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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−23 血は争えないものである

 大臣との繋がりもなければ、威光の後ろ盾もない、ラウド。彼にあったのは磨き上げた実力と、ただただ無骨な直情だけ。そして……彼自身にやや頭に血が昇り易い傾向があったのも、よくなかったのだろう。揉め事を「当然のように起こってしまった事」とハザール王が嘆息するのも、無理はない。


「リオダの話にもあったが。大臣派の使用人達には、他の使用人へ八つ当たりをすることで、鬱憤を晴らす悪癖があった。そして、兵士達が慌てて止めに入った……と言うのも、一度や二度ではない。だが、少ない人員を割いてまで、城内の警備を指示していたのはラウドでな。運営費が削られている中で、上手く回してくれたものだと、余は感心していたが。……ガラファドの目には、真逆に映っていたろうな」

「左様ですね。弟はそれでなくとも、大柄で外観も厳つい。否応なしに目に入る存在でもあったのでしょう」


 しかし、大臣がラウドを疎んじているのを感じていても、リオダは大臣の身辺警護が最優先と厳命されていたため、身動きが取れなかった。そして、大臣の娘の取り巻き達にまではリオダの目も届かず……あろうことか、ステフィアのメイド達は居館に住んでいた兵士の娘を、使用人と勘違いしたらしい。平民であれば誰でも構わないと、謂れなき娘を虐め抜くメイド達。そんな彼女達を……ラウドが返り討ちにしてしまったと兄が知ったのは、大臣が彼の処刑を決定した後だった。


「ラウドが入ったことで、娘も一応は無事であったし……返り討ちにしたと言っても、あちら側に怪我人は出ていないのだが。おそらく、ガラファドの指示だろう。メイド達はラウドに大怪我をさせられたと、吹聴し始めたのだ」


 ガラファドはラウドが直接出てきたことを、好機と捉えたに違いない。周囲の使用人達からも「メイド達は怪我をしていない」と証言があったにも関わらず、独断でラウドの処刑を押し進めたのだ。だが……。


「……そこで異を唱えたのが、ナルシェラだった。瑕疵もないはずの娘は大怪我をしているのだから、処罰されるのはメイド達の方だろうと、頼もしい事を申してな。……ナルシェラの嘆願を受ける格好で、ガラファドはラウドの処刑を取り下げ、メイド達の処罰も有耶無耶にしたのだよ。喧嘩両成敗だと、称してな。無論、ラウドに両成敗される謂れはないのだが」


 大怪我をしたメイドとやらは、次の日にはピンピンしていたのだし……と、ハザール王は苦笑いを零すものの。処罰されるべきはメイド達のみで、ラウドのそれは冤罪である。発端が勘違いだったこともあり、それをさも偉そうに「喧嘩両成敗」等と言ってしまえる時点で、色々と残念過ぎる。


(これはまた……トンデモ超理論が展開されてるわぁ。……大臣達の頭の中、大丈夫かしら?)


 あの娘あって、その父親あり……か。

 ローヴェルズにやってくる前は、グランティアズの国王はお飾りで、優秀な大臣が国を回している……なんて、下馬評も聞かれたが。大臣にあるのは魔法適性だけで、優秀な頭脳ではなさそうだと、ミアレットはグランティアズ関係者の印象を改めていた。

 娘がジコチューなら、父親もジコチュー。血は争えないものである。


「当初、大臣親娘からは貴族出身のメイドと兵の娘とを同じにするなと、おかしな主張も聞かれたが。普段から従順なナルシェラがあの様に申すとは、思ってもみなかったのだろう。……未来の息子の願いを聞き入れてやるのは吝かではないと、最終的には意外な程にアッサリと、決定を覆したのだよ」

「……なんだか大臣、格好悪いですね。しかも、未来の息子って……ナルシェラ様の引き攣った顔が、想像できそうです」


 ミアレットの正直な感想に、ハザール王がプッと吹き出す。きっと、ナルシェラの困惑顔を鮮明に思い浮かべたのだろう。しばらく大きく肩を揺らし……心置きなく笑った後は、本題の続きとばかりに、真面目な表情を取り戻した。


「しかし、格好悪いのはガラファドも多少は自覚しておったようでな。その後、メイド達の横暴を阻止するためにも、テラスハウス建設を指示したが……その時は殊の外、スムーズに予算を通しおってからに。まぁ、ガラファドは自尊心を補填してやれば、意外と上手く転がってくれるから助かる」


 ディアメロが間借りを提案してくれていた、「騎士団のテラスハウス」建設はハザール王の命令だったようだ。しかして、彼の語り口からするに……ハザール王が「愚王」で通しているのには、大臣を上手くコントロールするためでもあったらしい。

 「自尊心を補填する」と言っていることからしても、大臣をおだてたのだろう。そうして最終的に目的を達成しているのだから……この場合は、ハザール王の方がウワテだとするべきか。


(ハザール様……意外と、したたかなのね……!)


 ダンディキングは、中身も渋かった。敢えて泥を被りながら、目的を達成するなんて……ミアレット的には、激渋である。更なるキュンポイントを見つけて、ミアレットは内心で舞い上がってしまうが。とは言え……。


「あのぅ……それはそうと、今のお話は私が知っていてもいい内容なんでしょうか? 完全に裏事情な気がしますけど……」

「構わんよ。……例の処理場について相談する手前、リオダの立ち位置を説明する必要もあったのでな。何より、ミアレット嬢はそれこそ、将来的に余の娘になるのかも知れんし。内情の共有くらいはしておいても、差し支えなかろう」

「はいっ⁉︎ (えぇぇぇ⁉︎ ここで、外堀に盛り土までするんですかッ⁉︎)」


 未来の息子ならぬ、将来の娘と来たか。王様も力技で外堀を埋めてくるのだから、ミアレットとしては敵わない。


「と、まぁ……話が少しばかり、逸れてしまったが。当時のリオダは騎士団長でありながら、ガラファドの近衛兵をさせられていてね。そして、リオダはガラファド達が処理場と呼んでいた場所にも、供として足を運んだことがあったそうでな」

「あっ、そういう事でしたか……」


 リオダが「処理場の場所」を掴んでいたのは、かつては大臣一派に属していたためらしい。「近衛兵をさせられていた」と、庇うような言葉を選んでいる時点で、ハザール王にはリオダを咎めるつもりはないようだが。……沈痛な面持ちからしても、リオダの後悔は深そうだ。

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「将来的に余の娘」言われてまっせ笑 外堀~!\(^o^)/(もっとやれ笑) さて、処理場の謎。 名まえからして嫌そうな場所ですよね。
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