5.5−2 華麗なる鑑定結果
結局、あの後……冗談抜きで誰も手を差し伸べてくれないもんだから、仕方なしに自力で起き上がり、今は講堂の端にポツンと座っている。入学式はかったるかったし、そのまま教室だなんて、気分もダウンダウンダウナーまっしぐら。それでも、俺は大人だからな。仕方なく、待っててやるとしよう。
何せ、これから行われるのは授業……じゃなくて、待ちに待ったクラス鑑定だ。指示通りに机に魔術師帳をセットし、待つこと10分。結果の確認は担当教師が来てから、って事だったが。
(デュフフ……! やってきた教師とやらも、驚くに違いない!)
だって、俺は仮想空間システムで鍛錬に鍛錬を積んだ、エリートのはず! 最後までネズミしか倒せなかったが、魔法のレベルは上がっていると思う。……多分。
(ん……?)
そうしてタイムアップと言わんばかりに、誰かが入室してくる。しかし、教壇にツカツカとやって来たのは……俺からリッテルさんを奪った憎っくき恋敵、マモンだった。
(は? どうして、マモンがあんな所にいるんだ?)
まさか、あいつが担当教師なのか? いやいや、どう見ても教師ってツラしてないだろ……?
「はーい、初めましての人は初めまして〜。お久しぶりの人は、お久しぶり! これから3日間、みんなのサポートを担当するマモンですよっと。よろしく!」
奴がチャラい感じで挨拶した途端、教室中の女の子達からキャッキャとした黄色い声が上がったんだが……? 嘘、だろう? 奴が教師なのも大概だが、アレのどこがそんなにいいんだ……?
「ハイハイ、ご声援どうも。知ってる子は知ってるかもしれんが、俺はいわゆる、特殊祓魔師ってヤツでな。んで、本校では初等魔法学を担当しておりまして。新入生のみんなにはオサライも兼ねて、魔法の基礎知識を勉強してもらうからなー。ま、下らん自己紹介はさておき。早速、クラス鑑定結果の確認と参りましょうか」
可愛いお嫁さんがいる上に、女の子達にも大人気とか……どんだけ、俺の旨味を横取りすれば気が済むんだ? 羨ま……いや、全くもって、けしからん!
「ホイホイ。そろそろ結果も出たと思うし……みんな、自分の魔術師帳に注目! まずは初級クラスについての説明を送信したから、サラッと読んでみてくれ。んで……読み終わったら画面をスクロールして、“鑑定結果のボタン”をタップ! 万が一、指定された初級クラス以外の結果が表示された子は、手を挙げて」
しかしながら、マモンはしっかりとクラス鑑定の進行はするつもりと見えて、俺の魔術師帳にも勝手に情報を送って来やがった。し、仕方ないな。ちょっとは興味もあるし……付き合ってやるか。
(……ふむ、初級クラスは4種類か。で、俺の鑑定結果は……? おぉ?)
画面には「アプレンティス」と表示されているじゃないか。初級クラスにはこんなのはなかったし、もしや……!
「はいっ! はいっ!」
「おっ? 君は確か……イグノ君だったな。もしかして、初級クラス以外の結果が出たのか?」
「その通りだ! 見給え、この華麗なる鑑定結果を! アプレンティスって出たぞ!」
「嘘、だろ……?」
俺が結果を宣言したらば、マモンの顔が引き攣ったと同時に、周囲からザワザワっと心地よい騒めきが聞こえてくる。フフッ……やっぱり、俺は天才だった! このアプレンティスはきっと、上級クラスに違いない!
「……イグノ君。1つ、聞くけど」
「なんだ?」
まさか、鑑定結果を疑っているのか? いつの間にか、すぐ近くにやって来たかと思えば、マモンが俺の魔術師帳を覗き込んでいる。フン……そんなに信じられないんだったら、いくらでも見せてやるさ。勝手に魔術師帳を覗いた事も、俺は寛大だから許してやろう。
「もしかして、君……使える魔法の種類、3種以下だったりする?」
「あぁ、そんな事か。……フッ。俺はファイアボールを極めた男なのだ! だから、上級クラスなのは当然の結果……」
「……じゃないぞ、これ。あのな……アプレンティスは見習いって意味だ。初級クラスの振り分けには、みんながどんな魔法が得意かを判断基準にしているが、判断材料として3種類以上の習得が条件でな。魔法の習得数が3種類以下の場合、判定不可って事で……とりあえず、見習いと判定されるんだ」
「はっ?」
ちょ、ちょっと待て! これってつまり……俺はスタートラインにも立ててないって事か?
「えーと……。クラス鑑定に必要な魔法習得数についても、最初に説明しておくべきだったか……」
「全くだ! おかげで、恥をかいたじゃないか!」
「う、うん……。配慮が足りなくて、ごめんな……」
第一、仮想空間システム開放の時だって、そんな説明なかっただろ! 上位クラスへのクラスチェンジ条件も、しっかり説明しておけよ! 俺は転生者なんだぞ? チート持ちなんだぞ⁉︎ これじゃ、才能の持ち腐れじゃないか!
(何、あれ……)
(本校に来ているのに、魔法習得数3以下とか……あり得ないんだけど)
(マモン先生に何を偉そうに……! 許せない……!)
ヴっ……。しかも、何のハードモードだよ、これ……! 俺は当然の指摘をしただけなのに……女の子達だけじゃなくて、クラス全体の好感度も下がっているんだが⁉︎
「ま、まぁ、ほれ! これから習得数を増やせばいい話だし、ファイアボールに自信があるんだったら、すぐに他の魔法も使えるようになるだろうし! ちゃんとサポートするから、安心してくれ!」
「そ、そうだよな! だったら、すぐに魔法を使えるようにしてくれよ! きっと、チートコードとか、隠しコマンドとか、あるんだろ⁉︎」
「チートコードに、隠しコマンド? いや、俺がサポートするのは、魔法の勉強の方なんだけど……。確かに、仮想空間システムには制御用のシークレットコードもあるにはあるが。……現実世界にはそんなもの、ないぞ」
くそぅ……! サポートすると言っておきながら、チート解放はナシかよ! 出し惜しみも大概にしておけよ……!
「マッ、マモン先生!」
「お? もしかして、他にもアプレンティスがいたか?」
「そうじゃないです! ミアレットのクラスが……!」
「ちょ、ちょっと! エルシャ、そんなに大声を上げないで!」
俺が肩を落としていると、聞こえてくるのはさっきの美少女ちゃんの声。あっ、もしかして。ミアレットも初級クラス以下の判定が出たのか? だったらば、俺だけが落ちこぼれってわけでは……。
「おぉ! ミアちゃんは初級クラスの上位判定が出たか〜! 初っ端からウォーメイジだなんて、やるなぁ! この調子なら、中級クラスへの昇進も近いぞ」
「ヴっ……! こんな物騒なの、不名誉以外のナニモノでもないです! 普通のメイジでいいですって……!」
「そんな事ないわ。とっても名誉な事じゃない! ミアレット、凄い、凄い!」
ガッデム! 俺にはチートの恩恵がないのに、なんでミアレットはチート持ちなんだよ!
(はっ、もしや……! 俺のチート展開はあいつに取られたのか……?)
あり得る、あり得るぞ……! そうか、俺が苦労続きなのは、主人公特典をあいつに奪われたせいなんだ。きっと、あいつは何の苦労もせずにのうのうと……。
「ミアちゃんは努力家さんだからなぁ。毎日、予習復習も欠かしてないって、アーニャからも聞いてたが……どのくらい、勉強してたんだ?」
「えーと、日によってバラツキはありますけど……大体、3時間くらいかなぁ……」
はっ? あいつ、そんなに勉強してるの? 3時間も……毎日?
(流石、優等生は違うな。今度、勉強方法を教えてもらおうかな)
(そう言えば、彼女……登学試験の成績もトップだったんでしょ?)
(天才って、本当にいるんだな……! いや、違うな。これは努力の賜物か)
みんなに軽蔑されている俺を尻目に、ミアレットはチヤホヤされている。俺の存在なんか、最初からなかったかのように……みんな、ミアレットに注目していやがる。どうして……どうしてだ? どうして、俺じゃないんだ……?
「関心、関心。この調子で、頑張ってくれよな。俺、超期待しちゃう」
「はぁい……。ご期待に添えるよう、頑張りまーす……」
俺も期待されたい! チヤホヤされたい! こうなったら……!
(あいつに付き纏って、徹底的にチートの秘密を暴いてやる!)
そんでもって、チート展開を取り戻さねば! チートハーレムは、主人公……つまりは俺の物だ! ポッと出のモブはモブらしく、サッサと引っ込んでくれ給え。




