表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
187/303

5−37 死ぬ程、後悔させてやりましてよ

 水流の束縛に、なすがまま。キュラータはすぐ横をミアレット達が通り過ぎるのを、睥睨するのみ。だが……対するルエルはそんな物分かりのいい男に、軽蔑の視線を送ると同時に、さっさと本気を出せと挑発する事を忘れない。


「……いつまで、そうしていらっしゃるの?」


 無事に戦場から脱却せしめた、ミアレット達の背中が見えなくなった頃。ルエルが静かに、キュラータに問う。抵抗しないのはどう言う了見なのか、と。


「まさか、私相手に余裕を見せているつもり? だとしたら……随分とナメられたものね」

「そうではありませんよ。……厄介な相手を確実に始末せねばと、思い至った次第です」

「そう。……できるものなら、やってみなさいな」


 不敵なルエルの微笑みに応じるように、キュラータは漆黒のメイスを一振りし、アクアバインドの拘束を容易く解く。結局はミアレット達の追走を諦めたところを見るに……キュラータもルエルと一対一での勝負に興じるつもりのようだ。


(あら、意外と真面目な性格なのかしら? ……それとも、相当に自信があるのかしらね)


 ヒョロヒョロと細い体躯の割には、キュラータは相当に力持ちであるらしい。片手で易々とメイスを持ち替えたと思ったらば、手慣れた様子でグローブを脱ぐ。どうやら……文字通り手套を脱し、本気を出すつもりのようだ。露わになった爪からは、出番を待ちきれないとばかりに、ポタポタと樹液のような白い液体が滴り落ちていて……彼のメイスに張り巡らされた溝という溝を伝い、漆黒に白い蔦模様が浮かび上がる。


(あれは……十中八九、毒でしょうね。だとすると、直接攻撃は安易にできませんわ)


 それでなくとも、キュラータのメイスは柄も長く、彼自身の腕の長さからしても相当のリーチがありそうだ。ルエルの基本スタイル……格闘技による近接戦は不利であろうし、可能な限り避けるべきだろう。


「ふぅ……仕方ありませんわ。本当は……直接殴ってやりたいのですけれど。これでは、武器の相性があまりに悪いもの。……こちらもサッサと奥の手、出してしまいましょうか」

「おや、あなたにも奥の手がおありなのですね? でしたらば……是非に、お手並み拝見といきたいものです」

「フン……生意気も大概にしておくことね。私に喧嘩をふっかけた事……死ぬ程、後悔させてやりましてよ」


 足元の鎧靴を、カツンと高らかに鳴らし。ルエルが一呼吸置いた後に構えたのは、一筋の光……否、輝くストングを持つ鞭だった。ついでにメイド服も窮屈と、エプロンもワンピースも脱ぎ捨てて。ルエルはセパレートタイプの軽装へと、鮮やかに衣替えして見せる。


「さぁて……お仕置きの時間よ、執事さん。覚悟はいいかしら?」

「望むところですよ、天使様。……ククッ、あなたを降し、実験台にするのも悪くありません」

「あら、そう? 本当に……面白い冗談をお吐きになるのね。私達を実験台にしたところで、得るものなんて……何もありはしませんわ」


 ルエルの嘲笑含みの返答に、キュラータは微かに細い眉をピクリと動かしたが……それも、天使の戯言と聞き流し。軽く跳躍と同時に、体をしならせてルエルへとメイスを振るう。対するルエルは、最初の一撃をバックステップで躱し、メイスへと鞭を振りかぶった。しかし……。


「あら……意外と俊敏なのね?」


 ルエルが折角与えてやった鞭を横薙ぎに払うと、そのまま素早く突進してくるキュラータ。ルエルの懐に潜り込み、メイスの頭を彼女めがけて突き出す。そうして次の瞬間、響くのは……黒と白の金属がぶつかり合う、衝撃音。


「ごめん遊ばせ。この程度の攻撃を見切れない程、鈍くなくってよ!」

「やはり……なかなかにやりますね。これを弾き返してくるとは……」


 確実に腹を抉ったと思われたキュラータの一撃は、ルエルの放ったハイキックにより、天井へと深く深くめり込んでいた。しかも、ルエルは片足を上げた姿勢のまま、優雅にフェッテ(片足でのターン)を繰り出し、容赦なく鞭の追撃を放つ。踵に付いた毒を払いつつ。遠心力を十分に蓄えた一打は、頭上からメイスを引き剥がせないままのキュラータの頬へと、強烈な熱を走らせる。


「……見事ですね。動作の全てが、洗練されておいでです」

「ふふっ、ありがとう。でも……ほらほら、感心するのは後回しになさいな! 次、行きましてよッ!」


 天井に咥えられていたメイスを取り戻したのも、束の間。ルエルの容赦ない追撃が、熱を持ったままの頬へ再び走る。そうされて、肉をごっそりと抉られたキュラータの頬は、鋼鉄の外皮が剥き出しになっていた。まさか頬を抉られるなんて、思いもしなかったキュラータにとって……ルエルの戦闘能力は予想を遥かに上回っていると同時に、非常に興味深い。


「なんて、無様なのかしら? 人の皮を被ったところで……所詮、化け物は化け物ですわ。そんな薄皮、サッサと脱ぎ捨てたらいかが?」

「クク……なるほど。天使様と言うのは……本当に腕っ節が強いのですね。かの大天使・ルシエルも我らが尖兵を拳で沈めたと、聞き及んでおりましたが。あなたも同じでしたか?」

「あら、ルシエル様の武勇伝をご存知なのね。でしたら、話も早いわ。もちろん、私も霊樹戦役にて楯突いた異端者がどんな相手かくらいは、知っておりましてよ。そして……グラディウスの尖兵が機神族をベースにしていたことも、ルシエル様が如何にしてあなた達をスクラップにしていったかも、よく心得ておりますの」


 フフンと得意げに胸を張るルエルではあったが……内心では「嫌な予感」が的中してしまったと、焦っていた。

 霊樹戦役を経て、暗黒霊樹と呼ばれるようになった「グラディウス」。しかし、元を辿れば機神族の霊樹であった鋼鉄霊樹・ローレライがミカエルに作り替えられてしまった姿である。それが故に、暗黒霊樹・グラディウスが生み出す眷属……言うなれば、精霊達が機神族に近しい存在になるのは、自然な憶測であろう。

 そして、ルエルは最初から気づいていたのだ。キュラータは「人間ではない」。自分達が知る精霊でも、悪魔でも、ましてや天使でもない……彼はゴラニアにとっての、「完全なる部外者」。そうなれば、辿り着く答えは1つ。彼は新たに暗黒霊樹に生み出された、グラディウスの精霊……そう、かつては機神族と呼ばれていた種族が変質した未知なる精霊なのだ、と。


「ですけど……爪から毒を流しているのを見る限り、あなたは純粋な機神族でもなさそうね? その特性は、強いて言えば植物に近いかしら?」

「ご名答。肌は鋼鉄、毒は神樹。この魂は古き神の輪廻から外れし、崇高。……我らはグラディウスの神が見出しし、新世界の眷属。天使様如きに遅れを取るつもりはございません」


 ルエルの勧め通りに人の薄皮を脱ぎ捨てて、キュラータが真っ黒な本性を顕し始める。その異形は確かに、黒光する甲冑を纏った機神族のそれではあった。だが、鎧を彩るように咲き誇るモーヴ色の花が、彼はタダの機神族ではないと饒舌に主張してくる。


「我こそは、深淵なる者……神の剣となる、葵色の淵・キュラータ。……改めて、以後お見知り置きを」

「そうね。あなたの本性……しっかりと見定めて差し上げるわ」


 さてさて……ここからが第2ラウンド、互いに本気でぶつかり合うステージに突入である。ルエルは目の前の威容を見上げては……フゥと腹の底から息を吐き、武器を構え直す。彼の本性を見定めると、言いはしたが。それにはまず、彼に勝利し……生き残ることが大前提である。しかし……。


(まさか、上級精霊クラスの相手がいるだなんてね。……悪い意味で、想定外ですわ)

【登場人物紹介】

・キュラータ(地属性/闇属性)

霊樹・グラディウスが生み出した魔法生命体。リキュラの次に作られた、深淵なる者の1人。

魔法生命体としての正式名称はモーヴエッジ、「葵色の淵」の意。

グラディウスに咲く花を媒体としており、爪に猛毒を持つ。

普段はグローブで爪を隠し、毒を封じているが、戦闘時には愛用のメイスへと自身の毒を流し込んで振るう。

並外れた怪力の持ち主でもあり、細い長身から繰り出される一撃はリーチも長く、驚異的な破壊力を叩き出す。


【武具紹介】

・ホーリーダスター(光属性/攻撃力+77、魔法攻撃力+83、防御力+50)

聖なる加護を受けた、ナックルダスター(いわゆる、メリケンサック)。

手の甲側に神鉄でできた棘が付いており、純粋な攻撃性を高めている他、素材由来の光属性を強化する性能を併せ持つ。

しかしながら、武器の攻撃範囲が非常に狭いため、しっかりと使いこなすには俊敏性の強化や、柔軟な体術の習得が欠かせない。


・マンチニーラ(闇属性/攻撃力+158)

キュラータが所持する魔法武器。漆黒の鈍い輝きを放つ、見るからに禍々しいメイス。

柄から頭部に至るまで、繊細な蔦を模した深い溝が彫られているが、この彫刻は装飾ではなく、毒を隅々まで流し込むためのもの。

毒を浸透させた状態で相手に殴打を加えると、かすり傷でも確実に毒をも齎す恐ろしい武器である。


・シルヴァンシア(光属性/攻撃力+61、魔法攻撃力+62)

ルエルが所持する魔法武器。常に僅かに発光している、純白の鞭。

女神・シルヴィアの髪をストング(紐の部分)に編み込んでおり、女神の加護と光属性の強化効果を得ている。

神々しい見た目に反して攻撃力は控え目だが、クリティカル率が高いという隠れ効果がある。

テールの先端にはしっかりと神鉄の鉤爪が付いており、この部分が運悪くヒットした際のダメージはかなり凶悪。


【補足】

・クリティカル率

物理攻撃によって通常以上のダメージ量を叩き出す現象をクリティカルと言い、クリティカルが発生する確率を「クリティカル率」と便宜的に呼称している。

いわゆる「かいしんのいちげき!」というヤツであるが、実際には相手の弱点ないし、既にできている傷に対して追加攻撃をした際のクリーンヒットも含むため、狙って発生させることもでき、偶発的な現象とは言い切れない。

また、武器の種類によっても発生させ易い・させ難いの傾向がある程度決まっており、使い手の武器の習得レベルによってもクリティカル率は大幅に変動する。

そのため、武術を重点的に習得しているルエルや、全ての武器を使いこなすマモン等、武器や体術の習得レベルが高い者程、クリティカル率も高い傾向がある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
キュラータさんもつよい、、、どうなるのかな、、、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ