さて、と。凍結効果が完璧に切れる前に……トドメを刺すとしようか。一応、あまり飛び散らないようにするけど……ペッチャンコシーンはちょっと、刺激的かもなぁ。イグノ君、目を瞑ってていいからな」
「いや。ちゃんと見ておくよ。……見るのも仕事のうちだと思うし」
「お? うん……そか。そんじゃ、ちゃんと見学していてくれよな」
俺がちょっと決意を新たにしたのを、見透かしたんだろう。ハーヴェンは何も聞かずに、俺をそっと抱っこし直すと……素早く、呪文を唱え始めた。
(こいつ……見た目は悪魔でも、中身は善人なんだよなぁ。凄腕だって言われる割には、偉ぶってる様子もないし……)
正直なところ、ハーヴェンの強さは突き抜けている気がする。俺もそこそこ大活躍していたと思うが、最終的にはハーヴェンがなんとかしてくれていたりするし。……最初は「このチート野郎め!」とかって、思ってたけど。やっぱり、チートは幻想だったようで。今となっては、ハーヴェンの強さはガチだってのも、理解させられている。
(ミアレットもこの世界にチートはないって言ってたし……やっぱ、地道に頑張るしかないのか?)
しかし、さぁ。こうも優しくされると、甘えたくなるだろうよ。ちょっと頑張ってもいいかって思ったけど、まだまだラクしたいし。……しばらくはハーヴェンにくっついて、生き延びられるように頑張ろう。俺だけいのちだいじに。うん……我ながらに、なかなかいい作戦だお。
「海王の名の下に、憂いを飲み込み……母なる奔流とならんことを! 全てを青に染め、静寂を示せ! ブルーインフェルノ‼︎」
俺がワンダフルな作戦を立てているのを知ってか、知らずか。ハーヴェンはしっかり、攻撃魔法を発動させたようで。奴の魔法が展開されたと同時に、上空に描かれるのは……巨大な青色の魔法陣だった。そして、その魔法陣からシュパシュパと鋭い音を響かせて、尖った何かが大量に降ってきて……!
「ハーヴェン、これ……どんな魔法なんだ?」
「ブルーインフェルノは水の刃を大量に作り出して、降らせる攻撃魔法だ。水は極限まで圧縮すると、鋼をも貫く鋭い剣になるが……ここまで滅多刺しにされたら、いくら防御も硬い最上位種とは言え、後腐れなくお陀仏だろう」
これだけの豪雨なら、否応なしにミンチなんだろうけど。透明度は高いのに、視界が真っ白になるレベルのゲリラ豪雨は俺の気分を害する間もなく、あの巨大Gを容赦なく貫き……攻撃魔法が収束する頃には、汚物共々、綺麗さっぱり水に流されていた。
「す、すげぇ……! 俺、ハーヴェンのこと、見直したかも……!」
「ハハ……それはどうも。見直してくれたようで、何よりだ」
きっと、もう悪魔でいる必要もないと思ったのだろう。俺をそっと地面に下ろすと、元の姿に戻るハーヴェン。だけど、大一番を制したというのに……表情は妙に冴えない。
「どうした? 何か気になることがあるのか?」
「うーん……ちょっと、な。今回のヤツは、魔法を使ってくる場面もなかったが。……本来、漆黒アプソロブラッティナは高レベルな魔法をガンガン使ってくるタイプの魔物でな。俺達の言葉とは体系が異なるが、知性だけではなく独自の言霊も持っていて。このレベルの魔物ともなれば、最終手段の前に、いくらでも攻撃手段があったはずなんだが……」
無事にボスを倒せれば、任務完了……とはならないのが、特殊祓魔師のお仕事なのだそうで。少なくとも、ボスを倒した時点で心迷宮攻略自体はゴールなんだけど、深魔発生の原因が分からない場合は、その調査もしないといけないらしい。
「えぇ〜……やっとクリアできたのに、まだ仕事あんの?」
「そう、グチグチ言いなさんなって。とりあえず、現実世界には無事に帰還できるんだし、イグノ君の初ダンジョンクリアのお祝いもしないとな」
「えっ、お祝いしてくれるの⁉︎ マジで⁉︎」
「当たり前じゃないか。帰ったら、スペシャルコースを振るまっちゃうぞ」
「おぉ〜!」
ハーヴェンは魔術師として有能なだけでなく、料理人としても凄腕らしい。なんでも、ハーヴェンの料理を直接食べられるのは、天使様くらいなもんだとか。男の手料理なんて、有り難みもない……と、思いがちだけど。超絶品と噂されるハーヴェンの料理は是非、堪能してみたい。
「心迷宮の収束が始まったな。……リザルトもしっかり出てるし、一旦は任務完了でいいだろう」
「そう言や……心迷宮って、お宝とか出ないのか?」
「イグノ君は抜け目ないなぁ。もちろん、あるぞ。ちゃんと山分けもしような」
「よっしゃ! 待ってました!」
***
発生対象:人間(成体)
発生日:人間界暦 2723年 7日
発生レベル:★★★★
報酬分配:シェア
最終迷宮性質:なし
最終深度:★★★★★★
戦果状況
ハーヴェン(クラス:プライマシーエクソシスト)
貢献度:78%
イグノ(クラス:ウィザード)
貢献度:22%
トロフィー
①アプソロブラッティナの薄羽 ×1
②深魔の破片・小 ×3
③コックローチケープ ×1
***
「……あの、ハーヴェン。なんか、戦利品……キショくない?」
「そうだなぁ……こいつはまた、かなりマニアックな物が落ちたな。それなりに貴重品だろうけど……」
Gの薄羽なんて、絶対にいらないし……コックローチケープも、字面からしてかなりヤバい。アレを連想させられるなんて、呪いのアイテムでしかないんだが。
「とりあえず、②は全部持っていくといい。深魔の破片は貴重な魔法道具素材になるから、持っていて損はないぞ」
「いいのか?」
「うん、構わない。俺は既に、腐るほど持ってるし……」
「……そっか。100年も特殊祓魔師をやってれば、そうなるよな。しかし、意外とかさばるな、これ……」
「そうだよなぁ。それじゃ……初陣突破記念に、俺から素敵機能をプレゼントしようかな」
今度は何をくれるんだ……? 期待一杯で、ワクワクと見つめていると。ハーヴェンが魔術師帳を操作しつつ、俺の魔術師帳に何かのデータを送ってくる。
「【アイテムボックス】……? こ、これは、よもや……!」
キ、キタコレ! ラノベでお約束の、チート機能・【アイテムボックス】! マジでナイス! マジで神対応なんだが⁉︎
「どう? これで、アイテム整理は問題なしかな?」
「そうだな! あっ、ありがとう……」
「うんうん。どういたしまして」
使い方も……うん、問題なさそうだな。よし、これからもジャンジャン心迷宮を攻略して、レアアイテムを一杯ゲットするぜ!
「しかし、これはどうするかなぁ。イグノ君、このケープ……いる?」
「絶対にいらん!」
とは言え、いくらレアアイテムでもG関連のアイテムはノーサンキューなわけで。そんな穢れた物体、俺の崇高なアイテムボックスに収納したくない。
「アハハ、そうだよなぁ。いかにも、それっぽいもんなぁ。こいつは俺の方で引き取るとするか。貴重な魔法道具には間違いないし……俺の親玉であれば、大喜びで着てくれるだろう」
無事に呪いのアイテムはハーヴェンに押し付けられたけど。しかし、これで大喜びするって、そいつの感性は大丈夫なのか? ハーヴェンの親玉ってことは、偉い悪魔なのかもしれないが。なんとなくだけど……俺、そいつとは絶対に友達になれない気がする。
【武具紹介】
・コックローチケープ(闇属性/防御力+51、魔法防御力+65)
クージェ第二王妃・フィステラの心迷宮より具現化した、魔法防具。
ゴキブリの羽を連想させる、茶色い薄衣を幾重にも重ねたような外観のケープ。
防御力はあまり高くないが、各種ステータス異常への耐性が微増する他、何を食べても腹痛を起こさない特殊効果を備える。
これを着ていれば、腐敗した水や腐った食料などを栄養源にできるため、極限状態においては頼もしい道具ではあるものの……当然ながら、気分は最悪である。




