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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6章】囚われの王子様
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6−22 魔法の習得もバランスが大事

「うわぁぁぁん……! もう、魔力がすっからかんになりそう……!」


 狼型の魔物……シュードウルフをやっとこさ、退治しても。道を進めば、出るわ出るわ、大量の魔物達。コズミックワンドの力を借りて、ようやくエリア4へと辿り着いたものの……ミアレットの魔力は既に、3割を切っていた。


「ステッキに頼れば、上に登ることはできるだろうけど……。でも、それじゃ覚醒率が上がらない気がする……」


 だから、できるだけ空間から魔力を集められるように専念しないと。でも、それがなかなかに難しいので、ミアレットは尚も悶絶せずにはいられない。

 使い慣れている魔法であれば、スムーズに呪文を唱えることができるし、構築概念もしっかりと把握しているため、錬成時に込める魔力にも無駄を出さずに済む。だが……頼りないホーリーショットが有効打たり得る状況では、自然と魔力消費量が多くなってしまい、ミアレットの総魔力量は無遠慮にガリガリと削られていた。光を出すだけでいいのであれば、サンダーショットも候補に入るのかも知れないが。……こちらも命中不安定な上に、ミアレット自身が使い慣れていない事もあり、ホーリーショットとさして状況は変わらない。


「こんな事だったら、サンダーショットもちゃんと練習しておくんだった……。でも、雷系統の魔法はコントロールが難しいのよね……」


 風属性の魔法は大まかに「風系統の魔法」と「雷系統の魔法」に分かれているが、殺傷力が高い魔法は雷系統であることが多い。であれば、雷系統の魔法を重点的に覚えればいいかと言えば……ミアレットの場合は目標的にも、そうとは言い切れない部分がある。

 風属性は最上位魔法も含め、高火力・高効果の魔法は軒並み雷系統の魔法だ。しかしながら、肝心の転移魔法は風系統の魔法であるため、ミアレットはそちらを見越して風を操る魔法に重点を置いて勉強をしていたりする。故に、ミアレットの魔法指向はどうしても補助寄りになりがちである。


(転移魔法さえ使えれば、目標達成だと思っていたんだけどなぁ……)


 ……特殊祓魔師になる野望がないので、雷系統の魔法はそこまで本腰を入れなくても大丈夫と思っていたのだが。トレーニングに必要とあらば、練習しなければならないか……と、ミアレットはガクリと肩を落とす。魔法の習得もバランスが大事。偏った食生活と魔法習得は、あまり褒められたものではない。


(そう言えば。他のベースエレメントも、魔法の系統があるのよね……)


 風属性の魔法が「風系統」と「雷系統」に分かれるのと同様に、他のベースエレメントもそれとなく2系統に分かれている。炎属性は「火系統」と「熱系統」、水属性は「水系統」と「氷系統」。そして、地属性は「土系統」と「草系統」……と、妙な塩梅でカテゴライズされているのだ。同じベースエレメントの魔術師でも、どちらの系統が得意かによって役割も変わってくるので……自分の得意分野を把握しておくことも、重要である。


(アンジェは雷系統の方が得意だったわよね。……今度、コツを教えてもらおうかしら?)


 本人に聞いたところ、アンジェはメイジではなく、ウィザードに分類されていたそうで。その事からしても、彼女は攻撃魔法が得意だと考えていい。同じ属性でも得意分野が違うと分かったのならば、意見を交換するのも有意義に違いない。


「って、ギャッ⁉︎」


 アンジェに相談してみようと上の空で歩いていたのが、いけなかったのだろう。足元を取られ、派手に転んでしまうミアレット。エリア4に登った辺りから、足元がやや崩れ始めているのに気づいてもいたが。どうも「魔力トレーニング塔」は冗談抜きで本格的なダンジョンを想定しているようで、階段を登る度に魔物だけではなく、道のりも手強くなる様子。ボコボコとささくれ立った石畳は、よそ見しながら歩ける場所ではなくなっていた。


「アイタタタ……。って、えぇぇぇ……また魔物ぉ……?」


 しかも、しかもである。顔を上げた廊下の先から、またも魔物がやってくるのが、イヤでも目に入る。相手はあの狼がなんと、3体。これは完璧にミアレットを追い詰めにきている布陣ではなかろうか。


「嘘、でしょぉ……? ここ、まだ4階なんですけど……?」


 1体だけでも厄介な相手が、トリプルで徒党を組んでやってくる。もちろんながら、グルグルとやる気も敵意も剥き出しで、こちらに目掛けてやってくる。……これは明らかなる、絶体絶命。


「うぅぅぅ……! もうっ! そっちがその気なら、やってやろうじゃないの……!」


 スカートの土埃をパンパンと払いつつ、立ち上がれば。意外と負けん気が強いミアレットは、まるで転んだのも狼のせいだと言わんばかりに前方を睨みつける。そして……この程度のピンチでへこたれていたらば、この先もやっていけないと、無我夢中で使い慣れている魔法を展開した。


「空虚なる現世に、風の叡智を示せ……我は空間の支配者なり、ウィンドトーキング!」


 なんだかんだで頼りになる空間把握の魔法で、とあるポイントを探り当てるミアレット。ウィンドトーキングの攻撃性はゼロだし、一見、戦闘には不向きな魔法にも思えるだろう。だが、空間を把握するという事が意外と戦闘においても重要だと、幸か不幸か、ミアレットは身をもって知っている。……心迷宮でナビ代わりにされたのは、無駄ではなかったのだ。


(よし、脆い部分を見つけたわ……!)


 4本足の魔物達に、悪路はさしたる障害にならないらしい。3体の狼達はタッタッタと小気味よい爪音を響かせながら、仲良くグングンとミアレットに近づいてくる。そんな彼らの間合いを見つめながら……ミアレットは狼達にではなく、床へと攻撃魔法を放った。


「煌めく風よ、天を臨め! 風の息吹を、刃と成さん! ウィンドブレイド!」

「ギャンッ⁉︎」


 縦横無尽に駆け回る狼に、命中率がよろしくない魔法を当てるのは至難の業。しかし、いくら反抗的に凸凹していても、相手が床であれば難なく命中させられる。きっと、ミアレットのやり口が予想外だったのだろう。突然足元を抉られ、驚いたらしい狼達の進軍が止まる。


「追加、行くわよ! 煌めく風よ、天を臨め! 風の息吹を、刃と成さん……ウィンドブレイドッ!」


 脆い場所に打ち込まれた初手のウィンドブレイドは床の凹凸を薙ぎ、瓦礫を舞い上げながら狼達の毛並みを撫ぜる。そして……追加発動の風刃で、瓦礫を煽らせれば。足元を崩されたままの狼達に、容赦無く瓦礫が降り注いだ。


「……」


 だが……ミアレットに負けず劣らず、狼達も負けん気が強いタチらしい。瓦礫に襲われ、ややフラフラしているものの……闘志はそのままに、未だにミアレットを睨みつけることも忘れない。


「くぅ……! こ、こうなったら、やっぱり……!」


 コズミックワンドを頼るしかないか……と、何かに負けた気分になりつつ。ミアレットが素敵なステッキを振りかぶろうとしたところで、今度はけたたましい警告音が響いてくるではないか。


「へ……?」

《総魔力量が10%を下回りました。強制帰還を実行します》

「あぁ、そういう事ですかぁ……。今ので、10%切っちゃったか……」


 折角、いいところだったのに……なんて、名残惜しさはないものの。結局、エリア10到達はおろか、その半分にさえ到達できていない。しかも、アイテムドロップもなし。


(もっと、上手いやりようがあった気がするわぁ……)


 初回の挑戦なので、仕方ないと言われれば、それまでかもしれないが。若干、悔いの残る結果だったと……ミアレットは《強制帰還》の光に包まれながら、魔術師帳のメッセージをちょっぴり恨めしげに見つめていた。

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― 新着の感想 ―
なるほど強制送還されるシステム! 上位クラスだったんだし、頑張った方だと思います、ミアレットさんお疲れ様!
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