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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第5章】魔力と恋の行方
155/303

5−5 万死に値します

「グエッホ、ゲホッ……!」


 カテドナに強制給水をさせられたメイドが、苦しそうに腹を抱えて蹲る。ミアレットにもすぐさま効果が現れたが、それは彼女も同じことらしい。玉のような汗をタラタラと垂らしながら、口を抑えて何かを必死に堪えている。


「ちょ、ちょっと、大丈夫ですの⁉︎ あ、あなた……何をなさいますの!」

「薬が入っているのを分かっていて、無理やり飲ませるなんて、酷いじゃない!」


 そんな彼女の背を摩りつつ、残りのメイド達がキッとカテドナを睨むが。カテドナはどこ吹く風と、涼しい顔。尚も彼女達を虐めるつもりと見えて、余裕の笑みを見せつける。


「どの口がおっしゃるのやら……呆れて物も言えませんわね」

「なんですって⁉︎」


 ギャーギャー騒ぐ2名のメイドを尻目に、お薬を盛られたメイドはいよいよ、ピークを迎えつつある様子。カタカタと震え出したかと思うと、縋るようにミアレットを見つめてくる。


「と、とにかく……そこの平民! さっきの薬……私にも……」

「……ありませんよ? さっきので、最後でしたし」

「なっ……」

「それに、あったとしても……未だに平民呼ばわりしてくるような、失礼な人には絶対にあげないです。頼み方ってものがあるでしょう、頼み方ってものが」

「なんて、生意気な……!」


 ミアレットの当然の指摘さえも、彼女達には「生意気」で片付けられてしまうらしい。ザフィ先生のお薬がもうないのは、事実なのだが……ミアレットが隠し持っていると勘ぐったらしい彼女達は、否応なしに薬を取り上げようと、魔法を放ってきた。


「煌めく風よ! 天を臨め! 風の息吹を刃と成さん、ウィンドブレイド!」

「紅蓮の炎を留め放たん! 魔弾を解き放て! ファイアボール!」


 だが、しかし。2人がかりの攻撃魔法を、カテドナの防御魔法がいとも容易く防いで見せる。


「堅牢な鋼鉄の決意を知れ、我は純潔の庇護者なり。クリスタルウォール」


 どこまでも冷静なカテドナが構築したのは、目にも美しい水晶の防壁。向こうが透けて見える程に薄い壁だが……相当の強度があるらしく、メイド達の魔法をアッサリと弾き返した。


「なっ……?」

「こ、こんな魔法、知りませんわ……!」

「……当然でしょうね。クリスタルウォールは上級魔法です。あなた達の低級な魔法を防ぐことなぞ、我らにしてみれば造作もありません」


 ミアレットの前に立ち塞がり、彼女達に冷ややかな視線をくれてやると同時に、圧倒的な魔力の威圧感を放つカテドナ。そうされて、ようよう目の前の相手が「只者ではない」と気づいたのだろう。蹲っているメイドだけではなく、魔法を放ってきた2名のメイドもヘナヘナと腰を抜かし始めた。


「……我らのミアレット様に害を成そうとするなど……万死に値します。……ルエル様、粛清のご命令を」

「こんな奴ら相手に、あなたが手を汚す必要はなくってよ、カテドナ。……その手はミアレットを守るために、綺麗に保っておきなさいな」

「ハッ。……承知しました」


 ルエルの言葉に、やや渋々ながらも……カテドナが素直に従う。そうして、一歩下がってミアレットの横にピタリと控えるが……。


(うあぁぁ……カテドナさん、オコですね? 完全にオコですよね⁉︎)


 自分のために怒ってくれるのは、嬉しいし、頼もしいが。カテドナは憤怒の悪魔である。怒りを鎮めるのに、苦労していると見えて……こめかみで青筋がピクピクと跳ねているではないか。


「だけど……お仕置きは必要よね?」


 そんなカテドナの心意気を汲んだのだろう。ルエルがクスクスと笑いながら、カテドナに世にも残酷な指示を与える。


「ふふ……だったら、カテドナ。残りの2名にも、お茶を恵んで差し上げなさいな。それでもって……そうね。こいつらを“爆弾”ごと大臣とやらにつき返すのも、楽しそうね?」

「それは名案ですね、ルエル様。でしたらば……早速、実行致します」

「えぇ、結構よ」


 爆弾とは要するに……アレであろうか? 本来であれば、水に流されるはずの……アレであろうか?

 お茶の席で、具体的な事は想像したくないが。もし予想通りの「お仕置き」だった場合……彼女達が辿る顛末はあまりに悲惨である。


「愚かなる者に、大地の怒りを示せ。我が意志を受け取り、打ち据えん。ローゼンビュート!」


 ミアレット達の不安一杯の視線を浴びながら、今度は拘束魔法を展開し始めるカテドナ。声色こそ冷静ではあるが、表情は生き生きとしている。そんな彼女の様子に……ミアレットだけではなく、ディアメロも心なしか椅子の上で腰が引けているようだ。


「ほらほら、こちらはご自慢の高級茶なのでしょう? でしたらば、3人で一滴残さず召し上がれ……?」

「い、いやっ……! 私達はそもそも、ステフィア様にご命令されて……」

「あら、そうなの? でも……あなた達がミアレット様を侮辱したのは、事実ですから。……我が主人を傷つけた事、このカテドナは絶対に許しません」

「それについては、謝るわ! だから、やめて……やめてくださいぃ……!」


 ようやく、それらしい言い訳と謝罪を吐くメイド達であったが。完全に「オコ」なカテドナに、その言葉が届くはずもなし。


「ふふ……さぁさ。ご遠慮なさらずに……!」


 拘束魔法の蔦で簀巻きにされたメイド達の口に、お茶を流し込むと……更に「ニィッ」と口角を上げて、微笑むカテドナ。しかしながら、その笑顔は一瞬。すぐさま冷徹な表情を取り戻すと、拘束魔法で簀巻きにしたメイドさん達を、3人まとめて軽々と担いで見せる。


「では……この不届き者達を送り返して参ります」

「よろしくてよ。お願いね、カテドナ」

「かしこまりました」


 ルエルの了承を得て、飄々とした足取りでカテドナが去っていく。そんな彼女の背中を見つめては、ミアレットは力なく「アハハ」と乾いた笑いを溢す事しかできない。


(……悪魔のお姉様方って、みんな揃いも揃って、力持ちなのかしら……?)


 アレイルの剛力にも、驚かされたが。カテドナの怪力にはもうもう、ミアレットは怯えるのを通り越して、納得さえし始めていた。そもそも彼女は人間ではないのだから、人間離れした芸当ができてしまうのも、当然なのかも知れない。しかし……。


(……ディアメロ様と王妃様、完全にドン引きしてるわー……。この調子じゃ、無理もないけど……)


 ミアレットは幸か不幸か悪魔達の所業も見慣れているので、ある程度は順応できるものの。……前準備もなしにお姉様の荒技を目の当たりにすれば、理解が追いつかないのは当然であろう。


「さて……と。邪魔者を排除したところで、お茶会を再開致しましょう。……申し訳ありませんが、そちらのお茶をミアレットにも分けていただけませんこと?」


 しかし、ミアレットと同じく悪魔の所業は見慣れているルエルが、仕切り直しとばかりに朗らかに微笑む。そうされて……王子様の余裕を取り戻したディアメロが、快く応じる。


「あぁ、もちろんだ。……本当に不愉快な思いをさせて、すまないな」

「王子様が気に病む事ではございませんわ。悪いのは、あいつらですもの。ウフフ……それに、ステフィアとやらにもきっちり反省させなければなりませんね……!」

「うわぁ……」


 こちらはこちらで、やっぱり恐ろしい天使のお姉様。天使だろうと、悪魔だろうと。……お姉様を敵に回すのは、人生のバッドエンドを意味するのだと、ミアレットは肝に銘じ直すのだった。

【魔法説明】

・クリスタルウォール(地属性/上級・防御魔法)

「堅牢な鋼鉄の決意を知れ 我は純潔の庇護者なり クリスタルウォール」


ありとあらゆる魔法に対して防御性能を発揮する、最上位クラスの防御魔法。

物理攻撃に対しても幅広い耐性があり、特筆すべきは魔法武具の追加効果も防ぐ点にある。

また、展開される防御範囲も広く、1回の発動で広範囲の味方への魔法攻撃をカバーできる。

非常に便利な防御魔法であるが、魔力によって鉱物を作り出し、強化・性質変化させる構築概念を含んでいることもあり、魔力消費量や構築難易度も非常に高い。


・ローゼンビュート(地属性/初級・拘束魔法)

「愚かなる者に大地の怒りを示せ 我が意志を受け取り打ち据えん ローゼンビュート」


荊棘を編み、蔦の鞭を作り出すことによって、相手を縛り上げる拘束魔法の一種。

錬成の度合いで編まれる蔦の強度が変化し、錬成度を高めると対象を持ち上げ、文字通り「締め上げる」ことも可能。

そのためか、主に拷問に使われることが多い拘束魔法である。

また、攻撃性を有する構築を加えれば、棘付きの蔦に変更もできるが……勢い余って、対象を死亡させることもあるため、加減を見極めるのが肝要である。

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― 新着の感想 ―
うわあ~(笑) やっぱりカテドナさん、敵に回したくない! 攻撃魔法をあっさり撃退、あっさり……。 ルエルさんも口調が丁寧な分よけいに怖いよぅ(※もっとやれ笑)。
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