表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第6章】囚われの王子様
218/327

6−4 褒めて伸ばすタイプ

 生徒達の程よい注目を浴びて、得意げに胸を張るモフモフの小悪魔達。マモンによると、彼らは「グレムリン」という強欲の下級悪魔であり……彼自身の配下でもあるらしい。


「それじゃ、まずは自己紹介から。お前ら、みんなにきちんとご挨拶を」

「ハイです!」


 しかしながら、彼らにはそこまで厳しい上下関係はないようで。マモンにご挨拶を促され、無邪気に手を挙げては……ご用命自体が嬉しいのか、グレムリン達はパタンパタンとご機嫌そうに尻尾を振っている。


「おいら、ゴジです!」

「僕はクランですよ。よろしくです!」

「ラズですよぅ! どうもですです!」


 三者三様の挨拶もこれまた、可愛い限り。それでも本題は忘れていないと見えて、そのうちの1人がしっかりと親玉の指示を仰ぎ始める。しかし……。


「パパ……じゃなくて、会長……でもなかった! えっと、はぅぅ……!」

「……呼び名はいつも通り、パパでいいぞ。ラズ」


 向かって右側のグレムリン……ラズがまず、マモンの呼び名でまごついているが。それも慣れたように、「パパ呼び」を許すマモン。「親玉」を拡大解釈すれば、「パパ」でもスジは通るのかも知れないが……こうなってしまうと、配下というよりは、家族に近い関係なのかも知れない。


(なんか、微笑ましいわぁ……!)


 ウコバクも相当に可愛い小悪魔であったが、グレムリンもかなり可愛らしい。ミアレット自身はやや犬派ではあるものの……全体的に動物好きな事もあり、小悪魔達の虜になり始めていた。魔法講義の中身が重要なのは、言うまでもないが。彼らのやり取りは見ているだけでも、絶妙に癒されるし……講義に参加して良かったとさえ、思えてしまう。


「それじゃ……パパ。どの魔法を発動すればいいです?」

「アクアバインドですかぁ? それとも、プリズンの方です?」

「違いが分かりやすい、アクアプリズンで頼む。できそうか?」


 ミアレットが内心で「癒されるわぁ」とホクホクしているなんて、知る由もなく。マモンがグレムリン達に水属性の補助魔法展開を指示している。「違いが分かりやすい」と言っているのを聞く限り、それぞれに個性が出やすい魔法のようだが……。


「揺めきの、水際に身を委ね! その虚空に時を封じん! アクアプリズン、ですよぅ!」


 真っ先に魔法展開を完了させたのは、右端のラズ。勢いよく展開されたアクアプリズンは、所在なさげにフヨフヨと虚空に浮いており……心なしか、形が不安定に見える。


「揺めきの水際に身を委ね、その虚空に時を封じん……アクアプリズン!」


 続いて真ん中のクランが、同じ魔法を発動させる。完全な球体でピシッと浮かぶ水塊は、ラズのアクアプリズンよりも完成度が高そうだ。


「揺めきの水際に身を委ね……。その虚空に時を封じん……アクアプリズン……!」


 他の2人がサクッと魔法を展開し、しばらくした後に……最後に左端のゴジのアクアプリズンが展開される。時間をかけたせいだろうか。ゴジのそれは、他の2人のアクアプリズンよりも色が濃く、妙に重ためな印象を受ける。


「うんうん、ご苦労様でした。それじゃ……3人の魔法が無事に展開されたところで、それぞれにどんな狙いで構築したのか、聞いてみようか。まずはラズ。お前はどんな目的で、このアクアプリズンを展開したんだ?」

「はい! もちろん、ビックリさせるためですよぅ! イタズラに持ってこいですです!」


 無邪気に手を挙げながら、拘束目的ではなく「イタズラ目的」で構築したと、悪びれる事もなく答えるラズ。その回答に、マモンがちょっと苦笑いしつつ、彼の魔法について説明し始める。


「と、いう事で……ラズはスピード重視のトリッキータイプでな。アクアプリズンを本来の拘束魔法ではなく、奇襲用の魔法としてアレンジしている。やや構築が甘いが、驚かせるだけでいいのであれば、これで十分だろう」


 結局はイタズラ目的であることを、華麗にスルーして。マモンが「よくできたぞー」と、改めてラズを褒めている。そうされて、ラズも嬉しそうだが……小悪魔がイタズラをするのは、当たり前なのだと割り切るべきか。


「お次はクラン。お前の魔法はどんな目的で構築されたものか、説明を」

「ハイ。僕のはスタンダードな拘束魔法です。僕は基本的なことを着実にこなすのが、得意なので……」

「……だ、そうだ。ご本人様の言う通り、クランは基本に忠実なスタンダードタイプ。魔法を本来の役目に沿って、綺麗に無駄なく構築しているな。だから、新しい魔法を覚える時はクランの姿勢をお手本にして欲しい」


 言われてみれば、クランのアクアプリズンは正統派の球体をしており、人間1人をホールドするにも十分な大きさを保っていた。拘束魔法としての目的を果たすには、この位の大きさが必要という事なのだろうが。他の2人の魔法と比較しても、水量も十分であろうし……スタンダードと紹介された割には、最も魔力消費量も大きいように思える。


(この場合、スタンダードの構築が一番難しいんじゃ……いや、違うわね。最後の子のアクアプリズンは、完璧に変化球だわ。あの魔法はどんな目的で練られたのかしら?)


 マモンに褒められ、クランが嬉しそうに目を細めているのを微笑ましく思いながらも、ミアレットはそっと視線をゴジの頭上にずらす。彼のアクアプリズンは3つの水球の中でも、最も小ぶりだが。何となくだが、危険な香りがすると……ミアレットは固唾を飲んで解説を待った。


「さて……と。最後はゴジのアクアプリズンだが。うーん、こいつはヤバめな構築っぽいか……? 一応、聞こうか。どんな目的で構築したんだ?」

「もちろん、暗殺目的ですよ? ちゃんと、毒を入れました!」

「……暗殺をもちろんで片付けるなし。まぁ、アクアプリズンは効果時間を長くすれば、相手を溺死させる事もできるからなぁ。活用法としてはアリと言えば、アリだが……。どうして暗殺だなんて言い出したんだか……」

「ママから、言われました! パパにくっ付く悪い虫は暗殺しておいて、って。パパに寄ってくる女の人は、これを被せて毒殺するです!」

「そ、そうか……」


 今、後方から「ヒッ」と小さく声が漏れた気がする。しかも、1人や2人じゃなく、結構な人数の。


(アハハ……暗殺されるとなったら、迂闊に近づけないかもね……)


 ゴジの言う「ママ」はリッテルのことだろうなぁと、ミアレットは思いつつ。猫(小悪魔)の手を借りてでも、旦那様の防衛に精を出すのだから……奥様もなかなかに抜け目ないと、苦笑いしてしまう。


「……発言は危険だが。この通り、ゴジはゆっくり錬成の大器晩成型だ。構築をジックリと煮詰めることで、目的に沿った魔法を展開しているな。展開までに、ちょいと時間がかかり過ぎているけど……ここまで作り込めるのは、大したもんだ」


 褒めて伸ばすタイプなのかは、さておき。マモンも結局は、グレムリン達が可愛くて仕方ないのだろう。しっかりと彼らを褒めつつ、最後の仕上げと3人の魔法をマジックディスペルで解除するが。魔法は消えても、ゴジの爆弾発言による余韻はなかなかに消えそうにない。

【登場人物紹介】

・ゴジ(水属性/闇属性)

強欲の最下級悪魔・グレムリンの1人。

普段は親玉のマモンさん邸で暮らしており、ルルシアナ商会の在庫管理の手伝いをしている。

青い山猫の小悪魔だが、割合黒い斑模様が大きめで、他のグレムリンよりもやや色が濃いめに見える。

妙に肝が据わっており、周囲に流されずにマイペースに物事をこなすタイプ。


・クラン(水属性/闇属性)

強欲の最下級悪魔・グレムリンの1人。

普段は親玉のマモンさん邸で暮らしており、ルルシアナ商会の経理補助を担当している。

ラズやゴジと同じ、青い山猫の小悪魔。

やや目が大きく、丸いため、他のグレムリン達よりもハッキリした顔立ちをしている。

何かと器用で賢いが、微妙に慎重すぎる面があり、他の2人と比較しても繊細で臆病。


【魔法説明】

・アクアプリズン(水属性/中級・拘束魔法)

「揺めきの水際に身を委ね その虚空に時を封じん アクアプリズン」


水を圧縮して作り上げた「水塊の牢」で、相手の自由を奪う拘束魔法。

アクアバインドの派生魔法で、より大量の水を操る魔法であるため、構築難易度・魔力消費量もやや高め。

対象の身動きだけではなく呼吸も制限し、相手の詠唱スピードを遅らせる追加効果がある。

構成要素の「水」に対するアレンジも幅が広い上に、対象者を直接水に接触させる特性から、そのまま窒息させるのは無論のこと、水牢に毒を混ぜたり、水圧を高めて圧殺させたりと、殺傷力を加える構築も可能である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
かーわーいーい!♡ 「はい! もちろん、ビックリさせるためですよぅ! イタズラに持ってこいですです!」←かーわーいーい!♡(大事なことなので2回)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ