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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−41 予想を遥かに上回る猛者

 ミアレットに案じられているなんて、思いも寄らないが。ミアレットが抱いていた不安通りに……ルエルはジリジリと追い詰められていた。

 戦況は武器と武器のぶつかり合いだけではなく、魔法も飛び交い出し、ますます激しさを増すばかり。ルエルとキュラータが争う廊下は床も壁も傷だらけで、至る所に大なり小なり、沢山のクレーターが出来上がっている。


「永劫の苦痛をもって、罪を雪げ! 光をもって、制裁を与えん……ホーリーパニッシュ‼︎」

「堅牢な鋼鉄の決意を知れ。我は、純潔の庇護者なり! クリスタルウォール!」

「本当に憎たらしい防御魔法ですこと……! でしたらば……!」


 発動した目眩しの攻撃魔法を呆気なく防がれて、ルエルはギリと歯を鳴らす。それでも、何とか突破口を作り出そうと、防御魔法相手にお得意の回し蹴りをお見舞いすれば。足元の鎧靴・マーシレスソラレトの特殊効果もあって、クリスタルウォールの防御壁がパリンと割れた。


「ハァァァッ!」


 腹の底から声を搾り出し、防御魔法の奥へと今度は突き蹴りを繰り出すルエル。しかし、キュラータも負けてはいない。防御魔法を回し蹴りで破られたのに驚きつつも、冷静にルエルの追加攻撃をメイスで防ぐと、カウンターの横薙ぎを放つ。


「くっ……!」


 ナックルダスターでメイスの一撃を受けるものの、とてもではないが防ぎ切れるはずもなく。右からの衝撃に耐え切れず、ルエルの体は壁のクレーターへと衝突し……新たな凹みを作り出していた。


「……お見事ですね。まさか、防御魔法を蹴破るだけではなく……しっかりと、追撃まで放ってくるなんて。あなた様は……このキュラータの予想を遥かに上回る猛者ですよ。実に素晴らしい……!」


 口では素晴らしいと言い募り、キュラータはいよいよ勝利を確信している様子。甲冑の姿では笑顔を作ることはできないが……声色が弾んでいるのを聞いていても、彼が興奮しているのは間違いなさそうだ。


「ここまでぶつかり合える相手がいるのも、喜ばしい事ですが……最高の実験台を獲得できるなんて、ますます重畳。私はあなた様に出会えて、歓喜に打ち震えております……!」

「ケホッ……ケホッ……! じょ、冗談も大概になさいな……。私はまだ、負けてなくて……よ……!」


 しかし、言葉は強気でも……ルエルはあまりの痛みに、顔を顰めずにはいられなかった。

 先程の一撃を受け止めた右腕の骨は、完全に折れている。壁に衝突した際に背骨に響いた衝撃は、ジンジンと全身に痛みを伝えてくる。足だけはまだまだ、闘志を宿したままだが……キュラータの武器に与えられた毒がジワジワと回り始めた今となっては、足元が掬われるのも時間の問題だろう。


(せめて、毒だけは取り除かなければ……)


 だが、実を言えば……ルエルは回復魔法はそこまで得意ではない。解毒の回復魔法も使えこそすれ、魔法詠唱に神経を持って行かれたらば、キュラータの猛攻を凌ぐのは難しい。


(このままではジリ貧ですわね。ともなれば、私ができる事は……)


 せめて、戦闘不能までは行かないにしても……キュラータの行動不能までには、持ち込まなければ。

 きっと、聡いミアレットの事である。ルエルとキュラータとが相討ちになったとあらば、すぐに天使長相手に救援を要請してくれるに違いない。


(カテドナに、ルシフェル様へ告げ口されるかも……なんて、言われていましたが。今となっては、ミアレットに報告手段があって、良かったのかも知れませんわね……)


 自分でも、情けない限りだが。この後は他の誰かに託す事を決め込むと、ルエルは玉砕覚悟の攻勢に打って出る。右手が使えなくなった時点で、握ることさえできない鞭は諦め……腰を落とし、足元に神経を集中させることで、突進の力を蓄えた。

 その間、僅か数秒。ルエルは魔法は苦手だと自覚しているからこそ、自らの肉体を磨き上げてきた経緯がある。力の効率的なかけ方、筋肉の的確な動かし方……そして、圧倒的な瞬発力の生み出し方。今までの鍛錬の成果を総動員し、ルエルは一気にキュラータとの距離を詰め、強烈な足払いを繰り出した。


「……! お見事です……! まさか、このモーヴエッジの両足を粉砕してくるとは……!」


 強か足を払われ、両脚を崩されたキュラータは重厚な鎧ごとドウと床へと倒れ込む。だが一方で、キュラータの太く、硬い足を挫くことで、ルエルの右足にも相当の負荷がかかっていた。左足だけで、軽くバックステップを踏み、甲冑の下敷きになることは避けられたものの。……ルエルはそのまま体制を崩すと、もうもう立ち上がる気力も体力も残っていない。


「……実に素晴らしい……! 本当に素晴らしい……!」

「そう? ここは素直に、お褒めに与り光栄ですわ……とでも、言っておけばいいかしらね?」


 口先では気丈に振る舞うが、ルエルの体力はとっくに限界を迎えている。それでも、回復魔法を展開できれば痛みを緩和できると……回復魔法の詠唱を始めるが。床を見つめるばかりのルエルの視界に、ゆらりと忍び寄る影が差した。


「アグっ……!」

「回復魔法は使わせませんよ、天使様。……先程の姿を崩されたとて、このキュラータは挫けません」


 彼もルエルと同じように、床を這うばかりと思っていたが。しっかりと両の足で床を踏みしめるキュラータの追撃が、ルエルの足を容赦無く砕いた。そうされて、痛みでかすみ始めた視線だけで、彼の足先を見上げれば……執事の姿でルエルの顔を覗き込む、キュラータの視線とかち合う。


「なるほど……。タダの機神族ではないと、分かっていたつもりでしたけれど。機神族なのは、あくまで外側だけなのね。……この再生能力は霊樹由来の力かしら?」

「その通りです。物理的に破壊されてしまったため、先程の姿に戻るには時間がかかりますが……今となっては、この姿でも十分でしょう。ご様子を拝見する限り、あなた様は魔法は得意ではないと見える。……詠唱スピードが非常に遅い」


 それでも、強靭な肉体は賞賛に値すると……非常に勝手なことを言いながら、キュラータはもう動くことさえできない戦利品を抱き上げようと、手を伸ばす。だが……ルエルには当然ながら、彼に捕まる気は一切ない。足が動かないのなら翼を動かせばいいと、4枚の翼で懸命に距離を取った。


「往生際の悪さも、なかなかですね。ですが、その状態で逃げ果せられるとでも?」

「……まさか。逃げるつもりなんて……最初から、なくてよ。私がここですべき事は、時間稼ぎですもの」

「ほぅ、左様でしたか? しかし、そうだったとしても……私の勝利は確実です。強がりは大概にし……ッ⁉︎」


 最上の実験台を手中に収められるとあって、歓喜と余裕の表情を見せるキュラータではあったが。突如背中に与えられた強い衝撃に、彼の言葉が途切れる。そうされて、慌てて振り向いたキュラータの視線の先には……漆黒の大きな悪魔と、その肩にちょこんと座り、鋭い視線で彼を睨む八翼の天使の姿があった。

【魔法説明】

・ホーリーパニッシュ(光属性/中級・攻撃魔法)

「永劫の苦痛をもって 罪を雪げ 光をもって 制裁を与えん ホーリーパニッシュ」


空気中の「汚れなき魔力」を集め、束ねることで神聖な光弾を放つ攻撃魔法。

発動時に強烈な閃光を伴うため、非常に短時間ではあるものの、目眩しの効果も期待できる。

また、光弾自体が相当の高熱を帯び、炎属性の攻撃魔法に近いダメージ法則を持つが、この魔法の最大の特徴は闇属性のハイエレメントを持つ相手に対して、絶大な効果を発揮する点にある。

闇属性の相手に発動した場合、ダメージ量が3〜5倍に上がる特殊効果を含む。

しかし一方で、ダメージ法則がベースエレメントに近しい事もあり、防御魔法でアッサリと防がれてしまう事も多い。

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\(◎o◎)/! ルエル様! と思ったけど、『漆黒の大きな悪魔』と『八翼の天使』……! この方々はもしや!ワクワク
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