6−7 このまま、目立ちまくってもらいましょ
授業の合間の休憩時間は1時間。折角、お天気もいいのだし……と、ミアレットはエルシャとイグノ、そして合流したディアメロと一緒に中庭でランチと洒落込んでいた。カテドナはもちろんの事、今日から側仕えを拝命しているキュラータも同行しており、丁寧にお茶の用意もしてくれるのだから、ありがたい。
「ふーん……ディアメロは王子様だったのかぁ」
「まぁな。……でも、僕は魔力を封印されているんだ。だから、王族と言えど、本来はここに来る事さえできないはずだったんだが……魔力解放のために、通わせてもらっている」
「封印されし魔力……! なんだか、格好いい響きだよな……!」
「えっ? そ、そうか……?」
ちゃっかりご一行に馴染んだイグノは、意外と気が合うのか……ディアメロともすんなり会話を楽しんでいる。そうして「封印」という言葉に過剰反応しながら、「眼帯でもしてみるか……」と意味不明かつ、ミアレットには微妙に分かってしまう譫言をブツブツと呟き始めた。
(……忘れてた。こいつ、根っからの厨二病患者だったっけ……)
怪しい言動さえなければ、ただの美少年で済むのに……と、ミアレットは乾いた笑いを溢してしまう。どうやらイグノは悉く、残念ムーブをかまさないといられないタチらしい。
「そうそう、ミアレット。マモン先生からもらったアプリ、凄いよね。これがあれば、もっと魔法が上手になれる気がする」
「そうよね。覚えている魔法の習熟度が分かるのは、便利だわぁ」
ミアレットがイグノの妄想に、生暖かい気分になっていると。そんな事は露知らず、エルシャが魔術師帳を示しながら話しかけてくる。そうして、どれどれとミアレットが画面を見つめれば。エルシャの「習得推奨魔法」リストにはチラホラ中級魔法も混じっており、ミアレットに負けず劣らず、習得可能な魔法数も多い様子。しかし……。
(あれ……? エルシャにも光属性の魔法があってもいいはず……)
ミアレットの予想に反し、彼女のリストに並ぶのは青い文字の水属性魔法ばかり。白い文字の魔法は1つもない。
「ミアレットはどんな感じだった?」
「えぇと……エルシャと大体、同じよ? 中級魔法もちょこっと混ざっていたから、そっちも頑張らないと」
「そっか。それじゃ、一緒に頑張ろうね、ミアレット。……ふふ、本校に来てから中級魔法の指南書も見られるようになったし、もっともっと新しい魔法も使えるようになりたい」
「そ、そうね……(もしかして、光属性の魔法の事は伏せておいた方が良さげ……?)」
エルシャのリストを見つめながら、光属性の魔法が並んでいる方が特殊なのかもしれないと、ミアレットは嫌な予感を募らせる。タダでさえ、初日から変な注目を集めてしまっているのだ。これ以上余計に目立つのは、平穏な学園生活に支障が出そうだし……ここは内緒にしておこうと、こっそりと判断していた。
「イグノはどんな感じだった?」
「ふっふっふ……エルシャちゃん、よくぞ聞いてくれた!」
そんな中、イグノにも話を振るエルシャ。きっと、美少女に話しかけられて悪い気はしないのだろう。ここぞとばかりに胸を張ると、イグノが自慢げに【魔法習熟度パラメータ】の画面を見せてくるが……。
「習得した魔法はファイアボールだけだが、ちゃんと新しく覚えられそうな魔法はあったぞ。しかも……見ろ見ろ! ファイアボールの習熟度は80%を越えているし、リストには闇属性の魔法も入っていて! クククク……! 俺の封印されし邪悪な力が目覚める時が来た……!」
「イグノは闇属性の魔法も表示されているのね。……邪悪な力は目覚めない方がいいと思うけど。闇属性魔法が候補に入っているのは、流石かも」
「そうだろう! そうだろう!」
魔法習得数が多いエルシャのリストにはハイエレメントの魔法がないのに、魔法習得数が1つしかないイグノのリストにはしっかりと闇属性の魔法がピックアップされている。このことから察するに、ハイエレメントの魔法については魔力適性の高さが関係しているのだと、ミアレットはちょっとした仮説を立てた。
(なるほど。私とイグノは女神様達から、魔力だけは多めに貰っているものね。ハイエレメントの魔法習得は、魔力適性に関係するのかも。だったらば……イグノにはこのまま、目立ちまくってもらいましょ)
注目度をイグノに譲れば、自分は目立たなくて済むに違いない。そんなイグノの意外な活用法に、ミアレットはようやく気分を上向かせると同時に、この調子なら上手くやっていけそうだと微笑む。イグノはどうも目立ちたがり屋のようだし、このまま突っ走ってもらった方が互いに都合もいい。
「……いいなぁ。僕も魔法を使えるようになりたい……」
そんな中、1人だけ魔法を使うことができないディアメロが寂しそうに呟く。考えてみれば、彼だけ魔法講義に参加していないのだし……会話についていけないディアメロは当然、面白くないだろう。
(あちゃー……悪い事をしちゃった……。それでなくても、ディアメロ様は魔法絡みになると急に弱気になるし……)
ガクリと肩を落とすディアメロに、ミアレットとエルシャがすかさず「副学園長先生がいい方法を探してくれるはずだから」と、前向きな言葉をかけるが。優等生で通っている2人の言葉は、ディアメロにはあまり響かない。2人の励ましはまるで逆効果とばかりに、いよいよいじけ始めた。
「そんなに落ち込むなって。ディアメロだって、そのうち魔法が使えるようになるんだろ?」
「どうだろうな? 封印が解けない可能性もあるし、まだ魔法を使えるようになると、決まったわけじゃない」
「でもさ。逆に、使えないと決まったワケじゃないって事だろ? 封印されていた分、ドカンと来るかも知れないじゃん」
「……! そうか……そうだよな。うん、イグノの言う通りだ。僕にもまだ、魔法を使える可能性も残っている」
やや馴れ馴れしくディアメロの肩を抱き、ポンポンと叩くイグノ。王子相手に言葉遣いも態度も、無礼極まりない気がするが。当のディアメロはあまり気にしていないようだし……何より、ちょっと落ちこぼれな彼に勇気づけられて、ほんのり前向きになれるらしい。
(イグノ、ナイス……! なんだ、意外といいところあるじゃない)
まるで親友のように笑い合う、ディアメロとイグノ。そうして、ミアレットは見事にディアメロを慰めたイグノの印象を改めようとしたが……。
「デュフフ……! 王子の親友、ゲットだぜ……!」
「……」
あっ、この雰囲気は……変な妄想をしでかしているな? しかも、下心全開のヤツ。
「なぁ、ミアレット。……イグノって、結構な変わり者だったりするか?」
「アハハ、そうっすねー。でも、そこまで悪いヤツじゃないですから。……ディアメロ様もエルシャも、お友達になってあげて下さい……」
「あぁ……そうだな。折角の学園生活だ。友人を作るのは、いい事だと思うし……」
「うん……私ももちろん、お友達になるくらいは構わないけど……」
ただ黙っていれば、ここまで怪しまれずに済むのに。思春期を拗らせた病気のせいで、絶対に損している気がすると……ミアレットはまたも遠い目をしてしまうのだった。




