6−19 ヒントを見る?
(うーんと。目的はとにかく、できる限り上へ登ること。階段はどこかしら……?)
魔術師帳に表示された情報に、フムフムと唸りながら……「上の階」へと続く階段はどこだろうと、マップ図に目を落とすミアレット。
【魔力トレーニング塔戦績】アプリケーションのガイドによると。スタート地点は毎回異なるものの、階段の場所は変わらないようで、一度見つけた階段は自動的にマッピングされる仕組みになっているらしい。現に……ミアレットが立っているポイントにはしっかりとピンが表示されており、歩けば進行経路が記録される他、少しずつ周囲の様子が広がるように表示されていく。
(なるほど。何度も挑戦すれば、いつかは50階に到達できる仕組みになっているのね。魔力因子の覚醒率を上げつつ、上を目指せ……と。塔の仕組みだけ考えれば、分かり易いと言えば、分かり易いわ)
回数を重ねれば効率よく攻略できる上に、階段を見つけさえすれば、次回は到達エリアから再開も可能とされている。しかし、総魔力量が10%を下回った時は、その場で強制的に挑戦終了。再チャレンジは次の日以降となる。
そして、魔物が落とすアイテムの他に、塔を攻略すれば魔術師帳の拡張機能を解放してもらえるようで……ミアレットとしてはお馴染みになりつつある【アイテムボックス】の解放は、エリア30踏破のご褒美らしい。尚、10エリアごとにご褒美が設定されており、最初のご褒美は例の【画像記録】アプリケーションとなっていた。
(アハハ……特派員の皆さん、意外と凄い人達だったのかも……)
彼女達は要するに、このトレーニング塔で少なくともエリア10までは攻略済みという事である。麗しの先生に黄色い声を飛ばすだけが、能じゃなかったということか。
(って、いけない、いけない。そんな事を考えている場合じゃないわ。えぇと、戦利品はアプリ内で管理されて、獲得は挑戦が終了してから。だから……その場でゲットしたアイテムを使うことはできないし、ここで【アイテムボックス】が解放されていない場合は、現実世界側での利用もお預けなのね)
その代わりと言ってはなんだが、塔内限定で使える回復オプションが付いており、使用回数に限度はあるものの……傷の治療と、各種ステータス異常はそれぞれ5回ずつ対応してもらえるらしい。もちろん、実体化した後のアイテムも利用は可能なのだろうが……【アイテムボックス】がなければ、引き継ぎは塔内のみ。【アイテムボックス】解放済みのミアレットは、既に獲得している道具もきちんと表示されているものの。……本来であれば、初挑戦で【アイテムボックス】が解放されていることはないため、これは明らかに特別待遇だろう。
(マモン先生に感謝しなきゃね……。それはそうと、具現化の仕組みは心迷宮に似ている気がする……)
この仕組みはきっと、心迷宮の流れを汲んだのだろうなぁ……と、ミアレットは変に納得してしまうものの。そんな彼女の思惑なんぞ知らんとばかりに、早速、天井付近に魔物らしき影が屯しているのが目に入った。
「うぁ……! 本当に、魔物が出たし……!」
心迷宮で出くわした魔物に似せているのだろう。真っ黒で輪郭がやや曖昧ながらも、辛うじてコウモリっぽい魔物であることは判別できるものの。ミアレットの心の準備なぞお構いなしに、こちらに気づいた様子のコウモリ型の魔物達が牙を剥いて突進してくる。相手の数は5体。普通に素早い上に、意外と獰猛なようで……これでは、怪我の1つや2つは当たり前じゃないかと、ミアレットは場違いにもツッコんでしまった。
「とっ、とにかく、倒さないと……! 煌めく風よ、天を臨め! 風の息吹を刃と成さん! ウィンドブレイド……トリプルキャスト!」
咄嗟に攻撃魔法を発動するものの、残念なことに……ウィンドブレイドはあまり使い勝手がいい攻撃魔法ではない。効果範囲が非常に狭いため、相手をまとめて攻撃するだなんて気の利く挙動ができるはずもなし。威力も足りていない上に、命中率も微妙なためか……3発の風刃のうち、命中したのはたったの1発だけだった。
「キキっ……! キキキキッ!」
「ひゃぁッ⁉︎」
しかも、一発で仕留めることもできなかったため、5匹のコウモリから総攻撃を喰らってしまうミアレット。なんとか牙で噛みつかれるのは避けられたが、結構な大きさのコウモリからの体当たりは、か弱い少女を吹き飛ばすのには十分すぎる威力である。
「あっ、イタタタタ……! うぅ、どうすれば……!」
魔物達の猛攻加減からするに、のんびりと考えている暇はなさそうだ。であれば、お決まりのパターンと言わんばかりに、例の凶暴なステッキに頼るのが手っ取り早いのだろうが……。
(こんな時に、なんだけど。……ここで武器を使うのは、もったいない気がするわ……)
確かに、訓練場への魔法道具の持ち込みは制限されていないし、【アイテムボックス】を開放されているのだから、コズミックワンドを頼るのも1つの手ではあろう。だが……魔法道具に頼ってばかりでは、肝心の魔力因子の目覚めは見込めないに違いない。
(あぁぁ! でも、でも……このままじゃ……!)
強がってばかりでは、やられてしまう……か。いくら格好つけてみたところで、タダの突進だけでも相当のダメージが入る以上、モタモタしてもいられない。そうして、ミアレットはコウモリ達の攻撃から頭を庇いつつも、仕方なしに【アイテムボックス】を開こうと魔術師帳をタップするが……。
(ふぇ? あっ、新しい魔法のヒント……?)
こんな状況で、新しい魔法もへったくれもないだろうに……と、思う間もなく。真っ先に目に飛び込んできたのは、ちょっと場違いにしか思えない変なメッセージ。それでも……誘われるがままに、ミアレットはメッセージにくっついている「ヒントを見る?」のボタンをポチッと押してみてしまう。すると、彼女の目前に広がったのは……とある魔法の呪文を煌々と示す、空中パネルだった。




