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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6章】囚われの王子様
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6−21 上位クラスならではの洗礼

 ミアレットが仕方なしにノリノリで狼を撃破した、その頃。マモンが待機している訓練場準備棟のエントランスに、ハーヴェンが生徒達を引き連れてやってくる。どうやら、彼が講義を担当している上級生達も訓練場を使うと見えて、モニター席にマモンが座っているのを認めると、「よぅ!」と手を挙げた。


「おー、お疲れ。そっちさんも訓練場を使うのか?」

「まぁな。俺のクラスは、魔法武器の実践を予定している。折角の機会だから、みんなに武器も見繕おうと思って」

「そーか、そーか。だとすると……行き先はおやっさんの所か」


 イエス、その通り。マモンの指摘に、ハーヴェンが満足そうに応じるが。

 マモンの言う「おやっさん」とは、学園に常駐している魔法武器職人・ヤジェフの事である。もちろん、彼もまた中身は人間ではなく、怠惰の上級悪魔・キュクロプスを本性に持つ。魔界武器職人の名匠・ワハの弟子であり、武具のメンテナンスにも対応してくれるため、何だかんだで武器を扱う機会が多い特殊祓魔師にとって、ありがたい存在だ。しかも、怠惰の悪魔にしては珍しく、性格は勤勉そのもの。基本的に喧嘩っ早い職人達にあって非常に穏やかな物腰もあり、何かと出番が多い魔法学園に派遣されている。


「いいねぇ、いいねぇ。やっぱ、自分の武器を持つってのは、ロマンがあるよなー」


 そう言いつつ、マモンはカタカタと左端にあるパネルを操作し、ミアレット達が出発していったのとは異なる入り口を開放する。


「ホイホイ、魔法武器館へのゲートを開いたぞ」

「おぅ、サンキュー。という事で……はい、みんな。今日は魔法武器館で自分に合う武器を見つけると同時に、ちょっと訓練もしてみような」

「そんじゃ、ま。行ってらっさーい。あぁ、そうそう。俺達相手に【画像記録】アプリを使うのは構わないが、魔法道具の錬成はマル秘情報なもんで。魔法武器館での撮影は、基本的に禁止だからなー。そこんとこは守ってくれよ」


 ハーヴェン越しに、自分に魔術師帳を向けている生徒がいるのにも目敏く気づき、マモンがちょっとだけ忠告するものの。相変わらずの調子に、ハーヴェンは「参ったな」と頭を掻く。

 【画像記録】アプリケーションは元々、心迷宮攻略の様子を克明に記録するために追加された機能であったが。最近は趣味丸出しの画像撮影に使われている事もあり、標的となっているハーヴェン達にしてみれば、あまり気分がいいものではない。

 しかし、そこは天使様達にも散々ネタにされてきた彼らである。武器を持つロマンと一緒に、ほんのり恋愛的なロマンを感じるくらいならいいか……と、キラキラした彼女達の視線を前に、強く言う事もできず。結局は慣れてしまったついでに、諦めていたりする。……なお、【画像記録】が天使様ご用達の機能でもあることは、言うまでもない。


(さて……と。俺はこっちに専念、専念……っと)


 ハーヴェン達が魔法武器館への転移パネルに吸い込まれて行ったのを見届けて。マモンは新入生達の戦況を再び眺めるものの……明らかに異質な戦績を挙げている生徒がいるのにも気づき、つい苦笑いしてしまう。


(まさか、初っ端から魔法武器を使いこなしちゃう子がいるなんてなぁ。ウォーメイジは伊達じゃないってトコロか)


 それこそ、トレーニング塔への魔法武器の持ち込みは【アイテムボックス】開放が条件なのだが。その【アイテムボックス】を開放したのが自分自身でもあるため、文句を言えた立場もないし……そもそも、文句を言う必要もないかとマモンはアッサリと割り切る。だが、その反面……きっちりと、上位クラスならではの洗礼も被っている気がすると、マモンにはミアレットがちょっと不憫にも思えた。


(ハハ……エリア2から、シュードウルフに絡まれたか。下手に武器の習熟度もあったから、ウォーメイジ判定になったんだろうが……これはこれで、難儀なこったな)


 そう……当のミアレットが「魔物の配分がバグってる」と感じていたのは、決して「気のせい」ではなかったのだ。

 今までの通例であれば、得意分野に差こそあれ……新入生達は基本的な初級クラスに振り分けられるのが一般的であるし、初等カリキュラムで訓練場への挑戦を組み込んだのも初めてだったりする。

 実際に、マモンも「攻撃魔法」を覚えていない生徒がいた場合は、塔への挑戦自体を見送るつもりでもいたし、1人でも遅れが出そうであれば、全体的なカリキュラムを緩める事も検討していた。しかし、今年の新入生はミアレットやイグノのような「特例」を抜きにしても、全体的なレベルが非常に高い。攻撃魔法未修得の生徒もいなければ、魔法習得への意欲も旺盛。それが故に、思い切ってトレーニング塔へと生徒達を連れ込んだのだが。

 実は……上位クラスになればなる程、訓練場全体の難易度が上がるのだ。「魔力トレーニング塔」の場合は出現する魔物のレベルが上がるだけではなく、群れの発生率も高くなる。ミアレットの初陣が「コウモリ5体」になったのは、彼女のクラスが下手に上位判定されていたからだった。


(上位クラスの場合、難易度が上がる事も説明しておけば良かったかな……いや? そうでもないか? 意外とやってけそうだな、この調子だと)


 ノリノリで魔物を討伐せしめたミアレットの姿に、心配しなくても大丈夫だろうと安心すると同時に……視線をスライドさせて、もう1人の注目株を見つめるマモン。そんな彼の視線の先では……イグノが爆速でエリア5に到達しているのが映し出される。


(おぉ! イグノ君もすげぇな。しかも……ウンウン。ちゃんと、アドバイスを聞いてくれたんだなー)


 中級魔法のファイアストームにこそ、手は届かなかったようだが。個別レポートのアドバイス通りにフレアレインはしっかりと習得したようで、イグノはコウモリ型の魔物……シュードバットを難なく焼き尽くしていた。


「っしゃぁぁぁ! アイテムゲットぉ〜!」

(もしかして、イグノ君はアイテム狙いだったりするのか……? ま、まぁ、アイテム蒐集に熱が入るのは、モチベ的にも悪い事じゃないし。とりあえず、おめでとさん……っと)


 シュードバットが落とした「魔物の欠片」1つでさえ、派手に大喜びするイグノを生暖かく見つめては、彼の無邪気な様子に肩を揺らしてしまうものの。しかし、アイテムに固執するのはあまり良くない傾向だろうかと、マモンは考えてしまう。

 魔力トレーニング塔は個人での挑戦となるため、アイテムの取り合いは発生しないが。実際の心迷宮攻略も含め、各地での魔物討伐はチームプレイが基本である。ドロップしたアイテムが原因で、仲間割れを起こされても困るし……実際に「深魔の欠片」を始めとした、レアアイテムを巡った争いも絶えないのが現状だ。


(とは言え……イグノ君は、ハーヴェンに同行予定だったな。であれば、その辺は心配しなくてもいいか……)


 それに、意外と素直みたいだし……と、イグノも問題なしと判断し。マモンは再び、生徒全員の様子に目を配り始める。しかし……視線を動かす中で、異常な行動を繰り返している生徒を見つけ、マモンの眉間にギュッと皺が寄った。


(こいつは……また、厄介な奴かもしれんな……)


 マモンが見つめるモニターには、ヴァルムートがエリア3を彷徨っている姿が映し出されている。しかし……彼の魔物討伐の様子は、異常そのもの。猫型の魔物・シュードリンクスに魔法を浴びせて瀕死にさせた挙句に、容赦無く殴る・蹴るの暴行を加えているではないか。いくら魔物相手とは言え、ここまで残虐になる必要はないのだが……。


(……何がそんなに、鬱憤が溜まっているんだろうなぁ。この八つ当たりはちょいと、理不尽だぞ……?)


 ヴァルムートの「深魔指数」を念の為、確認してみても。……彼の「深魔指数」はまずまず、安全圏である。しかし、彼の過剰な嗜虐性には注意を払っておいた方がいいだろうと、マモンはこっそりと自身の魔術師帳にメモを書き添えた。

【登場人物紹介】

・ヤジェフ(地属性/闇属性)

怠惰の上級悪魔・キュクロプスを本性に持つ、堅実かつ穏やかな性格のブラックスミス。

魔法学園・訓練場の一角にある「魔法武器館」の管理者でもあり、普段はそちらに常駐している。

魔物の毛皮に爪や牙、骨等から魔法武具を作るのを得意としており、各種訓練場や心迷宮で獲得した魔法武器素材を持ち込めば、オーダーメイドで武器等を仕立ててくれる。

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― 新着の感想 ―
なるほど!ミアレットさんのところは少し難しいクラスの認定になってたんですね。 でもおかげで新魔法もゲットできたことだし、よかったよかった! イグノ君もノリノリのようですが、ヴァルムート君……。性格歪み…
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