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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
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1−14 危ない目に遭うパターン到来

「道すがら、事情を説明するな? 校長先生と話している最中に、すぐ近くで深魔の反応があったもんだから……こうして、俺が緊急出動する羽目になったんだけど」

「そ、そうだったんですか……」


 マモンが説明してくれるところによると。深魔の不可解な発生について校長先生に事情の説明と、対策を講じるように話をしている最中に……まさにこのカーヴェラで深魔が発生したとの連絡が入ったらしい。そうして、丁度カーヴェラにやってきていたマモンに、対応依頼が入ったという事だったが……。


「それはそうと、マモン先生」

「うん?」

「……この状況、本当にリッテルさん的には大丈夫なんですよね⁇」


 ミアレットは今、カーヴェラ上空を飛んでいる。あろう事か……麗しの大悪魔様にお姫様抱っこをされた状態で。

 空を飛ぶ事自体、初体験ではあるが……懸念事項が先に頭をかすめて、ミアレットは折角の空中散歩を楽しめないでいた。普通ならばそれこそ、「夢のような体験」になるはずなのだが。


「私、修羅場に巻き込まれるの、絶対に嫌ですから!」

「修羅場って……んな、この程度は浮気のうちに入らないんでない? それに、仕方ないだろ。緊急事態なんだから。状況が状況だし、リッテルだって子供相手に嫉妬なんざ、しないだろうさ」

「だと、いいんですけど……」

「ま、それはともかくとして。……深魔になったのが、どーもミアちゃんのお友達っぽかったから、沈静化のヒントが欲しくてご一緒してもらったんだ」

「沈静化のヒント……? それに、お友達って……まさか!」

「うん。そのまさか、だと思うな。……今回のターゲットはエルシャ・ラゴラス。発信源の魔術師帳情報からしても、間違いないだろう」


 エルシャが学校に来ていなかったのを、不審に思っていたが。まさか……その彼女が深魔になっているなんて。


「ま……エルシャちゃんに関しては、若干悪意の反応もあったもんだから、可能性が全くなかったわけじゃないんだけど。昨日から急に落ち着き始めたのもあって、注意程度で済むかなって思ってたんだ」

「昨日から……あっ! もしかして、エルシャと仲直りしたのが良かったのかしら……?」

「おっ! やっぱり心当たり、アリな感じか? ミアちゃんを誘拐してきて、正解だったな」

「アハハ……これ、誘拐になるんです?」


 終始、軽妙な調子のマモンだが。それでも、説明はきちんとしてくれるつもりと見えて、尚も言葉を続ける。


「ミアちゃんも、魔術師帳は持ってるよな? 実はあれには、生徒のみんなを見守ると同時に……ちょいと言い方は悪いが、監視する機能もあってさ。こっそり、みんなの深魔指数も調べているんだよ」


 オフィーリア魔法学園から生徒へと支給される「魔術師帳」は、持ち主の魔力情報にリンクしている……のは、ミアレットも知っての通り。だが一方で、持ち主の常々魔力の状況を観測・集積しているとのことで、密かに生徒達の異変も監視できる仕組みになっており……各学園の校長は生徒達の状況を把握していないといけないと共に、少しでも「傾向」があれば、即座に本校に連絡をしなければならないことになっていたらしい。

 そして、「深魔指数」とはまさに対象者の「深魔になりやすさ」を数値化したものであり、本人の魔術師帳には表示されない。その数値を把握することができるのは、マモン達のような「特殊祓魔師」と監視システムを担っている天使に……各校の校長のみである。


(だから、校長先生が睨まれてたのね……。報告を怠ったから……)


 因みに、カーヴェラは特に「平均的な貴族」が多いせいもあり、生徒の精神衛生はあまり良くない傾向があるそうだ。突き抜けているのならともかく、ほんのり偉いだけの貴族が多いのが、却って良くないらしい。子供達もどこか卑屈な雰囲気があると、マモンは今日の「学校参観」でなんとな〜く、察したのだとか。


「……って、話している間に着いたな」

「えっと、ここは?」

「エルシャちゃんのご自宅だろうな。まぁまぁ、お貴族様のお屋敷はご立派なこって。……こんなに広い必要、あんのかねぇ?」


 いかにも悪魔っぽい、蝙蝠のような翼をしまいつつ。マモンが呆れつつも、降り立った広い庭を見渡す。しかし、探す間もなく……庭の向こう側で真っ黒な何かが蠢き、苦しそうに叫んでいるのが、いやでも目に入った。


「もしかして、あれが……」

「探す手間が省けたな。うん、お察しの通り……あれが深魔。……負の感情に瘴気が癒着して、魔物になっちまった姿だ。で、成り行きで巻き込んじまって悪いが……ミアちゃんを連れてきたのは、他でもない。あの子を助けるために、手伝って欲しいことがあるんだよ」

「私で役に立てることが、あるんですか?」

「うん、大アリなんだな、これが。攻略ポイントは後で説明するな。とにかく、まずは対象を拘束しないと。……ミアちゃん、ちょっと下がってて」

「はい……!」


 ミアレットを庇うように、ズイと前に出るマモン。そんな彼に、深魔の方も気づいたのだろう。奇声にも近い雄叫びを上げながら、こちらへ突進してくるが……!


「舞い遊ぶ風よ、乱れ吹く嵐よ! 鎖となりて、我が手に集え! したたかに紡げ……ウィンドチェイン、シックスキャスト!」


 深魔の爪が届く、届かないのところで……マモンが展開した風属性の拘束魔法が、キッチリと彼女の手足を捕らえる。彼が発動したのは、ミアレットが眺めていた初級魔法の指南書にもあった魔法ではあるが。同じ魔法を6連結し、効果と拘束箇所を増強することで、初級魔法ならではの弱さを見事にカバーしている。


(凄い……! こんなに鮮やかな魔法展開、見たことないかも……!)


 カーヴェラ分校でも、教師によるデモンストレーションもあるにはあったが。まだまだ実践的な授業は受けられないミアレットにとって、目の前で発動された流麗な魔法は、工夫も熟練度も別次元にさえ見えた。


「でも……どうして、ウィンドチェインなんですか? マモン先生だったら、もっと拘束力の高い魔法も使えるんじゃ……」

「それはそうなんだが……風属性の拘束魔法は、ほとんどが雷系の魔法でなー。……ノーダメで相手を拘束できる風魔法は、こいつしかないんだよ。俺達は何も、深魔を討伐したいワケじゃない。できるだけ、ダメージを残さないように助ける事を考えにゃならん。殺すのは最終手段……他にできる事を全部、やり切ってからだ」


 少しだけ苦しそうに呟きながら……マモンが細い銀色の腕輪に、そっと手を添える。そうして、何かの呪文を呟いたかと思えば……腕輪から伸びた光を指先でクルクルと回すと、もう1つ、同じ趣の腕輪を作り出した。そして……それをそのまま、ミアレットに渡してくる。


「マモン先生、これは……?」

「深魔の深層心理に入り込むための、魔法道具だ。俺達、特殊祓魔師はこの腕輪……対深魔用に作られた、メモリーリアライズを使って、深魔の心の中に潜む元凶を潰すのが仕事なんだよ。で、ミアちゃんに渡したのは、俺が持っているマスター版が暫定的に作り出したコピーだな。1回ポッキリの消耗品で、深魔の心迷宮への潜入を1度だけ叶えられるようにできてる」

「ゔっ……それって、つまり……私も一緒に来いって意味で、合ってます?」

「あったり前だろ〜? ミアちゃんに手伝って欲しいことって言うのは、こういうこった」


 いともアッサリと、そんな事を言ってのけるマモンだが……。


(いやぁぁぁ⁉︎ いきなり、危ない目に遭うパターン到来じゃないですかぁぁぁ⁉︎)


 当然の如く、ミアレットは心の中で絶叫していた。

【道具紹介】

・メモリーリアライズ

天使と悪魔の共同開発によって生み出された、対深魔用の魔法道具。

深魔の心迷宮への侵入を可能にする「先導」、深魔の心の蟠りを解消する「消去」、緊急時の脱出を叶える「離脱」の効果を備えている。華奢な腕輪の形状を取り、繊細な装飾が美しい逸品。

特殊祓魔師と一部の天使は「マスター版」の所持を許されており、必要に応じて消耗品の「コピー」を作り出すことで、協力者を同行させることができる。

また、マスター版の持ち主は迷宮内での同行者の状態を把握することができ、危険な状況に陥った時は、強制離脱の判断をしなければならない。


【魔法説明】

・ウィンドチェイン(風属性/初級・拘束魔法)

「舞い遊ぶ風よ 乱れ吹く嵐よ 鎖となりて 我が手に集え したたかに紡げ ウィンドチェイン」


風を編み、空気の鎖を作り出すことによって、相手の身動きを封じる拘束魔法の一種。

実体のない風の流れを利用するため、拘束力は非常に弱く、一時的な足止めにしか使えないとされる魔法である。

しかしながら、錬成度(錬成の段階で込める魔力量)や、同種多段展開(同一種魔法の重ねがけ)によって効果増強もできるため、術者の手腕によっては上級魔法並みの拘束力を持たせることも可能。

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