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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
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1−17 摩訶不思議な相手

「マモン先生、何か出たんですけど⁉︎」

「おっと! 早速、お出ましか。……ミアちゃんは下がってな」


 どこもかしこも、キラキラとした廊下を進んでいると。廊下の先から、場違いな空気感を纏った黒い獣が4体、飛び出してくる。サイズは大型犬程で、かなり大きいが……もうもうと黒い煙のような靄に覆われており、グルルルと唸る口元からは牙と一緒に敵意も剥き出しにしている。……その事が何よりも、ミアレットの神経を竦ませた。


「そんじゃ、遠慮なく……サクッと行っちまいますかね! 風切り、出番だぞ!」

(主様、呼んだ? 呼んだでおじゃるか?)

「おぅ、呼んでやったぞ。いつも通り、頼むわ」

(もちろんじゃ! 麻呂を存分に振るうておじゃれ)


 敵襲と見るや否や、手持ちの武器を呼び出して。颯爽と抜刀するマモンだが。……まず、ミアレットとしてはツッコミどころが多過ぎて、理解が追いつかない。


(……魔術師って、武器も使えないといけないのかしら? そもそも、あの格好で刀なの? つーか……今、喋ったよね、アレ⁉︎)


 若干ミアレットを置いてけぼりにしながら、鮮やかな太刀捌きで魔獣を殲滅していく大悪魔様。時折、彼の手元から合いの手が入るのを聞いていても……刀そのものが喋っているのは、紛れもない現実のようだ。


「ふぅ……こんなもんか?」


 そして、ミアレットが状況を飲み込む間もなく、あっと言う間に4体の魔物を斬り伏せるマモン。きっと、彼の方は慣れているのだろうが……ここまでくると、一方的な惨殺に近い。


(流石は、主様じゃ! ふふ……ますます冴え渡る腕前に、麻呂は惚れ惚れでおじゃる)

「ハイハイ、そいつはどうも。……うん、武器の通りも問題なさそうだな。レジストも水だけみたいだし……あまり苦戦しなくて、済みそうか?」


 相当の信頼関係があるのか、ミアレットではなく、刀と作戦会議を始めるマモンだったが。……ミアレットはきちんと説明が欲しいと、そんな彼らの会話に割り込む。


「えっと、マモン先生……? 私、色々と質問があるんですけど……?」

「あ、悪い、悪い。いつものノリでやっちまった。えぇと……」

(おんや? 主様が后様以外の女人を連れているなんて、珍しいでおじゃるな?)


 しかし、マモンが答える前に彼の刀も負けじとお喋りに参加してくる。そうして、繁々とミアレットを確認した後に、なかなかに常識的な反応を示すが……。


(ははぁ……なるほど、なるほど。様子から察するに、この子は主様の教え子でおじゃろ?)


 ……外観からしても、目や耳はなさそうに見えるものの。しっかりとミアレットや、周囲の様子を認識しているのを見るに、その刀にはきちんと五感もある様子。そんな「摩訶不思議な相手」を前に、ミアレットは早々に仕組みを深追いするのを諦めていた。


「うん、そうだな。今回はリッテルとの合流が間に合わなかったもんだから、同行してもらってる。で、彼女はミアレットちゃん。カーヴェラ分校でブイブイ言わせてる、期待の超新星だぞ」

(ほぉ! それはそれは、まっこと喜ばしいことよの。あぁ、自己紹介が遅くなって、すまなんだ。麻呂は四ノ宮・望月でおじゃる。まぁ、言うなれば魂を持つ魔法道具の一種じゃて、気軽に風切りと呼んでくれろ)

「は、はい……ご丁寧に、ありがとうございます……」


 素直でよろしい……と、何故か刀にまで満足げに認められてはいるものの。先程の戦闘の様子からしても、マモンと一緒であれば危ない目にも遭わなくて済みそうだと、一旦は胸を撫で下ろす。


(本当に、細かい事を気にするのはやめとこ……。とにかく、マモン先生について行けばいいみたいだし)


 そうして、再び歩き始めたマモンに置いていかれまいと、ミアレットも足を早める。マモンの方は時折、ミアレットの歩調を気にしながら、迷宮の様相も注意深く窺っているようで……ポツリと、率直な感想を呟いた。


「しかし、この感じだと……エルシャちゃんは随分と、夢見がちがなお姫様だったみたいだな〜」

「まぁ、そうかも知れません……学校でも、場違いなドレスを着てましたし……。でも、マモン先生の言い方からするに、もしかして……この空間って、エルシャの心が作り出したものなんですか?」

「ご名答。対象者によって心迷宮の雰囲気は様々だし、歳を食っている奴ほど複雑かつ……空間がドス黒く、汚くなる傾向がある。大人ってのは、何かと汚いことも知ってるもんで。だもんだから……ここまで素直に豪華な心迷宮を作れる時点で、エルシャちゃんの負の感情はそこまでの深度もない気がするな。……多分、何らかの方法で無理やり深魔にされたんだろう。ま、何れにしても……この宮殿のどっかに潜んでいる“大元”を潰さにゃ、ならん。どんな深魔が相手だろうと、大筋は変わらないし」


 状況に慣れてきて、ミアレットも一緒に周囲を見渡せば。魔物が出てくるという事を除けば、今いる「宮殿」の雰囲気は御伽噺に出てくるような「夢のようなお城」のそれである。しかし、続く景色は廊下ばかり。クネクネと変なところで曲がっていたり、別れ道があったりと、「迷宮」に相応しい様相を呈している。


「あれ……?」


 しかし、ずっと同じ光景だと思っていた廊下に、少しだけ違和感を覚えるミアレット。左手の壁に、妙なドアがあるのを見つけては……思わず、足を止める。


「どうした、ミアちゃん」

「マモン先生、ここにドアがありますけど?」

「ドア? いや、俺には見えないが……」

「えっ?」


 どうやら、ミアレットが見つけたドアはマモンには見えていないらしい。しかしながら、扉が見えないなりにも「思い当たる事」はあるのか、納得したようにウンウンと頷き始めた。


「よっし、ミアちゃん、お手柄だぞ。そいつはきっと、エルシャちゃんからのサインだ。……ミアちゃんに助けて欲しくて、抜け道を作ってくれたんだろう」

「えっ? そうなんですか……?」

「さっき、特殊ギミックがあるかも……って言っていたのは、この事でさ。普通であれば、対象者の縁者……つまり、家族相手にSOSを出してくる事が多いんだけど。別に厳密な縁者じゃなくても、仲の良い友達とか、恋人とか。対象者が好意的に思っている相手であれば、こうして“助けて”って、サインを出して導いてくれる事があるんだ」

「そうだったんですね……。もしかして、マモン先生でも任務完了が難しいって言っていたのは、これを見つけられないからですか?」

「その通り。俺はエルシャちゃんにとっては、初めましてだからな。ズカズカと入り込んだところで、警戒されるのが関の山だ。そんでもって、警戒心っていうのは恐怖に結びついちまって、負の感情を増長させるもんで。……見ず知らずの奴が出て行っても、悪戯に難易度を上げるだけになりかねないし、魔物もウジャウジャ湧いてくる状況になっちまう。心迷宮に臨むには、下調べや心構えがきっちり必要でな。……強いだけの奴には、易々と攻略できないものなんだよ」


 どこか自嘲めいた口調で、やれやれと首を振りつつ……ミアレットに扉を開けるよう、マモンが促す。そうしてミアレットが思い切ったように、彼には見えないはずの扉を開けると、今度は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「よっしゃ、このまま先に進むぞ。それにしても……やっぱり、エルシャちゃんは悪意まみれの状態じゃなかったんだろう。……善意のサインを出せる時点で、まだ助かる見込みは十分にあるぞ」

「分かりました。とにかく……先に進むしか、ないんですよね」


 その通り……と、今度は肩を竦めながら。まずは自分からと、マモンが扉の先へ足を踏み出す。そんな彼に倣え、続けと、ミアレットも扉の先へ歩みを進めるが。扉の向こう側には、先程までの煌びやかな廊下とは異なり……やや色褪せた様子の、石造りの回廊が伸びていた。

【武具紹介】

・四ノ宮・望月(風属性/攻撃力+65、魔法攻撃力+34)

マモンが所持する魔法武器の1つ。通称・青鞘の風切り。

刀身は70センチほどで、打刀に分類される。

魔界の主人・ヨルムンガルドの髪を媒体とし、クシヒメの巫女がうち「望月」の魂が封入されたことで、自我を持つに至った。

5振り存在する「ヨルムンガルドの刀」の中でも最も攻撃力が低いとされるが、魔力の流れを空気ごと切断する特殊効果があり、強制的に魔法発動をキャンセルさせたり、魔法効果を消失させることができる。

魔力を注入することで居合抜きの効果範囲が格段に上がり、遠距離攻撃もできたりと、何かと器用な武器である。


【登場人物紹介】

・ヨルムンガルド

「大いなる精霊」の名を持つ、魔界を生み出した古代の大蛇であり、冥王。

元は東方の大陸・オリエントに君臨していた八つ頭の龍神であったが、クシヒメと共にゴラニアに逃げ延びた後、マナの女神との折り合いをつけることが出来ず、関係が悪化。

マナの大地・ゴラニアを汚すために魔界を作り上げ、大悪魔を生み出した。

その後、「ヨルムツリー」として悪魔を支配してきたが……現在は天使と悪魔が和解したこともあり、魔界そのものの空気も穏やかになっていると同時に、ヨルムンガルド自体も両者の関係性を容認している。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ようやく最新話まで追いつきました。 まだこれからってところで、ミアレットさん頑張れ~♪なんですけど。 セドリックさんがなかなかクズっぷりを発揮していていいですね(笑) 続き(特にセドリック…
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