6−6 勉強はしないとダメ
「さて。魔法を習得するのに、呪文を覚えるのが大切なのは分かってもらえたかな? もちろん、呪文はあくまでとっかかりだ。魔法には簡略化と言って、呪文を省略して展開スピードを早めるテクニックも存在するし、最終的には丸ごと使うこともなくなるだろう。だが、魔法のアレンジ同様、簡略化するのも魔法を理解し尽くしてから。ちゃんと魔法を使いこなすためにも、呪文を覚えると同時に、構築概念の勉強や練習は怠らないこと」
やっぱり、どこまで行っても基本は大事。基礎ができていなければ、改造も省略も、へったくれもない。
確かに、本校の環境であれば、分校よりも遥かに効率的に魔法を習得できそうだ。だが、マモンも「ある程度のところまでは理解できるようになっている」と言っていた通り……言霊が面倒を見てくれるのは、全てではないのだろう。
(アハハ……なんだかんだで、勉強はしないとダメって事ね)
分校で勉強していた事は無駄ではなかったと、安心を覚えつつも……結局は楽もできないらしいと、ミアレットは複雑な気分になってしまう。ほんの少し、効率的に習得できるようになるみたいだが。努力が必要なのは、変わらない。
「おっと、もうこんな時間か。それじゃ……午後は自分らしい魔法の使い方について、説明していくからな。んで……折角だ。魔法の練習が楽しくなるアプリケーションを2つ、みんなにプレゼントするぞ」
しかしながら、生徒のモチベーションアップに余念がないらしいマモンは、抜かりなく新しいアプリケーションを追加してくれる模様。魔術師帳のトップページを見やれば、そこには【仮想空間システム戦績】と【魔法習熟度パラメータ】なる項目が増えている。
「サラッと追加アプリの概要も説明しておくな? まず、【仮想空間システム戦績】は本校自慢の仮想空間システムを利用するためのアプリだ。仮想空間システムの訓練場での成績や、成果の記録を見る事ができるぞ。なお、各訓練場の利用ガイドはライブラリページに格納されているから、そちらも確認してくれ」
初めての心迷宮攻略の時にも、そんな話が出ていた気がする。仮想空間システムは「擬似的に強敵と戦える」訓練場の1つであり、マモン自身も「本気の自分」とミラーマッチをするために利用していると聞いていたが。……あの頃のミアレットからすれば、現実味のない遠い未来の話でしかなかった。
(本当に、バリバリ訓練させられる事になったわぁ……。でも、模擬戦ができるのはいい事かも。……魔法を試すのにも、相手がいた方が効果も分かりやすいし)
なんだかんだで荒事に巻き込まれ続けたせいで、精神的にもタフになったと、ミアレットはやや前向きに考えることにすると。もう1つのアプリケーションへと視線を移す。名称からするに、魔法習得に関するアプリケーションのようだが……?
「そして、【魔法習熟度パラメータ】はそのままズバリ、魔法習得度合いがどんな感じか教えてくれるアプリだ。みんなの魔力反応をリアルタイムで分析していて、使える魔法の名称や習熟度を可視化してくれるぞ。因みに、練習中の魔法があった場合は何が足りないのかヒントをくれたり、新しく覚えられそうな魔法もピックアップされるから、是非に魔法を練習する時の参考にしてくれよな」
これはまた、随分と実用的なアプリケーションだとミアレットは感心してしまう。自分が習得している魔法は当然ながら、覚えているが。習熟度(要するに、対象の魔法をいかに使い込み、いかに理解しているか)は本人でさえ、正確に把握するのは難しい要素である。それが可視化され、更に「どの部分が足りないのか」を明確に示してもらえれば……魔法の練習は飛躍的に効率的かつ、楽しくなるに違いない。
(これは絶対に便利なヤツ……! えぇと、どれどれ? 私の魔法はどんな感じかしら?)
そうして物は試しと、アプリケーションを起動してみると……ミアレットが覚えている魔法の一覧だけではなく、「習熟度:〇〇%」や「魔法の傾向」といった具合に、事細かに「ミアレットという魔術師」を解析した結果が表示される。そして、マモンの説明にあった通り、習得可能な魔法をピックアップした項目もあるが……。
(うん? 風属性以外の魔法も並んでいる……?)
「習得推奨魔法」と別枠で表示されているタブには、風属性を示す黄色い文字以外に、白い文字も並んでいるではないか。そしてマジマジと見やれば……どうやら、白い文字は光属性の魔法を示しているらしい。
(あっ、そっか。……ハイエレメントの魔法はベースエレメントとは別枠だったわね。だとすると……私も回復魔法を覚えられるって事かなぁ……)
白文字のラインナップを、どれどれと目で追えば。「プティキュア」に「ポイズンリムーバー」、「ホーリーショット」と……光属性の初級魔法が3種類程、並んでいる。
(ハイエレメントの魔法って、初級でも習得難易度が高かった気がするけど……。これ、本当に私が覚えられそうな魔法なのかしら……)
攻撃魔法はさておき、回復魔法は覚えておいて損はないか。そもそもハイエレメントの魔法習得に関しては、条件はみんな一緒のはず。ベースエレメントは自身と一致する魔法しか扱えないが、ハイエレメントは基本的な魔法であれば、習得可能とされている。きっと他の生徒にもピックアップされているのだろうし、その内チャレンジしてみようと……小悪魔達を引き連れ、退室していくマモンを見送りつつ、ミアレットは軽く考えているものの。
……彼女はすっかり忘れているのだ。自分だけが新入生の中で「ちょっとだけ上位クラス」であったという事を。
そして、彼女は知らないのだ。ハイエレメントのピックアップが、いかに特別な事であるかを。更に、その「特別扱い」が余計な恋愛イベントを引き起こすなんて。……できる限りの平穏を望み、自分は平凡だと思い込んでいるミアレットには、知る由もない。
【魔法説明】
・プティキュア(光属性/初級・回復魔法)
「柔らかな慈愛をもって 汝の痛みを癒さん プティキュア」
3種類ある「傷を癒すための回復魔法」で、最も初歩的な魔法。
一般的な切り傷や擦り傷等の、軽い怪我を治療できる。
日常的な怪我を癒す回復魔法のため、専門知識や医療知識がなくとも習得可能。
しかし、重度の裂傷や骨折など、「自然回復が難しい怪我」が対象となると、十分な効果を発揮できないことも。
・ポイズンリムーバー(光属性/初級・回復魔法)
「穢れを清め 濁りを濯げ その血に平穏を呼び戻せ ポイズンリムーバー」
バッドステータス「毒」を解除する、状態異常回復魔法。
様々な毒に対して効果を発揮する、頼もしい魔法である。
名称から「毒を取り除く」魔法に思えるが、構築概念としては「血を清める」事に重点を置いており、毒に冒された「血液を正常化する」魔法であるため、各種毒に対する知識を必要としない。
上記のことから構築難易度は割合平易であるが、否応なしに血流全てを浄化する魔法であるため、魔力消費量は初級魔法と思えない程に高め。
・ホーリーショット(光属性/初級・攻撃魔法)
「一度の過ち 一度の罪 その禍根に光の導きを ホーリーショット」
空気中の「汚れなき魔力」を集め、対象に衝突させる攻撃魔法。
光属性攻撃魔法の基本的な魔法とされ、派生先の魔法も多い。
肝心の攻撃性能は低めで命中率にも難があるが、光属性の特性により、闇属性のハイエレメントを持つ相手には威力が高まる。
【補足】
・ステータス異常:「毒」
毒系統の魔法効果によって、身体機能が損なわれるバッドステータス。
血液が毒に冒された状態で、呼吸や行動が制限され、長時間この状態異常が続くと、最悪の場合は死に至る。
基本的に自然回復しない状態異常であるため、各種解毒剤か、状態異常回復魔法「ポイズンリムーバー」などを利用し、早急な処置をすることが肝要となる。




