5.5−1 ズッキュンズッキュンな運命の予感
章間恒例の小噺をつらつらと。
今回はとうとう、イグノ君がミアレットさんと出会ってしまうようで……?
いよいよ、今日から新学期……! それなりに(仮想空間システムで)忙しかったが、代わり映えのしない夏休みもとうとう、ジ・エンドだ! しかし……夏休みが終わるのを喜ぶ奴なんて、俺くらいのもんじゃなかろうか。
(フッ……まぁ、いい。バリバリと経験を積んだ俺ならば、スタートでダッシュな新学期も確実! きっと、いきなり上位クラスになっちゃってるに違いない!)
デュフフ……! 可憐な美少女達の黄色い声援が、今から聞こえてくるようだぜ。
「久しぶり!」
「あっ、エルシャ! 久しぶりね!」
早速、少女達の声がするけれど……あぁ、あれは休み明けの再会シーンだな。特段、俺が気にする事じゃ……って、ウォッ⁉︎ 片方の女の子、メチャクチャ美少女じゃねぇ⁉︎ 軽やかなショートカットはサラサラな銀髪。パッチリな緑の瞳はまるで、エメラルド。ズッキュンズッキュンな運命の予感がするぞ⁉︎
(見た感じ、俺と同じくらいの歳っぽいし……あっ、あれか? 彼女達も新入生ってやつか?)
だったらば! この頼れるイグノ様が、しっかりと本校をガイドしてあげよう。それでもって……君の人生も、丸ごとエスコートしてあげちゃうぞ!
「お嬢さん方、もしかして案内が必要かな?」
「えっ? 別にいらないです。……魔術師帳に行き先も書いてありますし」
だが……俺の麗しい親切を、パッとしない方の娘が速攻で断ってきやがった。いや、俺はお前に話しかけたんじゃなくて。お隣の美少女に用があるんだよ。邪魔しないでくれ給え。
「いや、俺はそっちの美少女ちゃんに話しかけているんだが。モブは黙っていろよ」
「えっと、それって……私の方って事ですか?」
「フッ……その通りだよ、ベイビー。こんな地味な奴と一緒にいたら、折角の輝きが曇ってしまうよ? さ、俺と一緒に学園生活をスタートしようじゃないか!」
我ながら、上手い事を言ったな。俺のビューティフルフェイスで流し目してやれば、美少女ちゃんもメロメロに違いない!
「お断りです。親友を馬鹿にするような方とは、学園生活をスタートさせたくありません」
「し、親友……?」
しかし、メロメロどころか、こっちを睨んでくる美少女ちゃん。これはまさか……好感度が下がった感じか?
(しまった……! こっちのモブ、美少女ちゃんの引き立て役と見せかけて、親友ポジだったのか……!)
だったら、ちゃんと特別な雰囲気を出しとけよ。攻略に必要な重要キャラなら、もうちょい分かり易くてもいいだろうに。
「……ミアレット、行きましょ。こんな失礼な人を相手にする必要、ないわ」
「うん、そうね。……よく分からないけど、関わらない方が良さそうね」
そうして、2人して冷たい視線を寄越してくる美少女とモブだったが。しかし……待てよ? ミアレットって、どこかで聞いたことがあるような……?
「お待たせしました、ミアレット様。ディアメロ様のご準備も整ったようです……と、おや?」
俺が懸命にあれこれと記憶を辿っていると、これまたどこかで見た顔のメイドさんがやってくる。その隣には、黒いローブ姿のイケ好かない感じな優男が立っているが。男はともかく……このクールビューティは確か、女神の愛し子のために派遣されていた専属メイドだった気がする。だとすると……?
(ま、まさか……! このミアレットとか言うのが、もう片方の御子だと言うのか……⁉︎)
俺は天才にも関わらず、不遇を強いられていると言うのに。専属のメイドさんがいて、美少女の親友までいるなんて。どうして、こっちの奴はこんなに優遇されているんだよ……!
「えっと、カテドナさん。この人と知り合いですか?」
「正式に知り合いという程ではありませんが……魔法学園の問題児として、仕方なしにハーヴェン様が引き取ったとお伺いしていますね。いずれにしても、ミアレット様がお付き合いする必要はない相手です」
メイドさんはカテドナさんって言うんだ……じゃ、なくてだな! メイドさん、冷た過ぎない⁉︎ そんでもって、何がどうなってハーヴェンが俺を仕方なく引き取ったことになっているんだよ⁉︎
(く、くそぅ……! これじゃぁ、ますます攻略対象の好感度が下がっちゃうじゃないか……!)
俺的には、このメイドさんも攻略対象だと思っていたんだがな。知らぬ間に嫌われているっぽいし、何でこう……この世界は俺に優しくできていないんだよ。俺の「チートで大活躍!」や「ハーレムでウハウハ!」イベントはどこで始めればいいんだ……?
「……あぁ、そう……! あんたが、例のイグノとかいう奴だったのね……!」
「ミアレット、どうした? こいつ、知り合いなのか?」
「そうですね。直接顔を合わせた事はなかったんですけど。変な意味では知り合い……つまりは、因縁の相手ですね」
「因縁……? なんだか、穏やかじゃないな。大丈夫なのか?」
「あっ、ディアメロ様が心配することは何もないですから」
因縁の相手って、俺は何も知らないぞ。しかも、なんか知らんが、ミアレットがこっちを睨んでいるんだが……?
「ここで会ったが13年目……! お前のせいで、どんだけ苦労したと思っとるんじゃぁぁぁッ!」
「えっ? えっと……?」
俺が状況を飲み込む間もなく、ミアレットが何やらステッキらしきものを振りかぶった瞬間。ボゴっと鈍い音がしたと同時に、目の前に星が飛んだ。……俺、どうしてモブなんかに吹っ飛ばされているんだ……? 俺は主人公なんだぞ? 普通は逆じゃないか?
(って、あっ……! もしかして、あの時に巻き込んだ奴だったりする……?)
星が飛び散った衝撃と一緒に、ぼんやりと思い出したのは、運命の異世界転生を決行した日の事。ビルの屋上からダイブした時に、何となくだが、最後に誰かにぶつかった気がする。だとすると、このミアレットも転生者なのか……?
(くぅ……! それはともかく……メチャクチャ痛いぞ、これ⁉︎)
ズドンと腹に走った重い衝撃と、背中から着地した痛みで、なかなか起き上がれないんだが……! 仮想空間システムだったら、アフターフォローの回復機能があるが。当然ながら、仮想空間でもなんでもない現実ではお優しい展開はない。
「なるほど、こいつはミアレットの敵なんだな?」
「そのようですね。このカテドナも、最大限に注意しておきます」
「ふーん……しかも、問題児なんですか? どっちにしても、関わらない方がいいですね」
誰1人、床に転がったままの俺を助けてくれないどころか、全員で敵意を剥き出しにしてくる。お、おい……誰でもいいから、手の1つや2つ、差し伸べてくれてもいいんだぞ?
(ど、どうしてだ⁉︎ どうして、俺ばっかりこんな目に遭うんだよ⁉︎)
これは運命の予感じゃなくて、因縁……しかも、ハードモード突入の予感しかないんだが。どうなっているんだよ、これ。まさか、俺の主人公的ポジションはミアレットに奪われたのか……?




