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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
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1−21 子供相手にも容赦ないんだから

(どこで間違えたんだ……? どうして、僕がこんな目に遭わないといけないんだ……?)


 ミアレットとマモンが心迷宮の「本丸」へ乗り込もうとしている、その頃。エンドサークルの檻の中で、セドリックは悶々と考え込んでいた。本当なら、自分こそが「縁者」としてエルシャの心迷宮へと潜入できるはずだったのに。それなのに、マモンはセドリックではなく、ミアレットを供に選んだ。そのことが、自分よりもミアレットが優れていると評価されているようで。……セドリックは怒りを感じる以上に、確かな屈辱を募らせていく。


「彼が知らせてきた場所は……こちらかしら?」


 しかしながら、魔法陣の上から出られないとあれば、できることはネガティブに膝を抱える事くらい。この後、自分はどうなるのだろう? もしかして、罰を与えられるんだろうか……と、ようやくやってきた不安と絶望とで、気分だけではなく、居場所まで塞がっていく気がして。

 そんな打ちひしがれたセドリックの耳に届くのは……鈴を転がすような女の声と、やや投げやりな少女の声だった。


「多分、そうじゃない? 所在地からしても、ここっぽいわね」

「まぁ……だとすると、あの子がセドリック君かしら?」


 どこの誰かは知らないが。花のように美しい笑顔を見せては、セドリックに話しかけてくる桃色の髪の美女。片や……青髪の少女は女の背後で、呆れたような表情でやれやれと、首を振っていた。


「でしょうよ。エンドサークルにバッチリハマってるし。……ホント、何をやらかしたんだか」

「まぁまぁ。言われれば、確かにそうですね。うふふ……もぅ、あの人ったら。子供相手にも容赦ないんだから」


 少女の方はともかく……雰囲気からしても、女の方は助けてくれそうか? そんな淡い希望を胸に、セドリックは女に交渉を仕掛けるが……。


「僕は何も悪くないんです! いきなり、マモン先生がやってきて……僕を閉じ込めたんだ!」

「あら、そうだったの?」

「そうなんです! 僕はエルシャを鎮めるのに、協力するって言ったのに! 僕には深魔討伐の権利があるっていうのに……!」


 セドリックの必死の訴えに、ウンウンと頷きながら……ニコリと微笑む女。この感じなら、助けてくれるに違いない……! これはチャンスとばかりに、セドリックは更に言葉を重ねては、「自分は悪くない」と尚も主張を続けるが……。


「全く……! マモンときたら、人の話も聞かないで、いきなり拘束魔法を使ってくるんだもの! その上で僕じゃなくて、下級生のミアレットを同行させるなんて! 間違っているとしか、思えません! あれでよく、プロの特殊祓魔師を名乗れるもんですよ。お姉さんも、そう思いませんか?」

「……」

「……あれ?」


 いつの間にか、相槌がなくなっていると同時に……彼女の笑顔が引き攣っているのにも、流石のセドリックもようやく気付く。それでも、普段から「美少年」だと持て囃されていた自信も思い出し、キラキラと愛想を振りまいてみるが……。


「お姉さんは、僕を助けてくれるんですよね? 何と言っても、相手は悪魔だし……きっと、本当は極悪人に違いないんです!」

「ウフ、ウフフフフ……! この調子では、相手をするのも馬鹿馬鹿しいわぁ」

「えっ?」

「私のグリちゃんが、理由もなしにこんなことをする訳、ないじゃない……! 何を勘違いしているのかしらね、このおクソガキは……!」

「えっ? えっ……? グリちゃんって……誰⁇」


 明らかな怒気を滲ませた女の迫力よりも、新しい登場人物の名前に困惑するセドリック。グリちゃんって……もしかして、マモンのことだろうか?


「……リッテル。クソガキに“お”をつける必要、ないから。変に気取らなくて、いいし」

「まぁ、そうなの? それじゃぁ、主人を真似して、全力で罵ればいいのね?」

「いや、違げーわ。あいつに呼ばれた理由、忘れたの? こいつを逃さないように、捕縛することでしょうに」

「あっ、そうだったわね。主人を悪様に言われて、プッツンしそうでした……。でも、なんだかとっても悔しい……! エンドサークルさえなければ、ギッタギタのメッタンメッタンにしてやるんだから!」

「ヒィッ⁉︎」

「いや、ちょっと待て。まだまだ、本格的に怖がらせる必要、ないから。それにしても……なるほど。マモンが単独であんたを寄越したがらない理由、よく分かった気がするわ」


 ギリギリとエンドサークル越しで歯を鳴らすリッテルと、彼女の背後でやるせなさげにポリポリと顎を掻く、ティデル。彼女達の反応はそれぞれだが。次に続くティデルの言葉は、セドリックにとってはどこまでも都合の悪いものでしかなかった。


「あー……一応、説明しておくとサ。そっちの美人はリッテル。……マモンのお嫁さんなんだわ。んで、アタシらはそのマモンに呼ばれて、あんたをとっ捕まえにきたの。この深魔を拵えた奴には、仕組みを吐かせるまで締め上げろ……って、お達しなんだわサ」

「だから、僕は何も知らないし、何も悪くない! 誤解……誤解なんだ! 悪いのは、僕をこんなところに閉じ込めたマモ……」

「お黙りッ! このおクソッタレが!」

「……おクソッタレ?」


 絶対の鉄壁を誇るはずのエンドサークルを「ガツン!」と殴りつけ、更に口汚い(つもりらしい)お罵り言葉を吐くリッテル。しかし、見た目も声も美しいせいか……派手な効果音の割には、迫力は今ひとつだ。


「……いや、だから。クソッタレに“お”を付ける必要、ないんだけど……」

「くっ……! どうしたらグリちゃんみたいに、格好よく相手を罵れるのかしら……!」

「……格好よく罵るって、完璧に意味不明だし。リッテルは相変わらず、ぶっ飛んでるわね」

「まぁ、それほどでも〜」

「……褒めてねーからな?」


 最後はお手上げポーズを取って、リッテルに応じるティデル。そうして、そんなことをしている内に……セドリックにとって、都合の悪い登場人物がやってくる。エルシャの威容に怯えながらも、「こうなった直前のこと」は覚えてもいるのだろう。ズンズンとセドリックの方へやってくると同時に、怒りを露わにしているのは……セドリックがスリーピングミストで眠らせた、自身の父親だった。

【魔法説明】

・スリーピングミスト(水属性/初級・状態異常魔法)

「怠惰を誘え 微睡みを呼べ 我は望む 汝らの揺りかごとならん事を スリーピングミスト」


催眠効果のある霧を発生させ、一定範囲の相手を「睡眠」状態にする、状態異常魔法。

錬成度を高めると、より濃い霧を発生させることができ、成功率と効果範囲を拡張できる。

対象を傷つけずに広範囲の相手の活動を制限できるため、潜入任務にも活用できたりと、意外と汎用性は高い。

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