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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第4章】波乱含みの王都旅行
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4−37 随分と、スッキリしちゃったのね

「クラウディオ……? クラウディオなの⁉︎」


 空の向こうが、少しずつ白み始めた早朝。箒に乗せられて、ミアレットとクラウディオがファヴィリオ邸へと帰ってくる。時間が時間なので、誰もいないだろうなとミアレットは思っていたのだが。エントランスに入った途端に、マーゴットが駆け寄ってくるではないか。昨日と同じデイドレスを着込んでいるのを見るに、どうやらベッドに入りすらしなかったらしい。彼女のエメラルド色の瞳の下には、うっすらとクマができている。


「ただいま、戻りました……。心配させて……ごめんなさい」

「……そうね、とっても心配したわ。でも、あなたが無事だったのですもの。これでこそ、心配した甲斐もあったというものね」


 疲れた様子なぞ微塵も見せずに、優しく微笑むマーゴット。そんな義母の様子に……クラウディオがグスッと鼻を啜ると同時に、袖で目頭をゴシゴシと擦る。


「それはそうと……ふふ。随分と、スッキリしちゃったのね。でも、この方が顔が良く見えていいわ」

「そ、そうかな……。あの、それはそうと、マーゴット」

「何かしら?」

「……何があったか、聞かないの?」

「聞かないわ」

「えっ……?」


 バッサリとなくなってしまった前髪に言及しつつも、マーゴットの言葉にはクラウディオを詰る雰囲気もなければ、疑り深い含みもない。ただ、おずおずと自分を見上げるクラウディオに対し、いいのよと首を振る。


「その様子だと、あまり聞かない方がいいのでしょう? クラウディオが話したくなったらば、きちんと聞くけれど……少なくとも、話したくないものを無理やり、聞くつもりはないわ。とにかく今は、きちんと食事をとって、ちゃんと休んでちょうだい」


 自身もろくに眠っていないだろうに、そんな事はおくびにも出さないマーゴット。帰ったら叱られるかも知れないと怯えていたクラウディオにとって、彼女の反応は安心してしまうと同時に……ついつい、感動の涙を流してしまう程に、温かいものだった。


「それに、ミアレットさんには改めてお礼をしないといけませんね。とは言え……あぁ、少しばかりお腹が空いたわ。まずは一緒に、朝食をいかがかしら?」

「はいぃ〜! 言われてみれば、お腹ペコペコですぅ〜! あぁぁ……あの新鮮なお野菜を、お腹一杯食べたい……!」


 ミアレットの素直な反応に、ますます嬉しそうに笑うマーゴットに、少しばかり恥ずかしそうにお腹を抑えるクラウディオ。今の今まで、夢中で心迷宮の探索をしていたものだから……ミアレットもクラウディオも、空腹さえも忘れていたことに、改めて気づく。

 それでなくとも、クラウディオは昨晩も食いっぱぐれているのだ。腹が減っていない方がおかしい。 


「そうだな。僕も野菜、食べたいかも……。マーゴット……あ、いや。は……母上の農園で採れた自慢の野菜だもの。不味いはず、ないし」

「クラウディオ……」

「それとね、は、母上。あの……僕も次から、農園に行ってみたいんだ。自慢の魔法遺産も見てみたいし……いいかな?」

「えぇ、えぇ、もちろん……! 是非、一緒に行きましょうね」


 照れ臭そうにマーゴットを「母上」と呼び変えつつ、クラウディオがモジモジと農園について言及すれば。疲れも吹き飛びましたとばかりに、感極まったマーゴットがホロリと涙を溢す。


(ふふ……何もかもが、万事解決ってワケじゃないんだろうけど……。この調子なら、マーゴットさんとはちゃんとやっていけそうね)


 まだ少しだけ、ぎこちないけれど。あんなにモソモソと動くだけだったクラウディオの口元が、穏やかに緩んでいる。そんな様子を見て……ミアレットは今回もちょっと頑張った甲斐があったと、胸を撫で下ろした。

 ミランダは最後の最後まで帰ってこなかったし、クラウディオも彼女の喪失は悲しいに違いない。だが、それ以上に……クラウディオはしっかりと母親の呪縛と決別し、前を向いて歩き出そうとしている。生母との思い出が不要とまでは、言わないが。少なくとも、これからのクラウディオが拠り所として縋る必要はなさそうだ。


(とは言え……やっぱり、何かを忘れている気がするのよねぇ……。うーん……大した事じゃないといいんだけど……)


 親子として並びつつあるマーゴットとクラウディオに付いていきながら、ミアレットは何かが引っ掛かると、首を傾げずにはいられない。本当に重要な事でなければ、いいのだが。漠然と、そうではない気がして……ミアレットは心の片隅に居座る違和感に、嫌な予感を募らせていた。


(とりあえず、ルシフェル様にも相談しておこう……。セドリックも逃しちゃったし、王宮の件もあるし……)


 セドリックについては、ミシェルも報告を出している可能性も高いが。グランティアズ城で小耳に挟んだ情報は、ミシェルも知り得る内容ではない。

 ローヴェルズの大臣はアーチェッタにも深い関わりがあるらしい。大臣(娘含む)を無碍にできないのは、アーチェッタと険悪になるのを避けるためなのだと、ナルシェラが婚約破棄をできない理由の段でも話が出ていた。


(きっと、大臣はリンドヘイム聖教の関係者なのよね……?)


 それでなくとも、セドリックとの邂逅場所もアーチェッタのリンドヘイム大聖堂だったのだ。クラウディオが大聖堂にいたのは、場合によってはタダの偶然かも知れないが。彼がどうしてアーチェッタにいたのかも含めて、きちんと確認しておいた方がいいだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セドリックさんの後ろにある者が、これからミアレットさんたちにも分かってくるのでしょうか。なかなか尻尾を出さないから難しそうですけど~(≧▽≦) クラウディオくんのお母さんは救えなかったけど…
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