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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−47 大天使様の囁きも甘い

 自分の影にお隠れ遊ばした大天使様に、苦笑いしつつ。「全幅契約」と「対等契約」を説明し終えたところで、ハーヴェンはチラリと背後……アケーディアとルエルの様子を見やる。

 彼らは彼らで、キュラータを前にして難しい顔をしているが。ルエルが遠慮がちにコクコクと頷いているのを見ても、話はまとまりつつあるらしい。しかし、ハーヴェンは彼らのやり取りに不穏なものを聞き取ったのか……少しばかり眉を顰めると、首を振りながらもミアレット達に向き直る。


「……向こうももうちょい、って感じかな。それじゃ……最後に強制契約について、説明するな? 強制契約は精霊の意思を無視し、魔力を与えずに酷使するための契約だ。天使側の魔力負担がないのは、全幅契約と一緒だが……中身は真逆だと言っていい」


 先程まで惚気ていた彼から出たとは思えない、低い声。しかし、それも無理はないと……ミアレット達はあまりに重い内容に、口を噤む。

 強制契約。それは、精霊の存在意義を無視し、天使が精霊の命さえも掌握するための隷属契約のことである。彼らから祝詞に刻まれた存在意義と名前を剥奪し、奴隷さながらに従えさせる禁じ手だと、認識されるのが常だ。


「成立には、契約主が精霊よりも強いことが条件ではあるんだが。ただ……全幅契約を結んでいる場合は、天使側の一存で強制契約に切り替えるフローもあってさ。強制契約を見越して、全幅契約を強要するパターンもゼロじゃない。……きっと、アケーディアがやらかそうとしているのは、このテの契約だろうな」


 信頼が何よりも大切だとされつつも、それは建前だと切り捨てる事もできる。そう……全幅契約は精霊側が全てを預けさえすれば、成立だけはしてしまう。もし、天使よりも精霊側の力が強い場合。全幅契約を経由しての強制契約成立は、十分にあり得るのだ。


「ルエルさんがあの状態だったのを考えても、執事らしきアイツの方がウワテだったのは間違いないだろう。だけど、今じゃ立場が逆転しているからな。魔法を封じられているとなっては、死にたくなきゃ全幅契約を寄越せなんて、脅しも通用する。……個人的には、全力で推奨したくないけれど。逃亡には前例もあるし……魔法学園側としても、奴を逃すわけにはいかない事情があってな。だから、ここで強硬手段に訴えるのが最適解だと、無理矢理にでも納得するしかない」


 ハーヴェンの言う「前例」はセドリックのことだろうな……と、ミアレットはぼんやりと思い出す。

 絶対に逃亡不可と言われたオフィーリア魔法学園の監視房から、セドリックは忽然と姿を消し……そして、その後に2度の再会を果たしはしたが。……ミアレットが見た彼はもう、人間を捨てた姿に成り果てていた。


「それに……強制契約さえしておけば、悪さをした時に天使側から一方的に対象者を粛清することも可能になる。オイタ一発で、殺されるとなったら……ま、大人しくするしかないよな」


 少しばかり、無理をした笑顔で言いつつも……全力で推奨したくないと言っている時点で、ハーヴェンとしては納得したくはないのだろう。そして、それは大人しく彼の上着に頭を突っ込んでいた大天使様も同じと見えて……思い出したようにミョキッと顔を出しては、不満そうに唇を窄めている。


「私も、回避するべき方法だと理解している。……強制契約は最終手段。無理やり相手を従えたところで、虚しいだけだ。それに……おやつは愛情たっぷりじゃなきゃ、意味がない」


 言ってやったぞと、ルシエルがドヤっと胸を張っているが。


「そうだな。ルシエルは何だかんだで、曲がった事はしないから、俺も安心して全幅契約を預けていられるよ」

「……当然だ。誰がみすみす、旦那との信頼関係を手放すものか」


 続く大天使様の囁きも甘いのだから、これには参りましたと、ハーヴェンも嬉しそうに肩を揺らす。いずれにしても、お熱いようで何よりである。


「と、言うことで……俺はルシエルと一緒にいたいがために、全幅契約を結んでいるし……毎日、美味しい食事とお菓子作りに励んでいるんだな。なにせ、ルシエルはいつでも腹ペコだからなぁ……」

「……それはハーヴェンのせいだもん。私がこうなったのは……」

「あっ! ちょ、ちょい待ち! ルシエル、それ以上は言わなくて大丈夫です! 皆さんにそこまで公開する必要はありません!」


 何かを言いかけたルシエルの言葉を遮り、慌てて彼女のお口にキャンディを差し出すハーヴェン。さっき、マフィンをモグモグしたばかりだと言うのに……ルシエルは頬を膨らませつつも、素直にキャンディを受け取ると、とりあえずは大人しくなった。


(……なーんか、気になるなぁ。もしかして、ルシエル様がおやつで鎮まるのって、理由があったりするのかしら?)


 いくら、甘党だと言えども。相手は冷酷非情と噂される、大天使様である。そこまで言われるのには、やはり彼女が冷徹で通っているからだと思われるが……仕事も魔法もデキるはずの大天使様が、アッサリとおやつに釣られるものなのだろうか?


「ルシエル様って他の天使様達に比べて、大食いな気がしますけど……それって、何か原因があるんですか?」

「えぇと……ま、まぁ、原因はあると言えば、あるんだけど……」


 やはりルシエルが「食いしん坊」なのには、それなりの原因がある様子。ミアレットの質問に、しどろもどろになる時点で、元凶はハーヴェン本人らしく……その場にいる全員に疑るような顔を向けられて、視線を泳がせ始めた。


「私がこうなったのは、ハーヴェンが暴食の悪魔だからだ。契約以上に……悪魔と深い仲になると、天使は旦那側の領分に染められてな。これでも、私達は夫婦だし……」

「ノォォォッ⁉︎ ルシエル、それ以上は本当にいいから! お子様の前で、怪しい事を言っちゃいけません!」


 焦る旦那様を他所に、あっけらかんと天使と悪魔の関係……もとい、夫婦の関係について言及するルシエルだったが。「深い仲」が示すところは当然ながら、本来は12歳であるミアレットには早い内容である。


(あぁぁ……これは確かに、お子様には不適切だわぁ……)


 とは言え、ミアレットの中身は大人である。ルシエルが言わんとしている事も、しっかりと理解し……生温かく微笑むことしかできない。


「ハハ……つまりはそういう事、です。……うん、その辺はあまり突っ込まないでくれると、助かります……」


 最後は力なく笑いつつ、ミアレット達に同意を求めるハーヴェンだったが。強制契約の話の流れで変な部分まで掘り返され、トホホと肩を落とす。……契約以上に天使をお嫁さんにすると、悪魔の旦那様が振り回されるのは、常なるかな。

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― 新着の感想 ―
強制契約、待ったなしの方向ですかね? 真面目な話が多かった回ですが、やっぱりハーヴェン先生とルシエルさんのほっこり夫婦仲が緊張を和らげてくれますね♡ ルシエルさんの爆弾発言にも、中身が大人なミアレット…
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