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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
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1−19 理解できる日は、絶対に来ない

 落ちる、落ちる……落ちるッ!

 あり得ない角度でくねる回廊など、関係ないとばかりに……マモンが縦横無尽に暴れ尽くす。ビュンビュンと鋭く唸る刀の風圧に、鋒が自分に向けられていないとは言え、ミアレットの感性は縮みっぱなしである。その上、当のマモンはまだまだ余裕でもある様子。しっかりとミアレットにも気遣いを見せてくるのだから、凶悪な笑顔とは裏腹に、生徒に対する遠慮はあるみたいだが……。


「ミアちゃん、大丈夫か〜? もしかして、酔っちまったか?」

「ゔっぷ……確かに、ちょっと気分が悪いかも……です……ぅ」

「そうか……ま、もうちょい我慢してくれな? あっ。でも、ここでゲロるのは、勘弁してくれよ」

「は、はひ……善処します……」


 そうじゃない。そうではない。懸念事項はそこではない。ミアレットとしては、マモンがどうしてここまで「余裕なのか」が問題である。

 先程から見ている限りで、明らかに相手は本気で「こちらを殺しに来ている」。拳を振り上げるものがあり、牙を剥き出しにして炎を吐くものがあり、大きな体躯で体当たりを仕掛けてくるものがあり……と、思い思いの攻撃を同時に繰り出してくるのだから、彼らと互角以上に渡り合うのは厳しいものがある。


(ゔぅ……やっぱ、根本的におかしいわ、この人。……どうして、片手でここまでできちゃうのよ……。と、言うか……!)


 もはや、生物としての次元が違う。同じように任務をこなせと言われても、絶対に無理である。だからこそ、こんな事に巻き込まないで……とミアレットは切に思うのだ。

 確かに、今の今までは彼のおかげでミアレットは無傷であるし、マモン本人もかすり傷すら作っていない。普通であれば「見てるだけで経験値ウマー」な状況でもあるので、大悪魔様のおっしゃる通り「大サービス」なのも、間違いない。

 それでも……ミアレットは大いに不服である。マモンの強引さにではなく、自分も一端の魔術師として引き込まれそうになっているのが、非常に不服なのだ。……このままいけば、確実に魔術師に仕立て上げられて、危ない目にジャンジャン遭わせられるのは時間の問題。それだけは、何がなんでも阻止しなければ。


(グスッ……もう、色々と本格的に気分が悪くなってきた……。よく運転手は車に酔わないって、言うけど……本当なのかも知れない……ヴぷ……!)


 しかも、気遣うついでに「酔っちまったか?」と指摘されたらば、みるみるうちに気分が悪くなったではないか。しかしながら、マモンは刀を操りつつも、器用に何かの詠唱も始めた様子。さっき、「魔法は無効」だと言っていたはずだが……鮮やかに、ちょっとした補助魔法を発動させる。


「天翔ける風を集め、汝の衣とせん。疾走せよ、エアロブースター……っと。うん、これで少しは楽になるかもなー」

「えっと……魔法は無効なんじゃないんでしたっけ? でも……あれ? 確かに、少しだけ気分が良くなってきたような……」

「別に魔法が使えなくなるわけじゃないぞ? あくまで相手への魔法攻撃がノーカンになるだけで、味方への補助魔法は有効なんだよ……っと、よっと!」

「ヒャァッ⁉︎」


 当然ながら、相手はこちらのお話が終わるのを待ってくれるはずもなく。そうして猛る魔物の攻撃をかわしつつ、無遠慮にスパッと一刀。手慣れた様子でマモンが相手の腕を落とすと同時に、そのまま空へと舞い上がり、ついでだと言わんばかりに頭も落とす。そうして、次の瞬間には魔物を形作っていた黒い靄が霧散して、跡形もなく消えてゆくが……。


「そ、そうなんですね……でも、この状況……あまり、悠長にお喋りしてる場合じゃない気が……」

「そうか? 俺の方は退屈で仕方ないんだけど」

「はい? 嘘、ですよね……それ?」

「別に嘘じゃないぞ?」

「アハハ……流石ですぅ……」

「因みに、エアロブースターは一時的に動体視力を向上させる効果があるぞ。酔い止めの効果もありっちゃ、ありだし、覚えておいて損はないかもなー」

「そうですか……(説明してくれるのは嬉しいんだけど、やっぱりそれどころじゃない気がする……)」


 ミアレットはもう、力なく笑うことしかできない。ここまでファンタジーでエキサイティンな状況だと言うのに、退屈だと言ってしまえるその神経を……ミアレットが理解できる日は、絶対に来ないに違いない。


「ま、そういう事情もあって……実は心迷宮攻略には、メイジやエンチャンターの方が役に立つ局面も多い。味方への魔法を無効化する法則は今のところ、出会したこともないしなー」

「あはは……それってつまり、私もお役に立てるってことですか?」

「そう言うこった。これからも頼むぞ。期待してるからな〜」

「……はひ。精一杯、ガンバリマス……」


 そう言いつつ、今度は横一閃。煌めく風刃を繰り出して、4〜5メートルはあろうかと思われる巨人を、上下に真っ二つにして見せる。……気づけば、10体ほどいると思われた魔物が、残すところ2体になっている。状況を把握する時間さえも許されず、本当に片手で全てを薙ぎ払いそうな勢いに……ミアレットは危機感を募らせるのにも、疲れていた。

【魔法説明】

・エアロブースター(風属性/中級・補助魔法)

「天翔ける風を集め 汝の衣とせん 疾走せよ エアロブースター」


対象の俊敏性を一時的に高める、能力向上系の補助魔法。

追い風の流れを集約して対象の動作を補助することで、素早さ・命中率・回避率を底上げし、動体視力を向上させる効果がある。

対象の肉体に直接作用する魔法ではないため、副作用が非常に少なく、比較的安全に利用できる魔法である。

反面、いかに追い風を作り、対象に上手く纏わせられるかは術者の手腕にかかってくるので、魔術師側の習熟度がかなりモノを言う魔法でもある。

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