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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6章】囚われの王子様
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6−57 共に過ごし、共に歳を取ること

 あれも違う、これも違う気がする……。記憶を辿っても、辿っても。目的の人物に目見える事、叶わず。

 ナルシェラとの再会に喜び咽ぶディアメロの背後で、キュラータはしこりのように残った違和感に頭を悩ませていた。もちろん、今のご主人様が幸せなのはいい事だ。ディアメロはお仕えするに、地位も気質も申し分ない相手であるし、自然と「尽くす」姿勢が染み付いているキュラータにとって、ディアメロの存在は1つのパズルピースのように、彼の日常生活にピッタリと嵌っている。しかし……やはり、何かが足りない違和感に、キュラータは苛まれている。


(この違和感はアルネラ将軍に会ってから、強くなった気がします……)


 絶対に初対面なはずの、帝国の将軍。性悪で、知力も足りなくて……それでも、地位と実力だけには恵まれていたから、将軍としてやってこれただけの人物。人並外れた「怪物」であるキュラータにしてみれば、掃いて捨てる程にありふれた人間でしかない。それなのに……。


「キュラータさん、どうしました? 何か、悩んでます?」


 キュラータが難しい顔をしているのに、気づいたのだろう。隣で兄弟の再会を見守っていたミアレットが、キュラータを心配そうに見上げている。そんな彼女を前に、今はとにかくディアメロの従者に徹しなければと、キュラータは気分を素早くすり替えた。


「いえ。少々、感慨深いものがございまして。それに、意外な相手がおりましたし……」

「あぁ……もしかして、ガラさんの事ですか?」


 ナルシェラが無事に帰ってきたと聞いて、喜び勇んで魔法学園へとやってきたはいいものの。エントランスで待っていたナルシェラにはエックス君だけではなく、キュラータにとって「顔見知り」のガラも側に控えていた。もちろん、ガラもキュラータを覚えていたようで……妙な居心地の悪さを覚えては、互いに苦笑いしてしまった。


「まぁ、そんなところです。とは言え……あらましを聞いた後だと、彼の決断も理解できるというもの。リキュラ様は何かにつけ、無理難題を押し付けてくるお方でしたから。愛想を尽かされるのも、当然かも知れませんねぇ」


 いつもの皮肉っぽい態度を取り戻すと、相変わらずの微笑で応じるキュラータ。そんな彼に、ミアレットは「アハハ」と乾いた笑いを漏らしてしまう。ミアレット自身は幸いと、リキュラに遭遇したことはないが。キュラータやガラの話を聞く限りでは、上司としてはどうも微妙な相手のようだ。


「それはそうと、ガラさんですけど。向こうに戻れないって言ってましたし……やっぱり、こちらで生活することになるんです?」

「その可能性が高いかと。処遇はこれから決めるそうですが……悪いようにはなさらないと、アケーディア様もおっしゃっていましたよ。それに、ナルシェラ様ご本人の強いご希望もありますし。このままナルシェラ様のお側仕えをしてもらう事になりそうですね」


 ミアレットの不安を払拭するように、カテドナがふわりと微笑む。彼女の穏やかな返答に、ミアレットも安心する一方で……その決定はアケーディアの研究者気質がしゃしゃり出た結果だろうなと、そこはかとなく理解させられてちょっぴり切ない。


(ナルシェラ様は他の人達の魔力適性を埋め込まれた……でしたっけ。副学園長先生が大好きなお題な気がする……)


 それこそ、キュラータが管理を任されていた「処理場」での出来事のようだが。ガラの証言によると、ナルシェラを攫った後に処理場へ運ぶように指示があったのは、ナルシェラに魔力適性を植え付け、「神様の依代」として最適な肉体を作り上げるためだったらしい。そして、処理場で魔力適性を絞り尽くされた人達も一緒に「向こうの世界」に運ばれていたそうだが……ガラも「彼らがその後、どうなったのか」は知らされていない。


「グスッ……! 兄上が無事で、本当に良かった……」

「う、うん……。こんな風に、出迎えてくれて僕も嬉しいよ、ディア。でも、そろそろ……いいかな。ミアレットとも話をしたいんだけど……」


 ミアレットが処理場にまつわる不安を、頭の中でグルグルと回していると。ようようディアメロの熱い抱擁から逃げ果せたナルシェラがミアレットに向き直る。久しぶりに見つめるナルシェラの顔は、いつにも増して穏やかではあったが。どことなくヒリヒリとした空気を感じては、ミアレットは「はて」と首を傾げてしまう。……果たして、目の前にいるのは本当にナルシェラなのだろうか?


「ミアレット。色々あったけれど……無事に帰ってこれたよ」

「お帰りなさいませ、ナルシェラ様。無事で何よりです。それにしても……なんとなくですけど、雰囲気が変わりましたね。もしかして、向こうで酷い目に遭わされたのです?」

「いや、僕自身はそこまで酷い目に遭わされた訳ではないのだけど……でも、そうだな。確かに、僕自身も変わってしまった部分はあるかも知れない」


 どこか苦しげに、ナルシェラが「今まであったこと」を訥々と語り始める。ナルシェラは魔力適性を埋め込まれた挙句に、グラディウスの魔力を一定期間吸収してしまっており……「デミエレメント」という、精霊になりかけの状態になっているのだそうだ。そして、意図せず開花してしまったナルシェラの魔力因子には、まだまだグラディウスの魔力が残っている。……ミアレットが感じた、わずかに棘のある空気感はかの暗黒霊樹のそれらしい。


「あぁぁぁ……それ、ガッツリ酷い目に遭わされているじゃないですかぁ……」

「アハハ……そうか。やっぱり、そうなるんだね……」


 デミエレメントのクダリは、アケーディアの予測含みではあるものの。副学園長の見立てであれば、まずまず間違いないだろうなとミアレットは尚も、心配を募らせる。


「大丈夫ですよ、ミアレット様。……魔力は非常に流動的なのです。こちらの世界でガス抜きをすれば、グラディウスの魔力は自然と抜けていく事でしょう。デミエレメトになってしまった事については、元に戻れないでしょうけれど……こちらについては特段、弊害はありませんし」

「そうなのです?」

「えぇ。精霊にさえなり切らなければ、人間と何ら変わりませんよ。確かに、身体能力や魔法能力は格段に強化されますし、食事もあまり必要としなくなりますが……祝詞を刻まれない限りは、時の流れは人間と一緒です。共に過ごし、共に歳を取ることは可能なのですよ」

「えぇとぉ? 食事が必要ない時点で、人間離れしている気がしますけどぉ? しかも、一緒に歳を取るって……なんだか、夫婦みたいじゃありません?」

「あら。ミアレット様は相変わらず、奥手でいらっしゃるのですね。いずれ婚約を結ぶかも知れない相手なのですから、そちらは重要な要素では?」


 カテドナは大真面目に答えるついでに、しっかりと恋愛イベントのフラグを立ててくる。おまけにクスクスと楽しそうに笑うのだから、自覚も大いにありと見た。


「ふふ……そうだね。あぁ、そうそう。経過観察も兼ねて、僕もこちらに通う事になったんだ。明日から、同じ魔法学園の生徒だね。改めてよろしく、ミアレット」

「は、はいぃ……もちろん、同級生になるのは構いませんけどぉ。……って、ディアメロ様もそんなに睨まないでくださいよぉ……」

「……ミアレットの婚約者は僕だ。魔法も使えるようになりそうだし、兄上には負けない……!」

「望む所だよ、ディア。魔法も、恋も。ライバルがいた方が、張り合いがある」

「結局、そこに落ち着くんです? まぁ、魔法は一緒に頑張った方が効率もいいと思いますけど……」


 それでなくとも、ナルシェラもディアメロに負けず劣らず、見目麗しい。学園に一緒に通うのはいいのだが、別の問題が浮上しそうだと、ミアレットはまたも妙な気苦労を抱え込んでいた。


(あぁぁぁ……! 絶対、ナルシェラ様も目立ちますってぇ……! 2人から言い寄られたら、変な波風が立ちそうなんですけどぉ……!)


 巻き起こるは、プリンス兄弟のネームバリューも乗りに乗ったビッグウェーブ。その波に上手く乗れれば良いが、不器用なミアレットのこと。大波に飲み込まれて、貴族社会の大海原に放り出される羽目になりそうだ。

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― 新着の感想 ―
乗りましょう、ビッグウェーブに!笑 ところでキュラータさんの「違和感」が気になります。しかもアルネラに関係している?何か裏がありそうですね……。
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