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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6.5章】イグノ君、心迷宮に潜入する
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6.5−4 生肉を持ってくるタイプの隣人

「ギャぁぁぁッ⁉︎ たんま! たんまッ⁉︎ 俺は食っても美味くないぞ⁉︎」


 渾身のファイアボールを巨大Gに放ったまでは良かったが。油ギッシュなGに効果抜群だと思ったのに、ヤツは羽をバタバタさせて、アッサリと鎮火させやがった。しかも、俺をターゲットと認識したようで……強烈なスピードでこちらに突進してくるから、これまた堪ったもんじゃないぞ⁉︎


「あーあぁ、勝手に攻撃するから……」


 って、コラ! ハーヴェンもボヤいていないで、サッサと助けろ! 大体、こういうのは先手必勝だろ⁉︎ やられる前にやるのが、仁義ってヤツじゃないのか⁉︎


「紺碧の深淵、永劫の苦痛に身を委ねん! 氷土の交わりを持って絶望を知れ! グレイシャルフィールド!」

「ガヒュッ⁉︎」


 ……そうして、またも「やれやれ」と言いつつ、ハーヴェンが補助魔法を展開するが。奴の放った魔法は巨大Gを一瞬にして氷漬けにし、ついでにフィールド一帯も凍結させやがった。……よく分からんが、多分、すごい魔法な気がする。


「や、やったのか……?」

「……だといいけどな。ただ凍らせるだけで倒せるんなら、苦労はしないさ」

「へっ……?」


 ハーヴェンによると、あの巨大Gは非常にしぶとい上に、もの凄く悪趣味な特徴があるそうで。各種ステータス異常にも耐性がある上に、ちょっとやそっとでは完璧に駆除できない相手らしい。


「という事で、イグノ君。ほれ、俺に掴まって」

「えっ? えっ? えっと……?」

「凍結状態が解除されたと同時に、根こそぎ仕留める。でも、ちょっと攻撃範囲が広くなりそうだから……一緒に飛んじまった方が、安全だろう」


 いつの間にか、例の「悪魔な姿」になっているハーヴェンがちょいちょいと俺を手招きしている。掴まれって、要するに……奴の胸元に飛び込めばいい感じか? いや、確かにモッフモフな毛並みは抱きつき心地も良さそうだけど……。


(男の胸に飛び込むなんて、冗談じゃない……と、言いたいところだが。そんなことを言っている場合でもないか……えぇい、ままよ!)


 どうせなら、アレイル先生とかリッテルさんとか、包容力のあるお姉さんに抱きつきたかったなぁ。

 でも、今の俺は大ピンチなわけで。これまでの感じからしても、ハーヴェンには俺を騙そうとか、見殺しにしようとかって魂胆はなさそうだし、ここは素直に従っておいた方がいい気がする。何より……あのGと戦うなんて、俺には無理。もう、無理。


(しかし、抱きついてみたはいいものの……この絵面、妙にあの映画っぽくない⁉︎)


 うん、アレだ。まさにアレ。5月な姉妹が、となりのモフモフに抱きついて空中散歩を楽しむ、あのシーン。だけど、俺が抱きついた隣人が持っているのは、雨傘でも、オカリナでもなく……ムチャクチャ凶悪な感じの包丁で。こいつはきっと、お土産にドングリじゃなくて、生肉を持ってくるタイプの隣人だと思う。


「さて……やっぱり、始まったか」

「始まったって……」


 何が? と聞こうとしたところで、ふわりと浮き上がった先から大地を見下ろしてみれば。……さっきまで銀世界だった空間が、ジワジワと黒くなっていく。も、もしかして、アレって……。


「うぐっ……! 増殖してるのか……?」

「いや? 増殖していると言うよりは、孵化したって言った方が正しいな。……漆黒アプソロブラッティナが漆黒霊獣として出現する時は、大抵がメスの個体……しかも、卵持ちだ。ほれ、よく言うだろ? あの虫さんは1匹見かけたら、最低でも30匹はいるって」


 ……例の映画みたいに、素敵な森の空中散歩だったらよかったのに。眼下に広がるのは、緑の森じゃなくてGの森とか……ここ、どこの地獄だ? しかも、俺を乗せているのは猫なバスじゃなくて、地獄にピッタリな悪魔だし……。


「あの、さ。だったら、孵化する前に片付ければよかったんじゃないの?」

「うーん……それで任務完了にできれば、いいんだけどな。母体だけを倒しても、卵を残すと厄介な事になるんだよなぁ。心迷宮が収束した後に、何かの拍子で卵が現実世界に放り出されたことがあってさ。……特殊祓魔師が仕留め損なった卵が孵って、町1つが食い尽くされた事もあったんだよ」

「うわぁ……」


 あぁ……これ、モンスターパニックだったんだな。間違っても、素敵なハートフルファンタジーじゃない。


「だから、卵ごと根絶やしにしなければならないんだが。あの卵はどうやら、母体がピンチに陥った時……つまりは、種の存続が危ぶまれる時に孵化する仕組みになっているらしくてな。とりあえず氷漬けにしたのは、ピンチを錯覚させて、子供を先に吐き出させるためだったんだよ」

「えっ? って事は……大元はまだ生きているってこと? それこそ、サッサと倒しゃいいじゃん」

「そうだな。子供を吐き出させた後は、トドメを刺すだけだ。と言う事で……一気に仕掛けるから、しっかり掴まっていてくれよ? 振り落とされても、助けに行く余裕はないからな?」

「お、おぅ!」


 あの地獄にダイブなんて、死んでもゴメンだぞ……!

 俺は何が何でも生き延びなければと、ハーヴェンの黒い毛並みをしっかりと握りしめる。一方で、ハーヴェンも無慈悲に俺を落っことすつもりもないと見えて、左腕で俺の体をホールドし始めた。勢い、抱っこされる格好になったが……。


(……こんな時に、なんだけど。ヤベェ……! このモフの温もりと安心感、マジでヤベェ……!)


 うん、これはこれで悪くない。ハーヴェンが素敵なお姉さんじゃないのが残念だが、この調子なら俺は死なずに済みそう……


「グルルァァァッ!」

「ヒッ⁉︎」


 なんて、俺が安心しかけたのも束の間。すぐさま真上から野太い唸り声が上がるもんだから、驚いちまったじゃないか。


(……ハーヴェンって、冗談抜きで悪魔だったんだな……)


 恐る恐る、声がする方を見上げれば。それはそれは恐ろしい、牙剥き出しの悪魔の顔が目に入る。しかも、すぐそこでヒュンヒュン言ってるんだよ、あの包丁が! 刃渡りが1メートルくらいある包丁が、軽々とヒュンヒュン振われているんだよ! 直接G共をぶった斬るではないにしても、ズバッと衝撃波みたいなのが飛び出して、ブンブン言ってるんだよ! その度にGの子供(これまた特大サイズ)が真っ二つにされたり、粉砕されたり、阿鼻叫喚な感じになっているんだけど⁉︎


(ヴっ……これはこれで、ひでぇ……! Gの集団処刑とか、悪夢でしかないぞ⁉︎)


 相手がデカい分、グロさもデカい。……ハーヴェンは慣れているのか、あっという間に母体以外を殲滅してくれちゃったけれど。……その後に残った光景は、見るも無惨な状況で。白銀の世界はGの死骸と体液とで、どす黒くベッチャリと汚れていた。


「さて……と。後は、大元を叩き潰すだけだな」

「叩き潰す……」


 叩き潰すって事は、グチャッとやるって事か? グチャッと粉砕するのか? あの3メートルはありそうなデッカいGを⁉︎


「アハハ、そう心配すんなって。ミンチにするのは、一瞬だから」

「ヒィッ……!」


 一瞬とか、そういう問題じゃなくてな。Gのミンチとか、字面的にもアウトだろ。


(……この隣人、やっぱり生肉を持ってくるタイプだった……。しかも、狩りたての新鮮なヤツ……!)


 もうやめて。俺の精神ライフはとっくにゼロよ! これ以上、グロな展開は本当にやめて。

【魔法説明】

・グレイシャルフィールド(水属性/上級・補助魔法)

「紺碧の深淵 永劫の苦痛に身を委ねん 氷土の交わりを持って絶望を知れ グレイシャルフィールド」


水属性の魔法にあって、攻撃魔法・ブルーインフェルノと並んで最上位の双璧をなす、補助魔法。

空気中の水分を極限まで凍結させ、防御魔法などの魔法効果・エレメントへの抵抗力・耐性を無視して氷結させる。

また、確実に対象へ「凍傷」のバッドステータスを負わせることができ、行動の大幅な制限・鈍化効果も期待できる。

効果範囲が非常に広い上に、効果時間も長いのが特徴だが、当然ながら、魔力消費量も膨大である。


・ブルーインフェルノ(水属性/上級・攻撃魔法)

「海王の名の下に 憂いを飲み込み母なる奔流とならんことを 全てを青に染め 静寂を示せ ブルーインフェルノ」


水属性において、最高威力を誇る攻撃魔法。

空気中の水分を最大限圧縮し、鋼鉄をも切断する「水の刃」を大量を降らせる。

「水を圧縮する」概念を究極まで昇華した攻撃魔法であり、水属性でありながら刃が高熱も帯びるため、この魔法による苛烈な攻撃を耐え抜いたとしても、対象に致命的な火傷を残す。

「地獄」を騙るに相応しい魔法であるが、大量の水を操る集中力と、空気中の水分を最大限に圧縮するための知識・経験・工夫が必要不可欠。

そのため、習得には並々ならぬ修練が必要であり、修行の道は地獄と見紛う程に険しい。

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― 新着の感想 ―
仕留め損なったGの卵が町を食い尽くす……ガクブルガクブル(;´Д`) 「冗談抜きで悪魔だったんだな」←ですね。普段は奥さんの尻に敷かているのでついつい忘れちゃいますね笑
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