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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−57 若気の至りな黒歴史

「いずれにしても、探し物については承知しました。……そちらも是非に、見つけたいところですね」


 ラウド達の事情にも、理解を示し。カテドナは粛々と任務を遂行しようとするが。……ハタととある事に気付いては、疑惑を深めていた。


(そう言えば、シルヴィア様を精霊の先祖返りに仕立てるために、髪飾りが悪用された事があったと聞いていましたが。まさか……?)


 ラウド達が生まれる前から、髪飾りは大臣一家に奪われていたようだが。それよりも遥か昔、「白薔薇の髪飾り」は元はシルヴィアにではなく、彼女の祖先に贈られた惜別の品である。

 カテドナが知る限りでは、シルヴィアの髪飾りは魔除け効果込みの魔法道具だったはず。しかしながら、シルヴィアの「祖先が生きていた時代」と、シルヴィアが「人間として生きていた時代」とでは、彼女達を取り巻く魔力の環境が大幅に異なったため、折角の髪飾りも魔力崩壊時には本来の性能を発揮できていなかった……と聞き及んでいる。


(王子様達の魔力について不可解な点が認められる……とも、説明がありましたが。……その不可解が髪飾りに起因するものだったとしたら……?)


 カテドナの表向きの任務はもちろん、ミアレットの護衛ではあるが。しかして、ミアレットの護衛任務自体はグランティアズという舞台があったからこそ、追加されたものだった。当然ながら、必要な「予備知識」はしっかりと伝えられてもいる。

 そう、ルエルとカテドナに課せられた最も重要な任務は、ローヴェルズ王族の魔力適性について調査することである。そして、その任務をカテドナに依頼してきたのは、魔法学園の副学園長であるアケーディアであったが……アケーディアにまつわる「逸話」も思い出し、カテドナは1つの予測に至った。


「……もしかしたら、ナルシェラ様達が魔力適性を持てなかったのは、髪飾りを奪われたからかも知れません」

「えっ? それはどういう意味ですか、カテドナ殿」

「ローヴェルズの王族は、シルヴィア様と同じ血筋をお持ちだったのにも関わらず、魔力適性を失ってしまった。ラウド様達の話によれば……彼らが魔力を持てないのは、シルヴィア様のせいだと言われていたそうですね?」

「左様ですな」

「……第一、それがあり得ないのです。女神達にも、特定の血統から魔力適性を奪う事はできません。魔力を融通する事はできたとしても、魔力の制限は不可能だったかと」


 なので、彼らが魔力適性を獲得できなかった理由は魔力因子の自然消滅か、あるいは、復活した魔力の流れに順応できなかったか。いずれかの理由が考えられるが……ローヴェルズの王族に関しては、それも無かろうとカテドナは言葉を継ぐ。


「そもそも、シルヴィア様の血脈は純粋な人間のそれではないのです。……彼女の血統を考えれば、魔力の自然消滅の可能性も限りなく低いはずです」

「純粋な人間ではなかった、ですって?」

「えぇ。……大悪魔・アケーディアと精霊・ドルイダスの子孫なのですよ、シルヴィア様は。そして、その血を守るために大悪魔から贈られたのが、白薔薇の髪飾りだったと聞き及んでおります」


 髪飾りの贈り主自体はアケーディアではなく、マモンであるが……その事情はあまりに複雑かつ、カテドナ自身も詳細を知らないため、ここで言及すべきではないだろう。


「シルヴィア様の髪飾りは、素材自体はマナツリーの化石……つまりは、神界の霊樹をルーツにしており、それ自体が穢れを浄化し、神聖な魔力を生み出す性質を持っています。きっと、髪飾りの贈り主は彼女の祖先が純粋な人間ではなく、精霊の血を引いていることを知っていたのでしょう。ですから、穢れが多い人間界の魔力の中でも生きていけるように髪飾りを与えたのではなかろうかと」


 こればかりは、カテドナの推測でしかないが。髪飾りの素材が「マナツリーの化石」である事を知っているのであれば、まずまず順当な予測である。

 実を言えば、当のマモン自体はそこまで深く考えてはいない。ちょっとした「悪魔召喚」のトラブルに巻き込まれた際、彼を討伐しにやって来た天使達を返り討ちついでに、大天使・ウリエルからマナツリーのバングルを戦利品として奪い取っていただけだ。そして、腕輪をベルゼブブに髪飾りに作り替えてもらった後、悪魔召喚の発端となったヴァンダートの姫君……つまりはシルヴィアの祖先に当たる少女に、気まぐれで与えたのだが。

 本人曰く、ヴァンダート滅亡は「若気の至りな黒歴史」だそうなので、詳細については頑なに黙秘を貫いている。


「あくまで、憶測の域を出ませんが……悪魔と精霊の血が薄れようとも、彼らの魔力適性は普通の人間よりは高いはずです。しかしながら、悪魔の血筋はともかく、精霊は基本的にそれぞれの霊樹以外の魔力では上手く波長が合わずに、魔力を上手く取り込めない事があるのです」

「そうなのですか?」

「えぇ。ですから、人間界に出ようとするならば、天使様達と契約する事が推奨されますね。彼女達と契約をしておけば、万が一の魔力不足を補ってもらえますし、魔力のチューニングが済む間のフォローも望めます。……魔力が復活しても人間界はまだまだ、魔力面で精霊にとってあまりに過酷なのですよ」


 悪魔達は瘴気に対する耐性もあり、なんとなく過ごせるものの。精霊達はその限りではない。彼らは祝詞を授けてくれた霊樹の魔力に慣れ切っているせいもあり、急に人間界に出たところで、即座の順応は難しい。淡水魚が海で生きていけないのと、一緒である。


「ですので、シルヴィア様が父王に髪飾りを残したのは、そちらの事情を汲んでのことでしょう。魔力が復活するとなった段階で、一族の血統を守るため……かつての贈り主がそうしたように、髪飾りを託したのではないかと」

「……それが本当ならば、サイラックはとんでもない反逆者ですな。なんと、腹立たしい」


 余程、サイラックが憎いと見えて、ラウドは顔を真っ赤にして怒りを隠すこともしない。それでも、手当たり次第に暴れないだけマシか……と思いつつ。自身の主人に似た空気を感じては、カテドナの頬が少しばかり緩んだ。


「……おや?」


 しかし、彼女の微笑ましい気分も、3階への階段を上がったところで綺麗に霧散する。何故なら……ヒスイヒメのガイドに従ってやってきた廊下は、あまりに悲惨な状況で。廊下にあるのは、老執事に戻っているロイスヤードの背中と……何故か彼の足元にひれ伏している、サイラック親娘の姿であった。

【登場人物紹介】

・ウリエル(炎属性/光属性)

天使長・ルシフェルの妹であり、「始まりの大天使」とも呼ばれた、初代排除の大天使。

自身の強さに絶対の自信を持っており、力任せに周囲の天使を隷属・平伏させていた。

しかしながら、人間界・ヴァンダートにて大悪魔・マモンとの交戦に至った際に、彼に傷1つつけることさえ許されず、大敗。

大悪魔討伐失敗の痛恨のミスに加え、兼ねてからの傲慢さが問題視されていたこともあり、天使長・ルシフェルの手で粛清されていた。

その後、マナツリーによって魂を拾い上げられた後、ちびっ子の姿で復活。

現在は神界にて無邪気に過ごしている。


【武具紹介】

・白薔薇のバレッタ(光属性/魔法防御力+302)

ヴァンダート滅亡の歴史の裏で、大悪魔・マモンがかつての大天使・ウリエルから強奪した「マナツリーのバングル」を加工したバレッタ。

マナツリーの化石を原料としているため、強い光属性を示す。色味は純白ではなく、やや萌黄かかった乳白色。

ほんの少し霊樹・マナツリーの性質を受け継いでおり、周囲の魔力を浄化し、神聖な魔力を吐き出す性質がある。

作成者はベルゼブブであるが、デザインはマモンの指定であったために、奇跡的に悪趣味になることを免れた可憐な逸品。


【補足】

・霊樹の化石

霊樹の樹皮が各領域の魔力を潤沢に吸った結果に、長い年月を経て化石化したもの。

各領域の魔力を含んだ状態で発生し、ベースとなった霊樹の性質を受け継ぐのが特徴。

鉱石化タイプの化石であるため、硬度もそれなりにあり、装飾品に加工される事が多い。

また、樹木としての組成は失われていないので、魔力を与えられれば光合成をし、環境さえ整えば新たな霊樹として芽吹く事も可能とされている。

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― 新着の感想 ―
髪飾りの詳細が……! これが奪われたことと王子様たちが魔力適正を失っていることがどう繋がっているのか、早く知りたい!(≧▽≦)
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