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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−52 最初から狂っている

 ギョロリと瞳孔が開き切ったメープル色の瞳は、黒い孔雀の悪魔を忌々しげに凝視している。あまりに不気味な視線に、一方のカテドナはさもやり切れないと首を振るが。それでも、彼女が「本性」を剥き出しにした以上は、これまで以上に集中せねばならないだろう。


(ボロボロなのは、見た目だけのようですね。翼の赤は自身の血ではなく……返り血だとでも、言いたいのでしょうか?)


 痛ましい姿ではあるが、ミーシャが傷を負っている訳ではなさそうだ。しかし、翼の深紅は返り血でもなく。その赤は苦しげに息をしている怒りの本質が、噴出した結果でしかない。

 ミーシャの主たる人格は確かに、1つではある。しかしながら……彼女の中に渦巻く「怒り」は決して、彼女だけのものではないのだ。今のミーシャは怒りを再燃させたことで、同胞達の存在感をも押し出した姿を取る。怒りも、肉体も。決して、ミーシャだけのものではなく……無慈悲に屠られていった、子供達の無念の集合体であるそれは、表層を取り繕っている普段の「ミーシャ」の感情も上塗りしていった。


「私達は今度こそ、上り詰めるの。……殺される側から、殺す側に」

「私達……? あなたが何をおっしゃりたいのかは、定かではありませんが。いずれにしても、物騒極まりないですね。……平和なご時世で、そのような危険思想は流行りませんよ」

「ウルサイ……ウルサイッ! 邪魔する奴は、全員殺す! まずは……お前からッ!」


 一人称が複数形になった時点で、彼女はやはり単純明快な魔法生命体でもないと、カテドナも気づき……なんと救いようのない事だと、僅かながらに嘆息する。

 処理場の話が持ち上がった時から、「向こう側」が人体実験をしている可能性も仄めかされていたが。彼女の存在は軽々しい実験の産物ではなかろうと、カテドナは逡巡すると同時に……いよいよ理解に苦しむと、嘴の付け根にギュッと皺を寄せた。


(この所業は人間のそれではありませんね。偽物とは言え、天使を作り出すなど……それこそ神の御業でしょう。天使を創造できるのは、女神・マナだけだと記憶していましたが)


 天使達の大部分は、聖痕持ちの少女達が転生した姿である一方で、ルシフェルを含む「原初の天使達」はマナの女神が作り出した魔法生命体である。しかしながら、天使の発生は非常に限定的とされており……マナが生み出すか、聖痕持ちの少女が転生するか。いずれかしかないはずだった。


(これは少し、調べる必要がありそうです。……できる限り、探りも入れられればいいのですが)


 やはり、カテドナはデキるメイドさんである。真っ向から彼女の主張を曲げた事も、功を奏したのだろう。先程よりも視野が狭くなったミーシャは、執拗にカテドナを狙うようになっていた。そうともなれば、ラウド達に気を回す必要も少なくなるし、これは好機とカテドナは捉えるが。一方で……別の懸念事項を頭の中でフル回転させては、立ち回りを入念に見定めようとしていた。


(太刀筋が幼いのが幸いですが……動きが滑らかになっていますね。防御はさておき、攻撃の隙がありません)


 死神となったミーシャの攻撃は格段に鋭く、精度も上がっている。上の空で対応できる程、生ぬるいものでもなく、カテドナは徐々に防御に手一杯になりつつあった。しかも……。


「クッ……!」

「……その程度の攻撃、無駄だから。私達の三日月にかかれば、こんなものよ」

「無詠唱のディバインウォール、ですか。……なるほど。死神の存在も特殊なら、死神の鎌もまた特注品なのですね」


 アラマウトクラウンの一撃さえも、易々と弾き返す防御魔法。カテドナの攻撃にビクともしないのを見ても、錬成度も高いとするべきか。


「ならば……! 闇より出でし滅亡の吐息を聞け、その恨みを示さん事を……ダークシンフォニア!」


 物理攻撃の隙がないのなら、攻撃魔法を使えばいい。正直なところ、アドラメレクは攻撃魔法が得意な方ではないが……上級悪魔である以上、闇属性の魔法には長けている。カテドナは持ち前のハイエレメントを最大限に生かし、スマートに攻撃魔法を発動するが。


「うっ……! ウワァァッ⁉︎ くっ、来るな! 私達は、仲間でしょッ⁉︎」


 だが、ダークシンフォニアが発動したと同時に、ミーシャがますます激しく暴れ出したではないか。彼女はただただ、恐怖に駆られているように見えて……どこか憐憫を誘うような、憐れみに満ちた渋面を作り出している。


(ダークシンフォニアの亡霊相手に、仲間ですか……?)


 ダークシンフォニアは闇のイメージから想起される「恐怖」を一時的に具現化し、効果範囲内の相手の心身を共に喰らい尽くす魔法である。精神的ダメージが大きいこの魔法は、情緒や感情が不安定な相手に特に効果を発揮するため、ミーシャには効果絶大だろうとカテドナは予想していたが。……予想は概ね合っていたと見せかけて、別の何かを抉り出した様子。


「違う……違うわっ! 私達はもう、踏み躙られる側じゃないの! 踏み躙る側なんだからッ! だから……一緒に戦えばいいのよ」

「一緒に戦えばいい、ですって……? 魔法効果相手に、何を言っているのやら……」


 ダークシンフォニアに引っかかって、闘志を維持できる者は非常に少ない。それこそ、闇に慣れている悪魔達には効果が薄い傾向があるが、それ以外の相手には効果覿面であるはずだった。しかし……ミーシャが見せているのはカテドナが初めて見る反応であり、彼女にしてみれば完全に意味不明である。


「……⁉︎」


 しかも、驚いた事に……ミーシャは本当に、「恐怖達」との共闘を取り付けた様子。ガリガリと削られた肉体は回復魔法で癒しつつ、しっかりと恐怖さえも克服し、手懐け始めたではないか。


「ふふ……ふふふ……あははははっ! ほら、あいつが私達の敵よ! 全員で袋叩きにしてやりな!」

「本当に想定外もいい所です。ダークシンフォニアを乗り越えられるなんて、余程に精神が強靭なのか……いいえ、違いますね。……最初から狂っているとした方が、正しいのでしょう」


 しかしながら、いくらミーシャがけしかけたところで、ダークシンフォニアは攻撃魔法……つまりは、一定時間経過すれば勝手に収束する。

 攻撃魔法は種類ごとに効果時間が決まっており、錬成度を高めたところで継続時間を伸ばすことはできない。そして、上級魔法であればある程、攻撃魔法の発動時間は長くなる傾向がある。


(ダークシンフォニアは生憎と、効果時間が長いのです……! 下手に上級魔法を使ったことが、裏目に出ましたか……)


 そこまで思い至ると、カテドナは仕方なしに反射される格好になった魔法をクリスタルウォールでやり過ごす。所詮、自分が放った攻撃魔法である。ラウド達も含めて、身を守るのは容易い。しかし……。


「……なっ……!」

「ヒャハ……! 今度は逃さないわよぉ!」


 防御魔法を使い、僅かに油断したのがいけなかったのだろう。気づけばカテドナの頭上では、鋭い白銀が牙を剥いており……彼女目掛けて、真っ直ぐに振り下ろされていた。


(くっ……よもや、ここまでですか……? ミアレット様、ルエル様……誠に申し訳ございません……!)

【魔法説明】

・ダークシンフォニア(闇属性/上級・攻撃魔法)

「闇より出でし滅亡の吐息を聞け その恨みを示さん事を ダークシンフォニア」


闇属性の魔法のうち、2番目に高い威力を持つ攻撃魔法。

影や闇に潜む「恐怖」の負のイメージ要素を魔力によって具現化し、対象の肉体を物理的に摩耗させると同時に、精神的苦痛をも与える恐ろしい魔法である。

実体のない「恐怖」に肉付けする構築概念を含み、魔力消費量・構築難易度も飛び抜けて高い。

対象者に深刻な精神的後遺症を与える魔法でもあるため、精神力が弱い相手はそのまま廃人となるケースも見られる。

禁呪認定こそされていないが、上記の危険な追加効果もあり、誰彼構わず乱発していい魔法ではない。

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― 新着の感想 ―
わわわ! ダークシンフォニアが裏目に? 絶体絶命! (アケーディア先生たちが助けに来てくれるのを期待していますが……!)
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