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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6章】囚われの王子様
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6−24 協調性が必要不可欠

「うーん、なかなかにぶっ飛んだ思想だなー。そいつぁ、イマドキ流行らないぞ」


 無能は無能らしく、支配されていればいい。その尖った発言の瞬間、心なしかヴァルムートの周囲から、サッと人の距離が開いた気がする。一方で、微笑みは変わらないと見せかけて……マモンは口の端をほんのり上げては、アルカイックスマイル(皮肉風味)を浮かべていた。


(こういう時のマモン先生の笑顔、めっちゃ怖いんですけどぉ……!)


 先程の話っぷりからしても、マモン自身は格差を快く思っていない。しかして、それをこうして真っ向から否定されれば……不愉快に感じるのは、普通の事で。しかも、ヴァルムートの発言はかなりの部分で「偏っている」。魔法学園のスタンスからしても、彼の発言はあまり楽観視できるものではないだろう。


(ヴァルムート君……やっぱり、勘違い系の人だったかぁ……)


 いつぞやのエントランスでのやり取りも思い出し、ミアレットの中でヴァルムートが確実に「危険人物」へと昇格しつつある。それは他の生徒も同じと見えて、さっきまでの和気藹々とした空気が一気に霧散していた。

 それでも、当のヴァルムートは周囲の反応を気にするでもなければ、自分の思想を曲げるつもりはないらしい。マモンに「ぶっ飛んだ思想」、「イマドキは流行らない」と言われても、険しい表情を崩そうとしなかった。……これはこれで、なかなかに豪胆である。


「……フン。先生には分からないでしょうね。支配者階級に生まれた者の、崇高な理想など」

「んー……俺も魔界じゃ、一応は支配者階級の悪魔だけどな。でも……どんなに自分よりも弱かろうとも、配下を無能だと思ったことはないし、支配してやろうなんて思った事もないなぁ」

「……はっ?」


 放置していた時期はあったけど。そんな事を呟きつつ、マモンは敢えてのんびりとした口調でヴァルムートに語りかける。

 マモンとヴァルムート。同じ支配者を騙るでも、他者……特に、弱者に対しての態度は大幅に異なる。顎に手をやりながら、サッパリとした意見を述べるマモンに対し、ヴァルムートの視線にはネットリとした、軽蔑もしっかりと含まれていた。


「今の俺はなんだかんだで、平和主義な悪魔だからなー。配下の奴らに、嫌われたくないし? できれば、みんなで仲良くしておきたいし」

「へぇ……悪魔のクセに、みんなで仲良くとか……甘い事を考えているんですね」

「甘い……か。うん、それは認めるよ。でも、さ。そんな風に、権力にブイブイ言わせて周りを見下してたら、あっという間に嫌われちまうぞ? それでもいいんなら、何も言わないが。……孤独ってのは、意外と辛いもんで。そういうことは口に出さず、心に留めておくだけにしておいた方がいい」


 しかし、ヴァルムートは納得とは程遠い渋面でマモンを睨むばかり。そんな彼に対し「そう睨むなよ」と肩を竦め、マモンは根気強くヴァルムートを諭す。


「知っての通り、この魔法学園は特殊祓魔師を育成する事を目的としている。で……特殊祓魔師に何よりも必要なのは魔法の知識でも、実力でもなくてな。周りときちんと上手くやっていける、協調性が必要不可欠だ」

「協調性だって……?」

「うん、そう。協調性が何よりも大事なんだな」


 意外な答えに、呆気に取られているヴァルムートの一方で……ミアレットは、マモンが言わんとしている事はよく分かると、ウンウンと頷いてしまう。

 魔術師が持てるベースエレメントは、絶対に1種類。それは大天使だろうが、大悪魔だろうが、例外なく……この世界の魔法における、揺るがない不文律である。そして、持てる属性に偏りがある以上、1人で対処できない相手が必ず出てくる。そんな時に、仲間とうまくやっていけない魔術師はいくら強かろうとも、ただの足手纏いになりかねない。


「君が何を思って、孤高になりたがるのは分からないけれど。折角の学園生活をボッチで過ごすのは、辛いんでない? 敵を作るよりも、味方を作る方が断然お得だと、俺は思うな」

「……俺には、時間がないんだ……」

「うん? 時間がない? それは一体……」


 マモンの意見に、少しだけ思うところがあったのかも知れない。先程の強気な態度とは一転、ヴァルムートが悲しげな表情を見せる。どうやら、彼は何かに焦っているようだが……。


「くぅぅぅぅ……! エリア10、踏破ならず……!」


 しかし、ヴァルムートの真意を問う間もなく。タイミング悪く、イグノが強制帰還でエントランスに帰ってくる。そんな彼を認めて、マモンはイグノを労うのが先と向き直る一方で……こっそり「話の続きは職員室で」と、ヴァルムートに伝えるのも忘れない。


「いやいや、初挑戦でエリア8まで行けたのは、君だけだぞ。ナイスファイト、イグノ君!」

「本当か⁉︎ ナイスファイトだった⁉︎」

「もちろん。俺、モニター越しに感動しちまった」


 きっと、相当に嬉しかったのだろう。褒められて有頂天になるついでに、マモンに手のひらを向けるイグノ。そうされて怒るでもなく、「イェーイ!」とハイタッチを交わすマモンだったが。


(マモン先生、それは応じなくていいと思います……)


 何をノリノリで対応しているんだ、この大悪魔様は。彼は時折、自分が「偉い悪魔」である事を忘れている気がする。


「さて、悪ノリはこの位にしておいて。全員が無事に帰還したところで、改めて魔力のトレーニングについて、補足するぞー」


 しかも、悪ノリの自覚アリときている。


「きっと、実際に体験してみて気づいたと思うけど……いつも以上に魔力を取り込むのに、苦労したんじゃないかな?」

(そうそう、そうなのよ! 魔力消費量に無駄が多かった気がする……)


 イグノと同じ「転生者特典」を持つミアレットも、魔力は多いはずである。もちろん、使い慣れていないホーリーショットを連発したせいもあるのだろうが……空間中から魔力を上手く取り込むことができなかったため、自前の魔力を大幅に削る羽目になったのだ。


「魔力トレーニング塔に限らず、魔力濃度の異なるフィールドで空間中の魔力を取り込むには、慣れが必要でな。それを自然とできる子も、稀にいるが……大抵は、魔力そのものをきちんと感じられない限り、魔力因子に外の魔力を結びつける事はできないんだ」


 そして、その「魔力を感じ取る能力」は「魔力因子の覚醒率」とはまた違った要素になるそうで。感じ取る力を磨くには様々な環境で同じ魔法を使い、環境ごとの差異をひたすら「肌で感じる」のが重要とのこと。


(なるほど。イグノが魔力消費を抑えながら攻略できていたのは、ファイアボールを極めていたからなのね……)


 新学期当初はファイアボールしか使えないと、落ちこぼれのレッテルを貼られていたイグノだったが。そもそも、これまでに相当の場面でファイアボールを使っていなければ、習熟度80%越えは難しい。劣等生から一転。トレーニング塔では、イグノのファイアボール一筋の姿勢が有利に働いたのだ。


(だとすると……あぁ。私はウィンドトーキングがベストだったのかぁ……)


 攻撃魔法でもないウィンドトーキングを指標にするのは、心許ないが。次回はウィンドトーキングをもっと活用しようと、ミアレットは考える。何かにつけ、空間把握は大事。無駄打ちでも、展開しておくに越した事はない。


「そんじゃ、最後に。攻略再挑戦について情報を。魔力トレーニング塔も含め、各訓練場への挑戦は、最大でも1日1回。その上で、総魔力量の80%以上回復していることが条件だ。んで、教師がいないと利用できない手前……解放日が決まっていてな。風雷、水氷の日は教師の立ち会いがあるから、是非に活用してみてくれ」


 どうやら、訓練場の利用チャンスは週に2回しかないらしい。それが多いか少ないかは、さておき。塔の攻略はトレーニングの面でも、アイテム獲得の面でも、得られるものが大きい。これは絶対に再チャレンジしなければと、ミアレットは他の生徒達と同様に、やる気を再燃させていた。

【補足】

・ゴラニア世界(人間界)の暦について

ゴラニアの一週間は6日で、一年は330日=55週間。

いわゆる「新年」は秋となるため、魔法学園の新学期も秋がスタートとなっている。

尚、暦上の曜日は以下の順番で巡っており、「神聖の日」と「影闇の日」は「ハイエレメントの日」と称され、休日扱いである。


・神聖の日

・風雷の日

・火熱の日

・水氷の日

・地草の日

・影闇の日

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― 新着の感想 ―
ヴァルムート君を「ボッチ」の一言で片づけるマモン先生(笑) そして無邪気なイグノ君。イグノ君の立ち位置が変わってきて面白い!
さすがマモン先生、イグノくんの心をガッチリ掴みつつありますね。悪魔は静かに心に入り込む。(笑) それにしてもイグノくんは予想外にまっすぐ育ちそうですね。ファンとしては今後の成長が楽しみです。
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