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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第4章】波乱含みの王都旅行
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4−38 大天使としての自覚がなさすぎる

「この、バカモンがッ‼︎ 勝手に出て行った挙句に、事前連絡もなしに深魔討伐をする奴があるかッ⁉︎」

「ヒェッ⁉︎」


 呼び出しを食らっただけでも、悪い予感しかしないのに。ミシェルの報告書を確認した途端、天使長はとうとう怒髪天を突いた様子。……元から、ルシフェルは(天使達がユル過ぎるが故に)怒っている事も多いのだが。今回は相当に腹に据えかねているようで……眉間に皺を寄せるだけでは飽き足らず、銀髪を逆立てては顔を真っ赤にしている。


(うわぁ……元・傲慢の大悪魔は伊達じゃないね……! 迫力が違うよ……!)


 天使ではなく、悪魔の形相になりつつあるルシフェルを見つめて、ミシェルは斜め上の感想を抱く。

 確かに、ルシフェルには一度「闇堕ち」した経験があり、悪魔として魔界で過ごしていた期間が存在する。彼女が有り余るプレッシャーと共に、大悪魔として魔界に君臨していたのも事実であろう。

 だが……今はそんな事を考えている場合ではないのだ。天使長を怒らせたのならば、人間界に出られなくなる可能性が高い。ルシフェルは何かと、天使の印象が崩れる事を非常に懸念しており、全体的にユルユルな彼女達の行動を気にかけている。それが故に、「人間界に出るのに相応しくない」と彼女に判断されたらば、「神界に缶詰」のお仕置きが確定してしまう。……セドリックを個人的に追跡しようと考えているミシェルとしては、これ以上の不都合はない。


「そ、そんなに怒らなくても、いいじゃないですかぁ〜……。一応は、迷える少年を導いて、ですね? そ、それに、ほら! そこにも書きましたけど、心迷宮攻略に関しては、ボクの貢献率がトップだったんですよ⁉︎」


 人間界行きを封鎖されるのは、何が何でも回避せねばと、ミシェルは言い訳を重ねるが。子供騙しの言い分で納得するなんて甘さは、ルシフェルにはないのだった。


「当たり前であろう! 人間と比較しての貢献率なんぞ、いくら高かろうとお前の失態は埋まらんわッ‼︎」

「はひっ! ごめんなさいぃ〜!」


 ルシフェルの指摘はご尤も。人の子と天使とでは、そもそもできる事のレベルが違い過ぎる。ミシェルの貢献度が高いのは当たり前過ぎて、敢えてのプラス要素にはならないのである。


「それに、お前はこの報告書だけで内容を網羅したつもりでおるのか?」

「えっ? えぇと、それはどういう意味でしょう……?」


 お怒りが収まらないまま、ルシフェルの声のトーンが一段と下がる。しかしながら、声のトーンが下がったのとは裏腹に、ルシフェルの怒りのトーンは上がった様子。ミシェルがおずおずと尋ねると、ルシフェルが手元を見てみろと憮然と顎で示した。そうされて、ミシェルは恐る恐る自身の精霊帳を見つめるが……。


「……ミアちゃんからも、報告があったんすね……」

「そうだ。しかもミアレットの報告書の方が、遥かに精度も内容も充実しているぞ。お前の報告にはなかったセドリックの逃亡についても、記載されている。まさか……この重要事項を敢えて省いたりなんぞは、しておらんよな……?」

「え、えぇとぉ……」


 図星である。ミシェルは「重要参考人を逃した」という過失を隠すと同時に、「悪いイケメンを独り占めしたい」目的から、敢えてセドリックを逃したことは記載しなかった……ではなく、彼が関わった事自体を最初からなかったこととして、報告していた。

 なお、ミシェルもセドリックが学園側でも行方を追っている相手であることは、もちろん知っている。そして、その情報連携は天使長経由なので、当然ながら、ルシフェルはミシェルがセドリックを知っていることも把握している。なので、「そんな事は知りませんでした」は通用しない。


「本当に……つくづく、情けない奴だ……! ハァァ……仕方あるまい。本当はお前に任せるつもりだったのだが。ローヴェルズ駐在は一旦、他の者に頼むとしようか……」

「は、はい……? ローヴェルズ駐在って、何の話です?」

「ローヴェルズの王族が魔法能力を封印されている可能性が出てきているのだ。それで、そこの王子がミアレットに懸想しているようでな。……彼女がローヴェルズに呼ばれているのを機に、気づいたことがあったら知らせてくるよう、伝えてあったのだよ。それと並行して、こちらもローヴェルズに拠点を置く計画を進めていたのだが」

「なんですか、その面白そうな話⁉︎ ボク、初耳なんですけど⁉︎」

「それはそうだろうな。お前に話すのは、今が初めてだ」


 さも当然と、ルシフェルがそんな事を仰るが。彼女の冷めたご容貌とお言葉から察するに、ミシェルは担当者候補から外されるということらしく……。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ルシフェル様! そうと言ってくれれば、ちゃんと報告書を出しましたってぇ〜! 後出しでそういう話はナシですよッ!」


 そうして、ミシェルは慌てて天使長に弁明を試みるが。ミシェルの身勝手な言い分を聞き分けられる程、天使長様は優しくもなく。ワナワナと震えると、机に拳を叩きつける。


「この、大馬鹿者がッ!」

「ヒエッ⁉︎」

「餌をぶら下げられずとも、その程度の事は完璧にこなさんか! 報告書を不足なくきちんと出すのは、業務の最低ラインだ! そんな当たり前の事も、言わなければ分からんのか、貴様はッ⁉︎」

「あは、あはは……そ、そうですよねぇ……」

「第一、お前は大天使としての自覚がなさすぎるのだ! 少しは、オーディエルとルシエルを見習わんか! それと……」

(こっ、これは、もしかして、お説教が長引くパターンかな……?)


 お怒りに油を注がれ、ミシェルの普段の勤務態度やら、軽薄な振る舞いやらについてもクドクドとネチっこく言及し始めるルシフェル。それでもしばらく舌鋒鋭く喋り続ければ、少しは落ち着くというもので。最後にはやれやれと首を振りつつ……仕方あるまいと、ルシフェルは肩を落とした。


「とは言え、ミアレットからはミシェルがいてくれて助かったと、礼があったのも事実か。……必要以上に苦労させられた気がするともあるが、深魔対応はつつがなく完了したのも、事実であろう」

「じゃ、じゃぁ……!」


 ミアレットは気が利くことに、しっかりとミシェルの活躍も伝えてくれていたらしい。ルシフェルさえも「人間にしては、できた奴だ」と感心させた挙句に、ミシェルへのお怒り緩和にも一役買ってくれた様子。


(ミアちゃん、ナイス……! まぁ、セドリックについて報告してくれちゃったのは、余計だったけど……)


 ミアレットがいてくれて助かったと、ミシェルは額を拭う。

 そもそもローヴェルズ絡みの話は、ミアレットが発端なのだ。ミシェルにとって天使長様のお怒りを鎮めてくれた事以上に、「面白そうな話」を齎したミアレットはありがたい存在である。


「なので……謹慎期間は神界時間で1週間とする。その間、しかと業務を遂行し、私を納得させられるようであらば、ローヴェルズ駐在についても再考しよう」

「え、えぇぇ……! やっぱり、謹慎あるんすね……」


 しかし……しかし、である。ミシェルの失態に対するお咎めは、やっぱりナシにはならない模様。フンと不機嫌そうに鼻息を漏らすルシフェルの眉間は、まだまだ皺が深いままだ。


「当然だ。これを機に、自分の振る舞いをトコトン見直すがいい」

「はぁい……」


 1週間と聞けば、短いようにも思えるが。神界の時間の速度は人間界よりも圧倒的に遅いため、神界の1週間は人間界換算でいくと、大凡1か月ちょっとの期間である。それでも、独断で事をしでかしたミシェルに対するお仕置きとしては、かなり甘々な判定だと思われるのだが。格好のターゲットを見つけたミシェルには、1週間はあまりに長い。


(トホホ……しばらくは出禁かぁ……)


 しかして、ミシェルはルシフェルの決定を覆す権限も、理屈も持ち合わせていない。そうして、天使長の決断を渋々と受け入れては……ミシェルはガクリと肩を落とすのだった。

【補足】

・神界と魔界における「時間の速度」について

人間界の時間速度を「標準」とした場合、神界の時間経過速度は5分の1程度であり、「時間の進みが遅い」傾向がある。

神界での1日は人間界では5日間相当に換算され、ミシェルに下された謹慎期間・「神界での1週間」は人間界では「大凡1か月と1週間」に該当する。

一方、かつての魔界は人間界よりも時間の進みが5倍ほど早かったため、魔界は神界の約25倍の速度で時間が経過していたが……ヨルムツリーの配慮もあり、現代の魔界側の時間経過速度は人間界と同等程度に落ち着いている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あはは、ミシェル様怒られてる(笑) にしても頑張る動機が不純すぎるのが面白い~(≧▽≦)
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