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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
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5−8 入り込む余地

「それならば、リオダに相談してみるか」

「リオダさん……確か、騎士団長様でしたっけ?」

「あぁ」


 テーブルを挟んで変な方向に盛り上がっている、ルエルとナディア妃を呆れたように眺めつつ。ディアメロが無難かつ、常識的な提案を出してくる。

 彼によれば、グランティアズ城には常駐している兵士もいるが、騎士団が管轄している城下のテラスハウスから通ってくる者も多いのだと言う。そして騎士団長でもあるリオダに相談すれば、ミアレット達にもその一角を貸してもらえるかも……という事のようだ。


「家族持ちの兵士は、テラスハウスに住んでいる事が多いな。もちろん、城内に居館もあるにはあるが。基本的に男所帯だし、城内に常駐している限りは、真っ先に駆り出される可能性も高い。……少なくとも、非戦闘員の妻子を住まわせておける場所じゃない」

「そうなんですね。そうかぁ……お城って、兵士さん達のこともしっかり考えられているんですね……」

「とは言え……正直なところを白状すれば、兵士達の待遇はようやくマトモになった、が正しいな」

「へっ?」


 以前は兵士達の待遇についても、大臣があれこれと口出しをしては、運営費を大幅に削減されていたのだそうで。「平和なこの世に、騎士団など不要だ」と主張しては、軍縮路線を強行していたらしい。大臣が浮いた経費を何に使っていたのかは、不明ではあるものの……以前の騎士団は最高のパフォーマンスを要求される割には、経費削減も相まって人員確保もままならず、最低限の警備ですら苦慮する有様だった。


「まぁ……今の世は平和だからな。そこまでの軍事力が不要なのは、僕も同意だけれども。……でも、近くにアーチェッタがある事を考えると、気も抜けなくてな」

「……アーチェッタって、そんなに危険な場所なんです?」

「それなりに。一応、このグランティアズも宗教都市である以上、あまり無視できない存在ではあるんだが……僕達も含め、一般的な奴らは信仰心なんてもの、もうなくてな。……布教活動と称して、強制的に引き込もうとする暴徒が絶えないんだ。たまに、国民を巻き込むもんだから……騎士団も対応に苦労している」


 困ったもんだ……と肩を落とし、アーチェッタに警戒を示すディアメロに、ミアレットは目を白黒させてしまうものの。セドリックがいた大聖堂の荒れ具合からしても、当たらずしも遠からずかと、すぐさま納得してしまう。


(ティデル先生も心配してたし、ディアメロ様もこの調子だし。アーチェッタって冗談抜きで、危ない場所なのねー……)


 アーチェッタはリンドヘイムの総本山でもある、偽聖地。未だに残党が燻っている、危険地帯……とティデルの解説から想像できるアーチェッタの姿は、とてもではないが、有り難みのある場所ではなく。聖堂へ行った時は、ミシェルが一緒だったり、箒に乗って空を飛んでいたりと、アーチェッタの危険さを体感していないが。上空から見えるアーチェッタの街並みは、カーヴェラを知っているミアレットにはどこか寂しく、頽廃したように見えたものだ。


「それはさておき。最近の騎士団の運営や管理は、リオダがやっている。相談すれば、宿泊先は手配してくれるだろう。まぁ、以前はリオダもいいように大臣に口出しされていたが……ラウドの事で揉めてから、有無を言わさなくなってな。騎士団がテラスハウスを置くようになったのも、それがキッカケの部分もあったし……」

「揉め事にキッカケ……ですか?」

「あぁ、いや。……今のは、こちらの事情だ。ミアレットは気にしなくていい」


 どこか気まずそうに紅茶を口に含みながら、はぐらかすディアメロ。強引に話を切り上げたのを見ても、深く話したくない内容だったのだろう。


(ちょっと気になるけど……無理やり聞くのは、ダメよね。でも……揉め事もあるような場所で、ディアメロ様達は大丈夫なのかしら? それでなくても、派手にやらかしちゃったし……。これで、ディアメロ様が仕返しされないといいんだけど……)


 標準的な判断で、常識的な宿泊先を提案してもらえるのは、確かに非常にありがたい。それに、今までやや強引さが目立っていたディアメロの思慮深さは、ミアレットとしては意外であると同時に、非常に好意的に思えた。だからこそ、却って心配なのだ。ディアメロが酷い目に遭わされないか、という事が。

 さっきのメイド達は「ステフィア以外の婚約者候補はいらない」と言っていた。しかし、そのステフィアはナルシェラの婚約者だったはずである。ミアレットがナルシェラの婚約者になると決まっていないし、現状ではディアメロの婚約者候補と認識されるのが、自然な流れだろう。それなのに、彼女達はミアレットを排除しようとしてきた。


(やっぱり、そのまま引き下がらない気がするわぁ。場合によっては、ディアメロ様も危ないかも……。ディアメロ様がいる限り、私が入り込む余地は残ったままだし……)


 ミアレットには王妃になるなんて野望は、本当にこれっぽっちもない。しかし、彼女達はそうは思わないだろう。王子に寄ってくる女は皆、王妃の座……つまりは玉の輿を狙っていると考えるのが、一般的な思考回路というものである。

 そんなステレオタイプの常識で考えた時。ミアレットは明らかに邪魔な存在であろうし、真っ先にディアメロが狙われる可能性もある。何せ、ディアメロには魔法能力がないのだ。カテドナがあっさりとメイド達を撃退してしまった以上、ボディガードが付いているミアレットを狙うより、ディアメロを狙う方が効率的であろう。


「……ディアメロ様」

「うん、どうした?」

「このお城に私達が住めそうな場所、あります?」

「えっ? ミアレット、まさか……お前、この城に住むつもりか?」

「もちろん、非常識なのは重々承知ですし、ディアメロ様の提案はもの凄く有り難かったです。でも……このままだと私は良くても、ディアメロ様は危ないかも。さっきのメイド達や、大臣が仕返しに来たら……ディアメロ様は自分の身を守れますか?」

「それは……」

「怖いのは、魔法だけじゃないです。例えば、毒を盛られたりしたら……すぐに助けてくれそうな相手は、この城にいますか?」

「……」


 無論、ディアメロは王子である。ナルシェラが第一王子とは言え、万が一があった場合の王位継承権を持つ以上、言い方は非常に悪いが……スペアとして生かされるのは、ごくごく自然な王家の扱いというものだろう。

 だが、この城を真に牛耳っているのは王ではなく、大臣なのだ。そして、大臣は自分の娘を無理やりにでも王子に娶らせることで、名実共に実権を握ろうとしている。先程のメイド達の強硬な態度を鑑みても……ディアメロが他の婚約者を引き込みそうだとなった場合、彼の方こそを可能性ごとアッサリと切り捨てるかも知れない。

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― 新着の感想 ―
お城に住むとこある?ってミアレットさんから口にしたーっ!?(理由はどうあれ) いいぞその調子!
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