表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第4章】波乱含みの王都旅行
146/325

4−36 素敵な業務形態

「うあぁぁぁ! 逃げられたぁ! イケメンに、逃げられたぁぁぁ!」


 心迷宮から無事に、帰還せしめたが。ミアレットは戻るなり、盛大に地団駄を踏んでいるミシェルを遠い目で見つめていた。翼のおかげで辛うじて天使らしき生物であると、判別できるものの。騒いでいる理由が理由なので、折角の神々しさも台無しであるし、非常に痛々しい。


「ミシェル様、そんなに喚かなくても……」

「そうはいかないでしょ! 貴重なイケメンがいなくなったんだよ⁉︎ ボクの原動力が! ボクの最大の楽しみが! いなくなっているんだよ⁉︎ 深魔発生よりも一大事なんだけど⁉︎」

「えぇぇ〜……」


 どう考えても、深魔発生の方が一大事だろうに。何を考えているんだ、この大天使様は。有事よりも個人的趣味を優先させるもんじゃありません。


「でも、あの拘束魔法、外からじゃないと解除できないんですよね?」

「うん、そうだねー。んでもって、マジックディスペルなんかを使う場合、シールドチェイン自体の構築を知っている必要があるから、難易度激ムズだったはずなんだー」


 だとすると、シールドチェインを解除したのは……天使言語を知っていてかつ、マジックディスペルまでも使いこなす相手という事だろうか?


「うーん……しっかし、しくじったなぁ。これを解除できるのって、マモンかアケーディアくらいだと思ってたんだけどー」

「そうなんです? でも、先生達がセドリックを逃すとは思えませんけど……」

「だよねー。だから、別の誰かだろうねぇ、鎖を解除しやがったのは。ま、逃がしちゃったものは仕方ないか。セドリック君の魔力データは捕捉済みだしー。いつでも追跡可能だから、チャンスはまだあるしー」

「そうだったんです……?」


 それならば、こんなにも大袈裟に騒がなくてもいいだろうに。しかして……ミアレットがそんな事を考えている側から、大天使様は悪い意味で前向きな反応を示す。


「あぁ……すぐに調教できないのは、残念だなぁ。でも……この際、じっくり追い詰めて料理するのも、悪くないね。ふふふ……天使の執念、甘く見ないでほしーなぁ……!」

「うわぁ……」


 その執念、他に向ける場所はないんだろうか? 執念の使い道……間違っていませんか?

 ミアレットはやっぱりズレている天使様の感覚に、脱力してしまうが。それはクラウディオも同じと見えて、コソコソと耳打ちしてくる。


(ミアレット。あれ、大丈夫かなぁ……。セドリックが心配なんだけど……)

(……大丈夫じゃないと思います。セドリック、完璧に詰みましたね、これは。……天使様達って、なんだかんだで人間をきっちり監視しているみたいですし……)

(そうなんだ……。うん、やっぱり悪い事はしちゃダメだよね)

(……そうっすね)


 セドリックの身を案じつつ、非常にお利口な結論に至るクラウディオと、もうもう色々とツッコむ気にもなれないミアレット。

 悪い事をしようと、しまいと。天使様達の監視対象には「イケメン」や「恋バナのネタ」が含まれるのも、ミアレットはよく知っている。彼女達が無駄に人間界に出たがるのは、お仕事の原動力補給が目的なのだ。本筋のお仕事でやってくる訳ではないのが、悲しいかな。……天使様達の素敵な業務形態だったりする。


「とにかくお仕事は完了したんだし、報告書をって……うにゃぁぁぁッ⁉︎ ヤバい……ヤバいヤバいヤバい! ボク、大ピンチかも⁉︎」

「……今度はどうしたんですか、ミシェル様……」


 ともあれ、今回は(ついでに)お仕事をこなしたのだから……報告書を出しましょうと、ミシェルが精霊帳を見るや、否や。今度は絶叫し始めるのだから、天使様というのはリアクションまでもが忙しい。


「天使長から、呼び出し食らった……アハハ。そう言えば、今回はボク……勝手に出てきちゃったんだよねぇ」

「えっ? えっとぉ……天使長様がお願いしてくれたから、ミシェル様が来てくれたんじゃなかったんですか?」

「実は、このお仕事……最初はラミュエルが担当する予定だったんだけど……ほら、面白そうだったから? ボクが代わりに行くよって、飛び出してきちゃったんだ……。タハハ……」

「そうだったんです……?」


 結果的にはクラウディオを助けられたのだし、(結果はともあれ)深魔対応も完遂できたので、必要以上に考なくてもいいのかも知れないが。ミシェルよりも格段に落ち着いているラミュエルだったらば、ここまで苦労しなかった気がすると、ミアレットはまたも乾いた笑いを漏らしてしまう。


「……とにかく、ボクは至急帰らなきゃ……。ミアちゃん、悪いんだけど。クラウディオ君はお任せしてもいい?」

「はい、大丈夫です。元々、クラウディオ君を探すって出てきてましたし。なので……クラウディオ君。一緒にお屋敷に帰りましょ?」

「うん! あっ、でも……ちょっと待って」


 ミアレットがウィンドルームを呼び出して、どうぞと後方を示して見せると。素直に頷くと見せかけて……クラウディオが気落ちしているミシェルに駆け寄る。


「あのっ、大天使様」

「うん? 何かな、少年」

「今日は……ありがとうございました。母上は助けられなかったれど……僕、ミシェル様のお陰で、大切な事に気づけました」

「そっか。それは何より。うんうん、少年も逞しくなったねー。その調子でイケメンを目指してくれると、ボクもとってもハッピーだなぁ。いずれ、獲物として狙わせてもらうからねー」

「え、えっと……それはちょっと……」


 いかにもミシェルらしい回答に、尻込みするクラウディオ。それでも、最後は2人で笑い合うと、クラウディオはいそいそとミアレットの方へ戻ってくる。


「それじゃぁ、やっぱりお仕事は大成功って事にしておこうっと。迷える少年をちゃんと導きました……なんて、天使っぽいし、天使長も納得してくれるっしょ。と、いうワケで……少年少女よ、また会おう!」

「あっ、はい……」


 どういうワケかは、今ひとつ意味不明だが。最後はどこぞのヒーローらしきセリフを残し、シュタッと飛び立っていくミシェル。そんな彼女の眩しい背中を見送って……天使様達にも深い事情や思い出があるものなのだと、ほんのりと感傷に浸るミアレットだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「うん、やっぱり悪い事はしちゃダメだよね」(笑) セドリックさんに聞かせてあげたい! ロックオンされてるよ、たぶんあなたヤバいよって(笑) お気に入りクズ男なんで、ロックオン楽しみではあり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ