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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
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1−23 えげつない快進撃

「そりゃ、そりゃぁ! 全員まとめて、あの世に送ってやんよ! ほれほれ、遠慮すんなって!」

(いや……それは普通、遠慮するでしょうよ……)


 あの世に送ってやると言われて、素直に従うバカが、果たしているのだろうか?

 ミアレットは終始、そんな疑問を浮かべっぱなしだが……まぁ、彼の発言は一種の煽り文句だろう。マモンのえげつない快進撃に気を取られていたら、置いてけぼりにされてしまうかも知れない。……ここはひたすら、彼とはぐれないことを最優先にした方が良さそうだ。


(それに……私はとにかく、サインを見つけることに集中した方がいい……んだよね?)


 大袈裟な扉の向こうには、やはり廊下ばかりの迷路が続いていたが。禍々しい城の中に入った途端、マモンはもはやノンストップである。通路で待ち構えている魔物達さえもバッサバサと切って払っては、ズンズンと軽快に進んでいく。

 狭い通路においては逃げ場がないが、それは相手も同じこと。今までもそうであったが……駆け出し魔法使いのミアレットは正直なところ、完璧に実戦においては戦力外である。そんな彼女にしてみれば、逃げ場がない事は致命的に思えたが。……ベテランの特殊祓魔師には退路なしの状況も、障害にすらならないのだった。


(あっ、次は左に曲がるのね? でも……あそこから、中庭に出られるみたい……?)


 マモンが進路に選んだ左方向とは逆向きの廊下に、ぽっかりと横穴が開いているのが見える。無骨な石造りの壁をくり抜いたような、大きめな出口の向こうには……黒々とした芝生に覆われた、庭園らしき景色が続いているが。


(もしかして……あれも特殊ギミックなのかしら?)


 多分、そうに違いない。マモンが戦闘に夢中になっているだけで、見落としている可能性もゼロではないが。意外と、配慮も細かい彼のこと。これはどちらかと言うと、「彼には見えていない」とする方が正しいだろう。


「マモン先生! この先に……キャァッ⁉︎」

「ミアちゃん⁉︎」


 早速とばかりにマモンを呼びつつ、彼には見えていない出口を示そうと、ミアレットが走り出すと。運悪く、右側の通路にも魔物が屯していた。そうして間髪入れずに、ミアレット目掛けて鋭い爪を振り下ろすが……。


「……あれ? 痛く……ない?」


 頭上から襲い来るは、ミアレットの細い体も容易く切り裂けそうな、魔物の爪。だが、その爪がどういう訳か……ミアレットの頭上すぐ上で、ピタリと止まっている。そうして恐る恐る、魔物を見上げれば。何かが放った強い光に目を細めて、魔物がグルグルと唸りながら後退りしていった。


「ペンダントが光っている……?」


 ミアレットの胸元で、鱗のペンダントが鮮烈に輝いては、プカプカと浮かんでいるではないか。しかし、魔物の方も突然の光に最初は怯えこそすれ、すぐに慣れてしまった様子。光るだけで無害だと思ったのか、ますます凶暴な唸り声を上げながら、ミアレットに突進してきて……!


「あぁ⁉︎ 俺の教え子に手ェ出そうなんざ、1000年早ぇわ! こんの、クソッタレが!」

「ひゃぁッ⁉︎」


 今度はミアレットの背後から、強烈な突風が吹き抜けていく。すぐ横をギュンギュンと複数の風が通り過ぎた、次の瞬間。一瞬にして、目の前の魔物が賽の目状に滅多斬りにされていくが……。


「……あわ、あわわわわ……!」


 魔物の解体ショーが、すぐ目の前で展開されたとあらば。……腰を抜かすのは、人の子として当然の反応である。


「あ〜……怖がらせて、ゴメンな。ミアちゃん、立てるか?」

「グスッ……もう、無理ですってぇ……。確かに、エルシャは助けたいけどぉ……これじゃぁ、いつ死んじゃってもおかしくないじゃないですかぁ……!」


 流石に「いつもの調子で」やりすぎてしまったと思ったのだろう。魔物を全て斬り伏せた後に、すぐさまマモンが駆け寄りつつ、詫びてくるが。こんな惨状を前にして、ミアレットはすぐに立ち上がれる程、強くもない。

 駆け出し魔法使いのミアレットの中身は、ファンタジー初心者のマイその人である。いくら無事だったとは言え、少しでも照準がズレていたら。自分もサイコロ状に切り刻まれていたかと思うと……冗談抜きで、ゾッとする。


(主様。かような幼な子に、ここまでの激戦はかなり厳しいかと……)

「うん、だよなぁ。……ちょっと、反省しています」

(しかし、これでは……言い方は悪いでおじゃるが、ミア嬢は足手纏いにしかならないでおじゃる。だから……)

「だから?」

(ここは輝夜を頼ったら、良いのではおじゃらんか?)

「あっ、それもそうだな。……今回はリッテルは不参加なワケだし。是光をミアちゃんに付けるのも、アリだな」

「えっと、カグヤにコレミツ……? 誰ですか、ソレ」


 えぐえぐと涙を流すミアレットを尻目に、風切りの提案を採用したらしいマモンが、新しい何かを呼び出す。そうしてやって来たのは……白い鞘に収まった、これまた摩訶不思議な相手(第2号)だった。


(お館様、某をお呼びですか?)

「うん、呼んだ。悪い、是光。……ちょいと修羅場でな。漆黒霊獣をぶっ倒すまで、ミアちゃんを守ってやってほしいんだけど」

(……うぅむ……妻君以外の護衛ですか……。まぁ、お館様のご命令とあらば、某も尽力致しますが。……できれば、手短に済ませてほしいものです)

(輝夜、今はそんなことを言っている場合ではおじゃらん。主様のご希望が第一なのを、忘れてはおるまい?)


 しかし……新しくやってきた刀はどうも、ミアレットの護衛に乗り気ではない様子。風切りに取りなされ、渋々と言った調子でミアレットに話しかけてくる。


(それもそうですな。仕方あるまい。お館様のため、この是光も誠心誠意お供しましょう。して……そち、ミアと申すのか?)

「はっ、はい……」

(ふむ……あまりパッとしませんな? まだ子供なのでしょうが……全体的に包容力が足りませぬ)

「はい?」


 いや、ちょっと待て。確かに、妻君(リッテルの事だと思われる)と比較したら、ミアレットは確実にパッとしない容貌ではあるだろうし、スタイルも相当に劣ってはいるだろう。しかし、いきなりそこまで言わなくてもいいだろうに……。


(グスっ……! 怖い目に遭わされた上に、なんかセクハラちっくな事を言われた……! もう、ヤダぁ……!)


 まさか、訳の分からない魔法道具にバカにされるなんて。ここまでくると、肉体的にも、精神的にも立ち上がれない気がする。


「……是光、いい加減にしとけ。あまり失礼なことを吐かしてると、身をへし折るぞ」

(あっ。お館様、ご堪忍を……。もちろん、お役目はきちんと果たしますので、ご安心をば)

「今のどこに、安心材料があるんだよ。言っとくが……ミアちゃんにかすり傷でも負わせたら、当分手入れはナシだからな」

(ひえっ! そ、そ、そ……それだけは、ご容赦を! あは、あはは……ミア殿、安心召されよ。この是光、何がなんでも、貴方様をお守りして差し上げまする!)

「……」


 マモンの脅しが堪えるのか、急に友好的な態度を取り始める是光とやらだったが。……ミアレットからすれば、魔法道具だというディテールも含めて、胡散臭さ満点である。


(……はぁぁ……とにかく、立ち上がらないとダメよね。……ここで置き去りにされたら、帰れなくなちゃう)


 ここで諦めたら、孤児院にも……そして、日本にだって帰れないことだけは、間違いない。とりあえずは守ってくれると言っているのだし、少しは頼りにしてもいいのかもと思い直し。ミアレットは仕方なしに立ち直ると、早速マモンに「特殊ギミック」と思われる、出口の存在を知らせるのだった。

【武具紹介】

・竜女帝の首飾り(光属性/魔法防御力+124)

竜女帝の鱗をトップにあしらった、可憐な印象の首飾り。

竜女帝の特殊能力・「悪意を読み取る力」を僅かに受け継いでおり、強い悪意に遭遇した時に光って知らせてくれる。

物理的な防御力は皆無だが、持ち主の魔法防御力を格段に上げる効果があり、魔法攻撃のダメージ緩和に役立つ。


・三条・是光輝夜(光属性/攻撃力+68、魔法防御力+72)

マモンが所持する魔法武器の1つ。通称・白鞘の是光御前。

刀身は30センチほどで、短刀(守り刀)に分類される。

魔界の主人・ヨルムンガルドの脊椎を媒体とし、クシヒメの巫女がうち「輝夜」の魂が封入されたことで、自我を持つに至った。

元々は神界の武具に対抗するために作られた防御用の武器であり、「ヨルムンガルドの刀」の5振りの中で唯一の短刀である。

刀身が短いため攻撃範囲も非常に狭いが、光属性の攻撃を吸収・無効化する性質と、守り刀故の防御性能を併せ持つ。

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