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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−38 一生分かり合えない気がするぅ

 ルエルの指示に従い、先を急ぐミアレット達。そうして、ウィンドトーキングが探り当てた部屋にたどり着く。そこには「実験台」と思われる人間達が、確かに囚われていたが。しかし、ミアレット達が踏み込んでも静かなもので……誰も彼もが死んだように目を閉じ、ぐったりとしている。助けが来たと、浮かれる者は1人もいない。


(死んでいる訳じゃなさそうだけど……。かと言って、眠っている訳でもなさそう……?)


 よくよく見つめれば、簡素な白いローブの下から見える彼らの腕は、何故か左腕だけが異様に細い。そして、その左腕には何かの目印だろうか、色とりどりの腕輪が嵌められている。


(色は緑と黄色、そんでもって赤に青……あっ、もしかして。エレメントの色かしら?)


 そんな事に気づきつつも、腕輪がされている理由は分からない。そんな事よりも、彼らの健康状態が芳しくないのは目にも明らか。ここは一刻も早く救出し、治療をしなければ……と、ミアレットは思い直すものの。しかし、当然ながら牢には鍵がかかっている訳で……。


「……ヒスイヒメちゃんがいたら、この鍵も難なく開けられたのかなぁ……」

「だろうな。しかし、いないものは仕方ないだろう。だったら……リオダ!」

「ハッ!」


 鉄格子の前でムムムと唸るミアレットを他所に、ディアメロがリオダを呼ぶ。牢の鍵もなければ、ウコバクもいない。そうともなれば、最初に試すは強行突破のみ。ディアメロはリオダに鍵を示しつつ、牢破りを指示し始める。


「この鉄格子、お前達なら破れるんじゃないか? 魔法で力を増強できると、聞いているが」

「やってみなければ、分かりませんが……試す価値はありそうですね。魔法行使の許可をいただいても?」

「許す。それと……中の奴らは、絶対に傷つけるなよ」

「心得ております。では……炎属性の者、前へ!」


 ディアメロの命令を受け、リオダが兵士達の中から炎属性の者を選り分ける。きっと、呼ばれた兵士達もするべき事を理解しているのだろう。リオダが予断なくディアメロとミアレットを下げさせた後で、何も言われずとも4人の兵士が牢の前へと歩み寄り、すぐさま魔法詠唱に入った。


「では……参ります! 鬼神の息吹を乗せ、汝が業に情熱を! 我は力を望む、オーグメントウェポン!」


 彼らが発動したオーグメントウェポンは炎属性の補助魔法で、主に物理攻撃力を上昇させる魔法だが。対象の肉体を活性化する作用があるため、身体能力が全体的に僅かに向上する効果もある。


(お城の兵士さんともなれば、補助魔法も使いこなしてくるのね……! 攻撃魔法だけじゃなくて、戦闘向けの魔法も抑えているのは、流石だわぁ)


 攻撃が得意な炎属性は純粋な攻撃魔法だけではなく、攻撃能力を上昇させる補助魔法も豊富である。反面、防御魔法はたったの2種類しかないが……「攻撃は最大の防御」を信条とするエレメントらしいと言えば、らしいのかも知れない。


「凄い、凄い! 鉄格子があっという間に、バラバラです! お城の兵士さんって、強いんですね!」

「当然だろう。城を守る兵が、この程度の事もできなくてどうする」


 ミアレットに自前の兵を褒められて、悪気はしないのだろう。ちょっぴり偉そうな態度を取りつつ、ディアメロも得意げだ。そして、そんな2人を周囲の兵士達がニコニコと見つめている……のに気づき、ミアレットは遅まきに恥ずかしさを思い出す。……この場にルエルがいたらば、間違いなく大騒ぎしていた事だろうと、考えながら。


(それはそうと……ルエルさん、大丈夫かなぁ)


 しかし、いつもならハイテンションなルエルはその場にいない。「すぐに追いつく」と言っていたのに……粛々と人々を牢から連れ出す兵士達を横目に見ながら、ミアレットはルエルの言葉や様子を反芻していた。


「お、お前は……!」

「へっ?」

「あの時の平民ッ!」

「……えっと、誰でしたっけ?」


 あれこれと、ルエルの心配をしているというのに。頭の中は大忙しのミアレットを平民呼ばわりしてくる者があるので、そちらを見やれば。1人の女がプルプルとこちらを指差し、顔を真っ赤にしているではないか。しかし、ミアレットはすぐに、彼女が誰なのか思い出すことができなかった。


「忘れたとは、言わせないわ! お前のせいで、私はこんな目に遭っているのよ! 分からないの⁉︎」

「と、言われましても……って、あっ! 思い出した! もしかして……カテドナさんにポイっとされた、メイドさんです?」


 間違いない。少しやつれてはいるが……彼女はディアメロのお茶会を妨害してきたメイドの1人だ。


(そう言えば。メイドさん達が全員辞めた理由について、処理場の話も出ていたっけ……)


 辞職理由の話の中で、「ステフィアの非人道的なお仕置き」にも言及があったことを思い出し……彼女が「ここにいる理由」にも気づくミアレット。とは言え……。


「……いや、そもそもディアメロ様のお茶会を台無しにしたのが、いけないんじゃないですか……。それに、これはどちらかと言うと、ステフィアさんのせいじゃ……?」


 足取りは力なく、フラフラともつれているが……ご本人様は意外と元気らしい。先程までの静けさを吹き飛ばすかのように、大騒ぎする元メイドらしき女は尚も、ミアレットの指摘が気に食わぬとギャンギャンと噛み付く。


「う、うるさいわね! 大体、あなたがお茶で苦しめば、こんな事にはならなかったのよ! 平民はいくら苦しんでもいいはずなのに!」

「うぁ……この人とは、一生分かり合えない気がするぅ……」

「……そうだな。僕も分かり合える気がしない。やっぱり主人が主人なら、使用人も使用人だな……。ミアレット。とりあえず、これは無視していいぞ」


 ミアレットの隣で、同じように呆れた声を出すディアメロ。そうして、やれやれと首を振った後……リオダに声を掛ける。そのリオダは兵士達と一緒に人々の人数や様子を確認し、運び出す算段を整えている最中だった。


「リオダ、ちょっといいか?」

「ハッ。いかがいたしましたか、王子」

「……こいつは捨てていく。ミアレットを身勝手な理由で侮辱したんだ。……魔法が使えようと、使えまいと。同じ人間なのにな。それを平民などと、罵るなんて……人として、助ける価値もない」

「承知しました。王子の仰せのままに」


 冷え切った視線を元メイドに落とし、怒りを露わにするディアメロ。そんな王子様相手にリオダも反論の余地もなしと、素直に従う。


「なっ、なっ……? 見てわかりませんの? 私は歩ける状態じゃなくて……」

「だから、どうした? 騒ぐ元気はあるみたいだし、牢からは出してやったんだから……後は自分で何とかしろ」


 ディアメロが憤懣やる方なしとばかりに、プイとそっぽを向けば。さぁ、困ったぞと……慌てに慌てる、元メイド。そうして見捨てられるのは嫌だと、別の可能性に賭ける事にしたらしい。未練がましく、リオダに媚び始めた。


「リ、リオダ様でしたらば、助けてくださいますよね? 何と言っても、サイラック家の遠縁ですし! 魔法を使える貴族同士、仲良くしましょうよ。そうだ! 私を助けてくだされば……」

「お断りだ。私にとっては、王の命令こそが至上。今この場で従うべきは、ディアメロ様のみだ。それに……生憎と、サイラックとはとっくに縁を切っておるのでな。其方を助ける義理はない」

「そ、そんな……」


 偉い2人に拒絶され、涙を流す……と見せかけて、彼女は泣くこともできないらしい。ガリガリに痩せた左腕を庇いながらも、ガクリと床に手を突き……絶望に肩を落とす。


(うーん……確かに、今までのことを考えると、許せないのは分かるのだけど……)


 それでも、妙に彼女の様子が引っかかっては、首を傾げてしまうミアレット。


(この感じ……もしかして、泣きたくても泣けないのかしら。それに、左腕の細さや、腕輪の意味も気になるし……)


 他の人達が喋る元気もない中で、彼女であればすぐに事情を聞くことができるかも知れない。であれば……救助を餌に、口を割らせるのも賢いやり方だろう。

【魔法説明】

・オーグメントウェポン(炎属性/中級・補助魔法)

「鬼神の息吹を乗せ 汝が業に情熱を 我は力を望む オーグメントウェポン」


対象の身体を温め、血流を活性化させる事で身体能力を一時的に高める補助魔法。

魔法名から武器に対する補助魔法にも思えるが、対象はあくまで肉体である。

体の隅々までに効果が及ぶため、攻撃力以外にも免疫力や俊敏性等の肉体機能向上も期待できる。

反面、温め方の微調整が非常に難しく、加減を間違えた際の副作用が激しいのがネック。

術者以外も対象に含めることはできるが、上記のことから、基本的には自分自身に行使することが多い魔法である。

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― 新着の感想 ―
がりがりに痩せて……? これはミアレットさんなんだかんだ情に厚いのでほっとけない気がする!!!はらはら
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