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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6章】囚われの王子様
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6−40 王としての素質

 ぐうの音も出ない、とはこの事を言うのだろう。

 さっきまで、怖いものはないと言わんばかりに横柄な態度を取っていたフィステラ達は、ルエルの本気を前にして蛮勇を削がれた様子。この様子であれば、しばらくは大人しくしていてくれるだろうかと、ミアレットは思うものの。それよりも、気がかりなのは……。


(ヴァルムート君、大丈夫かなぁ……)


 ヴァルムートはヴァルヴァネッサが話しかけても、もうもう上の空で覇気のない反応しか見せない。……きっと、余程にショックだったのだろう。しばらく放心していたかと思えば、「1人にして下さい」と小さく呟いて、食堂から退室していく。


(無理もないか……。あんなに自分は次期帝王なんだって、息巻いていたのに。魔力適性が少ないって分かったんじゃ……すぐに納得できないよね)


 足取りも弱々しいし、フラフラしているのを見ても……どこをどう見ても、大丈夫ではなさそうだが。それでも彼に必要なのは、1人の時間と割り切ったのだろう。ヴァルヴァネッサは顔に心配の影を落としつつも、気丈に「陛下のところへ案内します」とルエルとマルディーンを招く。


「私はこれから、マルディーン様と帝王様を見舞いに行って参りますわ。ですので……カテドナ、キュラータ。私の愛し子達の護衛、しっかりとお願いね」

「かしこまりました」

「心得ております」


 ミアレットとディアメロと「私の愛し子達」を称し、慈愛の表情を浮かべるルエル。彼女の表情だけ見れば、まさに清らかな聖女様に相応しい情景であろうが……正直なところ、それどこではないとミアレットは思う。ヴァルヴァネッサと共に退室していくルエルとマルディーンの背中を見送るものの、やや放置されている感は拭えない。


「ミアレット様、お食事の続きはいかが致しますか? 空腹でしたらば、すぐにご用意致します」

「あっ、だ、大丈夫です……(この状況で普通……食事なんて、できるぅ?)」


 それはそうだろう。ルエル判定で「罪人」になった第二王妃達は縛り上げられたままなのだ。天使様を敵に回したと、知れた今。彼女達も別の意味で食事を取る余裕なんぞ、ないだろうけれども。どんな美食を提供されたとしても、ミアレットには当て付けで食事ができる図太さはなかった。


「無論、ご心配されずとも、罪人共は片付けます。少々、お待ちを……」

「心配しているのはそこじゃなくて、ですね⁉︎」


 安定の規格外を見せつけて、カテドナがヒョイと椅子ごとアルネラとフィステラを持ち上げるが。カテドナはミアレットの懸念事項をしっかりと見抜いているようでいて……彼女の対処法は、妙に明後日に向いている。


「カテドナ殿。彼らを片付けるのも、一興かもしれませんが……先程の惨状です。とてもではありませんが、食事をお召し上がりになる気分にはなれないと思いますよ。ここは一旦、お茶程度に留めた方が良いのでは?」

「あぁ、それもそうですね。……罪人の吐息が充満するこちらで食事なぞ、気分を害されて当然ですね」

「いや、そこまでは言ってませんけどぉ……? 純粋に食欲がないだけですって」


 相変わらず、敵対する相手へのカテドナの視線と言葉は絶対零度の極地を貫く。そんな彼女の反応に、隣のディアメロが「アハハ」と力なく笑っている背後で、キュラータは「そうではないでしょうに」とやや呆れ気味だ。


「……カテドナ殿は完璧が故に、諸所に容赦がありませんねぇ。これでは、怯えるなという方が無理ですよ。まぁ、いいでしょう。ディアメロ様に、ミアレット様。お茶はハーブティーに致しましょうか? あるいは、ミルクティーが良いでしょうか?」


 キュラータがいてくれて、助かったかも。とりあえず、ここは彼の提案に乗ってしまおう。

 ミアレットはそんな事を考えつつ、キュラータが示したラインナップに、彼なりにリラックスさせてくれようとしている事にも気づく。それに……空腹はなくとも、緊張で喉はカラカラだ。お茶を出してもらえるのは、素直にありがたい。


「私はミルクティーがいいです……」

「僕もそちらで。それと、キュラータ。ミアレットのお茶には、蜂蜜を忘れるなよ」

「心得ております。しばし、お待ちを……」


 キュラータの指摘に、カテドナはやや不服そうに首を傾げているが。ミアレットとディアメロが素直にミルクティーを所望したので、そちらの準備を手伝った方がいいだろうかと、早々に切り替える。それでなくとも……。


「流石はディアメロ様。ミアレット様の好みを心得ておいでですね」

「えっ? あ、あぁ、まぁな。これで、僕はミアレットの婚約者だ。好みくらい、把握しているさ」

「ふふっ……! えぇ、えぇ、素晴らしい事ですわ」

(あっ、カテドナさん……いつものお楽しみモードに入られました?)


 カテドナは罪人達への興味を薄れさせると同時に、恋愛模様ウォッチに任務を切り替えた様子。……彼女は完璧に任務をこなしながらも、要所要所に遊び心を忘れない悪魔である。もちろん、ご機嫌なのはとってもいい事なのだが。ミアレットにしてみれば、乗り気ではない恋愛イベントをヨイショされても、ちっとも嬉しくない。


「それはそうと……ヴァルムート君、大丈夫かしら……」

「確かに、心配だよな。……思い詰めて、勢い余らないといいのだが」


 ひと段落したら、様子を見に行こうか。

 ディアメロは心配の言葉を落としつつ、優雅にティーカップに唇を寄せると、芳香豊かなミルクティーを舌の上で味わう。そうして、一息ついたところで……これ以上は無視できないと思ったのか、はたまたルエルの代わりに尋問を済ませようと思ったのか。意気消沈しているフレアムに話しかける。


「……折角だ。少し、世間話をしないか? フレアム公」

「世間話、か。フン……いいだろう。このまま黙っているのも、そろそろ辛いしな」


 身動きはできないなりに、口だけは動くとフレアムがディアメロに応じる。やや素直ではない反応だが、フレアムも話くらいはしてくれるつもりのようだ。


「うん。それじゃぁ、早速。……フレアム公は帝王になる事を目指していたようだが、帝王になった後はどうされるおつもりだったのか、聞きたくてね」

「帝王になった後……だって?」

「あぁ。国王にしろ、帝王にしろ……即位は終着点ではなく、王としての出発点であり、通過点だと僕は考える。王になった暁に、どのように国を導くかが重要だろう? だから、聞きたかったんだ。あなたはどのような国を作るおつもりなのか」


 ディアメロの意外な質問に、フレアムは言葉を詰まらせる。考えてみれば……ヴァルムートと競わされ、帝王になる事ばかりに気を取られていたが。しかして、ディアメロの提起は王族としては然るべき内容でもある。彼の言う通り、即位はただの通過点でしかない。重要なのは王となった後に、王としての素質をいかに発揮できるかに尽きる。


「僕はできれば、クージェとは円満な関係をこれからも築いていきたいと思っている。それはきっと、王位を継ぐ兄上も同じ意見のはずだ。それに……僕には父上とハシャド王の関係が理想的に思えて、非常に羨ましい。国家間の同盟を維持するならば、王同士も仲がいい方がいいに決まっているだろう?」

「そうか。それは確かに、そうだろうな……。しかし、兄上が王位を継ぐだって? だとすると……ディアメロ公は第二王子なのか?」

「そうなんだ。僕は弟でね。ゆくゆくは兄上を支えるため、日々勉強中の身だ」


 ディアメロが穏やかに微笑み、肩を竦めて見せるが。ローヴェルズの王位継承が世襲制だと、知っていたとしても……身近に野心剥き出しのヴァルムートがいたフレアムにしてみれば、ディアメロの聞き分けの良さは異常に映った。

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― 新着の感想 ―
>「帝王になった後……だって?」 ってフレアムちゃんーっ!(笑) ダメな人だ!(想像はついてたけど)
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