6.5−1 武器に憧れるお年頃
章間の恒例、イグノ君の冒険譚をつらつらと。
今回はとうとう、彼も「心迷宮」へと足を踏み入れるようです……!
若き天才魔術師こと、俺・イグノは故郷のクージェに来ていた。里帰りした理由はもちろん、養父共からの帰ってきてコール……だったらよかったんだけどな。本当のお題目は、クージェ帝国の魔力調査。なんでも、クージェで怪しい動きがあったとかで、調査指令がハーヴェン宛に来たらしい。だけどタイミング悪く、「深魔」とやらが発生したため、そのまま緊急出動になって。俺も特殊祓魔師のサポート役として、「心迷宮」なるダンジョンに華麗に潜入! ……していたはずなんだけど。
「うわぁぁぁッ⁉︎ お、俺は食っても美味くないぞ⁉︎」
俺は今まさに、真っ黒な狼の群れに追いかけ回されている。初めての迷宮でテンションぶち上げだと思いきや、初っ端からモンスターに襲われるなんて、聞いてない。
「だから、勝手に進むなって言ったのに……」
いや、だってさ! そっちの角に宝箱とか、ありそうだったんだもん! ダンジョンは別れ道の片方は行き止まりで、宝箱があるのが鉄板だろ⁉︎ 一流ゲーマーな俺にとって、お宝回収率100%は当たり前なんだよ!
「静謐の淀みを携え、我が手に宿れ! その身を滅さん、アクアボム!」
やれやれと言いつつ、ハーヴェンが攻撃魔法で狼の半分を一掃する。そうして、次の瞬間……デッカい包丁らしき武器で、残りの狼を一刀両断にしやがった。
(く、くそ……! 俺にも武器があれば……!)
なんでも、この「心迷宮」と呼ばれるダンジョンでは、魔法自体が使えなくなる事もあるそうで。超エリート・特殊祓魔師になるには、武器も使えないとダメなんだとか。だったらば、俺も格好いい武器をゲットしようと宝箱を探そうと思ったのに。……ったく、モンスター共め。出現するんなら、俺が格好いい武器を手に入れてからにしろよ。
「ほれ、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
差し出された手に、仕方なしに素直に従ってやるけれど。引っ張られるついでに、ヤツの持っている武器が目に入って、とにかく羨ましい。せめて、剣の1本でもあればなぁ……。
「そか。無事で何よりだ。頼むから、次からは勝手に進まないでくれな。無鉄砲に進んでたら、命がいくつあっても足りないぞ?」
「……でも、このままだと俺は役に立てないままだし……。武器があればいいなと思って、宝箱を探そうと……」
「アハハ……そっか、そっか。イグノ君も武器に憧れるお年頃だったか」
そんなの、当たり前だろ! 男なら、剣を握ってナンボだろ!
「それじゃ、折角だ。心迷宮初挑戦を記念して、俺から武器をプレゼントしようかな」
「えっ?」
って、マジ? ハーヴェン、俺に武器をくれるのか? どんな武器? どんな武器なんだ⁉︎
「イグノ君はどんなのがいいんだ? と言いつつ、手持ちは2種類しかないけど……剣か槍だったら、どっちがいい?」
「えっと……」
ここは「剣で!」と言いたいところだが、槍も捨てがたい。槍は大抵のゲームだとリーチがあったりして、何かと便利で強キャラが使っている印象がある。うーん……あっ、そうだ。まずは、ちょっと見せてもらおうか。
「因みに、どんな感じか見せてもらえたりするのか?」
「あっ、それもそうだよな。実際に持ってみなきゃ、実感も湧かないよな」
どこもかしこも真っ黒な壁に覆われたダンジョンを進みながら。ハーヴェンが器用に2種類の武器を呼び出してくる。そうして、目の前に出された武器は……どっちにするか迷っちゃうくらいに、カッチョ良かった。
「まずは剣の方。こいつはアルマス。実在したらしい勇者・ハールが愛用していた剣だ。リンドヘイム聖教が保管していたのを、ルシエルが取り戻してくれて……武器としてのエレメントは光属性だぞ」
おぉ! いきなりアタリ武器キター! 勇者の剣だなんて、俺にピッタリじゃないか! 純白の神々しさに相応しく、属性は光のハイエレメント……! こいつは超レアアイテムに違いない!
「うぐ……既に格好いいんだが……? い、一応、槍の方も見せてもらっていいか?」
「もっちろん。槍の方はロムルス。リンドヘイム聖教の教皇が代々受け継いでいた聖槍だったんだが……色々とよからぬ事に使われまくったせいで、呪われちまってて。闇属性持ちになってるな。あっ、心配しなくても、嫁さんの手でお清めは済んでいるから。呪われるなんてこともないし、そこは安心してくれ」
クッソ……! 槍もバチクソに格好いいぞ……! 真っ黒なボディに、呪われてたってディテールがなんか、こう……ワクワクするんだが……! しかも、メッチャクチャ強そうだし……!
「これは悩むな……!」
「あぁ、すぐに決断しなくてもいいぞ。とりあえず……最初はアルマスから使ってみるか? 両方使ってみて、合う方を選べばいい」
「神……! マジで神対応……!」
俺、初めてハーヴェンを尊敬しているかも……! 武器をくれるだけじゃなくて、試し斬りまでさせてくれるなんて。しかし……コイツ、本当に悪魔なんだろうか。俺を騙そうって雰囲気もなさそうだし、無害すぎるにも程がないか?
「神対応って、大袈裟な……。まぁ、とにかく、だ。じっくり悩んでくれていいし、いきなり使いこなせなんて言うつもりもないから。直感でどっちが合いそうか、確認するところから始めようか?」
「お、おぅ! よっしゃ、やってやるぜ……!」
そうそう。これだよ、これ。やっぱり、ダンジョン攻略は武器と魔法でゴリゴリなロマンがなくっちゃ、始まらないぜ。なんだか知らんが、チート武器っぽい物をもらったし、ここから俺の無双ターンが始まるに違いない!
【武具紹介】
・アルマス(光属性/攻撃力+82、魔法攻撃力+66)
リンドヘイム聖教所属の異端審問官・ハールが愛用していた片手剣。
ハール自身は護身用に佩いていたようで、アルマスで実際に人を斬ったことはないとされている。
彼が闇堕ちした際に発生した魔力によって魔法武器化しており、ハールの存在を勇者という偶像として利用していたリンドヘイム聖教によって、丁重に保管されていた。
・ロムルス(闇属性/攻撃力+91、魔法攻撃力+48)
リンドヘイム聖教最高権威・教皇クラスのみが持つことを許されていた槍。
天使からもたらされた聖槍という触れ込みであったが、そのルーツを示す資料は残っておらず、元々聖槍だったかも怪しい。
リンドヘイム聖教の象徴的存在であったものの、数多の異端者(ほとんどが無実である)を貫いたため、恨みを溜め込んだ結果、呪いの武器と化していた。
【魔法説明】
・アクアボム(水属性/中級・攻撃魔法)
「静謐の淀みを携え 我が手に宿れ その身を滅さん アクアボム」
空気中の水分を集め、急激に圧縮し、圧縮熱による水蒸気爆発を発生させる魔法。
アクアプリズンと同様にアクアバインドの派生魔法であるが、こちらは水を圧縮する事を突き詰めた魔法であり、殺傷力も高いことから攻撃魔法に分類される。
魔法のイメージもしやすく、アクアプリズン程の水量も必要としないことから、発動難易度はそこまで高くはない。
錬成度を高めることで、攻撃力の底上げも割合簡単にできるため、補助系統が得意な水属性の魔術師でも覚えておいて損はない魔法である。




