5−28 完膚なきまでに叩き潰してしまいましょう
「これだけ皆で探しても見つからないんだ。僕もミアレットの言う通り、兄上は城外にいると思います。ミアレット達の力を借りて、城外……特に、例の処理場へも捜索範囲を広げるべきかと」
ミアレットの提案が物騒なのは、間違いないが。一方で、ディアメロもナルシェラが心配で仕方ないこともあり、ただただ待っているつもりもないらしい。善は急げと、あっという間に父王への謁見を取り付けると同時に、「処理場を調査するべきだ」と進言するが……。
「ふむ……そうだな。これだけ探してもいないとなると……城内でナルシェラが見つかるとも思えん。訓練場を出てから、相当に時間が経過しておるようだし、闇雲に探すのは不毛であろう。……遅かれ早かれ、処理場の調査はせねばならなかったのだし、ミアレット嬢達の力を借りれるのならば、こちらから仕掛けるのも手か」
まだナルシェラが攫われたと決まったわけではないし、攫われていたとしても、行方が「処理場」だと確定したわけでもない。しかしながら、今まで大臣に「してやられてきた」憤りもあるのだろう。ディアメロがハザール王に相談したらば、周囲を固めるラウドや兵士達も即刻向かうべきだと一致団結してしまうのだから、王子様としては色々と恐ろしい。しかも……。
「ふふふふ……! 私達も存分にお力添えいたしますわ。もちろん、よろしいわよね? カテドナ」
「無論です、ルエル様。ここは1つ、異端者共を完膚なきまでに叩き潰してしまいましょう」
天使と悪魔のコンビはやる気もやる気。ディアメロの憂慮は知らんとばかりに、これまた物騒なことをおっしゃる。
「えぇ、そうね! 王子様の恋路を邪魔するならば! 全てを蹂躙し尽くすまでですわ!」
「いえ……目的は恋の成就ではなくて、ですね……あぁ。まぁ、それでもいいですか……。動機が不純でも、結果的に王子様を助けられれば良いのでしょうし……」
その上、天使様の恋愛脳は軌道修正不可の模様。彼女達の横でミアレットが「あちゃー」と額に手を充てているが、お構いなしである。
「……ルエル様の目的がズレているのは、さておき。先程、副学園長様からも援軍を手配すると連絡がございました。前例からしても、リンドヘイム聖教絡みの施設は無駄に広大な傾向があります。ですので、探索に特化した精鋭部隊を派遣することに決めたそうですわ」
この際、ルエルの乙女暴走は放置することにしたのだろう。カテドナが相変わらずの真面目な調子で、調査のあらましを説明し始める。
「探索の精鋭部隊……ですか?」
「えぇ。我ら悪魔は領分によって、本性がどの動物を象るかが決まっている……のは、ミアレット様もご存知かとは思いますが。悪魔は本性の種類に準じて、人間よりも研ぎ澄まされた身体能力を持ち得ているのです」
「あっ、それはなんとなく、聞いたことがあります……。確か、ハーヴェン先生は暴食の悪魔だから、犬系の動物で……マモン先生は強欲の悪魔だから、猫系でしたっけ?」
首を捻りながらも、ミアレットが回答してみれば。カテドナは殊更満足そうに頷くと、計画の続きを語り出す。
「よく覚えておいでですね、ミアレット様。その通りです。そして、その犬系の悪魔……つまりは暴食の悪魔は嗅覚・聴覚が非常に優れているため、探索行動を大得意としているのですよ」
「ほえぇぇ……悪魔さん達って、本性によって得意分野があるんですね……」
「しかしながら、暴食の悪魔はエルダーウコバク様以外の戦闘能力は低い傾向がありますから……戦闘力は我ら、憤怒の悪魔にてカバーさせていただく所存ですわ」
「そうだったのです? 悪魔さんはみんな強い……あっ、違いますね。……私達が知っている悪魔さんは、大抵は上級悪魔なんでしたっけ」
「これまた大正解です。天使様と契約し、人間界での自由活動を許されるのは、基本的には上級階級以上の悪魔だとお考えいただければ、間違いないかと。とは言え……悪魔への造詣も非常に深いようですし、流石は魔法学園一の優等生ですわね。カテドナはミアレット様のご理解に、非常に満足ですよ」
「……いや、私はそこまで優等生じゃありませんってぇ……」
いつものミアレットヨイショもキメたところで、具体的な人員構成の説明に入るカテドナ。ミアレットのボヤきも、安定の華麗にスルーである。
「まず、確認ですが……最優先事項はナルシェラ様の捜索で、お間違いありませんね?」
「もちろんだ。処理場の調査はついでに過ぎん」
「承知しました。暴食の大悪魔……ベルゼブブ様からは、特に鼻が利くウコバクを6名貸してくださるそうです。そして、我ら憤怒の悪魔からもアドラメレクを5名派遣することとなりました。ですので、ウコバクとアドラメレク1名ずつの6チームを適宜分散して、グランティアズ城周辺と処理場の捜索をすることと致しましょう」
ミアレットには、ウコバクがどんな悪魔かは分からないが。少なくとも、アドラメレクはカテドナと同種の悪魔であることは知っている。要するに、カテドナレベルの上級悪魔が追加で5人もやってくるのである。そんな魔界でも上位レベルの悪魔を相手にしなければないともなれば……ちょっと魔法が使える程度の人間では、歯が立たないどころか、口を開ける間もなく抹殺かもしれない。
(カテドナさん1人だけでも、強烈なのに……それが更に5人も、って。アハハ……向こうの皆さん、大丈夫かなぁ……)
粛々と計画を述べるカテドナの横で、ミアレットは何故かリンドヘイム陣営の心配をしてしまう。ディアメロ相手には「カチコミじゃぁッ!」と息巻いていたが。流石に、完膚なきまでに叩き潰すことは想定していない。
「しかしながら、完膚なきまでに叩き潰すのは、相手が完全にクロだと判明してからです。今回は魔力調査の一環でご一緒いたしますが、相手に非がない場合、我らが率先して手を下すことはありません」
ですので、捜索の主体は騎士団の皆様ですよ……なんて、カテドナが穏やかなメイドスマイルを浮かべるが。裏を返せば、相手がクロだと判断された場合、率先して手を下す……という事になるのだろう。それに冷静なカテドナはともかく、暴走癖が止まらないルエルはアッサリとクロ判定しそうである。
(自分で言い出しといて、なんだけど。めっちゃ不安なんですけど……!)
【作者の言い訳】
悪魔の本性の姿に当てはめた動物は、一般的な「七つの大罪」からは敢えて外してあります。
これに追従すると、他の作品と被ってしまう……と言うのも、ありますが。
それぞれの真祖達にはモチーフになった映画や伝承があり、そこからインスピレーションを受けた結果だったりします。
言ってしまえば、完全に趣味を全面に押し出した自己満足です。
ごめんちゃい。
なお、各大悪魔達の動物は以下の通りです。
アケーディア:クーラン(奇蹄目)
バビロン:ジョセフォアルチガシア(齧歯目)
リヴァイアタン:ホライモリ(両生類)
ベルフェゴール:ナマケグマ(食肉目熊科)
ベルゼブブ:コヨーテ(食肉目犬科)
サタン:ヒクイドリ(鳥類)
アスモデウス:ベゾアール(鯨偶蹄目)
マモン:トラ(食肉目猫科)
動物の姿で想像した方が、キャラクターを動かしやすいんですよねー。
そのため、作者の頭の中では悪魔さん達はモフ姿で稼働してます。
ビバ、セルフモッフパラダイス。