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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第4章】波乱含みの王都旅行
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4−31 鮮血のコントラスト

「記憶、まだ足りない……! お前の記憶を寄越せッ!」


 漆黒霊獣らしき大蛇は、鎌首を勢いよく振り下ろし、ミシェルへと牙を向ける。だが……そこは大天使様というもの。翼を翻し、宙を舞い。ミシェルはあっさりと大蛇の牙をいなし続けた。


「ボクには君が言っていることが、よく分からないけど。化け物は、この世界にはいらないよ。だから、ここでぶっ潰すに限る!」


 記憶を寄越せ。その言葉から察するに、漆黒ニーズヘグはミランダの自我だけでは満足できなかったらしい。だからこそ、新しいターゲットを食い殺そうと、神経を掻き乱すステージまで用意していたようだが……この場合、相手が悪過ぎる。


(えぇとぉ……これ、援護は必要なのかなぁ? ミシェル様1人で、よくない?)


 苛烈な攻撃もなんのそのと、ミシェルは牙を掻い潜りながら、果敢にナイフを投げ続ける。だが、蛇の鱗は相当の防御力もある様子。幾度となく攻撃を弾いては、こちらはこちらで、余裕の風格を見せつけていた。


「うーん……ナイフの通りは今ひとつかぁ。伊達に漆黒霊獣じゃないね、アレ」

「でも、属性レジストがないとなると、魔法攻撃は通りそうでしょうか?」

「どうだろね? 一般的に、竜族は魔法攻撃にやたら強いからなぁ……」


 ミシェル曰く。竜族はそもそも、根本的に次元が違う精霊であるらしい。その身に纏う鱗1枚、その手に生える爪1枚……細部の隅々に至るまで。その身全てが魔力に満ち溢れ、生半可な攻撃魔法は尽く弾くと言う。


「……この感じだと、ボクの知っている竜族と同じ雰囲気だし……。魔力レベルはそこまでじゃなさそうだけど、魔法防御力だけはブッチギリかもね。鱗をどうにかしないと、いけないかぁ」


 ミアレット自身は竜族に会ったことはないが。彼女の解説からしても、竜族の鱗は圧倒的な魔法防御力を誇るものらしい。そして……今まさに対峙している漆黒ニーズヘグは、鱗の厄介な特性も模していることになりそうか。


「……という事で、ミアちゃん」

「へぅ?」

「ウォーメイジの実力、見せてくれないかなー。クラスチェンジしたってことは、そっちもイケるんでしょ?」

「あっ、そうなります……?」


 チャーミングにウィンクする、彼女はいつもの大天使様……と見せかけて。どこか、無理をしている気がすると、ミアレットは微かに不安を募らせる。


(なんだろう……。イライラしているのもそうだけど、怒っている……? それに……ミシェル様の攻撃、雑になっている気がする……)


 何がそんなに彼女を焦らせているのかは、分からないが。ステージの上から飛び立った後のミシェルは、手当たり次第にナイフを投げているようにも見える。一方……対する漆黒ニーズヘグは、そんなミシェルの様子に舌なめずりをすると、どことなく嬉しそうな吐息を漏らした。


「あれ? 鱗が、動いてる……?」

「うん……しかも、動いているだけじゃなくて、歩いているような……?」


 【アイテムボックス】からコズミックワンドを取り出したまでは、良かったが。ステージの下にはわらわらと、漆黒ニーズヘグ鱗だったものが人の形を取り始めていた。しかも鱗の漆黒はそのままなのに、きっちり付いている目だけは妙に生々しく、ギョロリと血走っていて……ひたすら気味が悪い。


(めちゃくちゃ不気味なんですけど……。でも、あれ……? あそこに居るのは、片足がないような……?)


 子供サイズの鱗の化け物をマジマジと見れば、足がないものがいたり、腕がないものがいたり……はたまた、片目が潰れていたり。五体満足の者はざっと見た限りでは、見当たらないように見える。


「最初から怪我してるなんて、ますます気色悪いわ……」

「う、うん……。しかも……あれ、見てよ。あっちの子は、真っ赤な涙を流しているんだけど……!」


 クラウディオが示した「あっちの子」は血走った赤い目から、これまた赤い血の涙を流していた。そして、クラウディオの指摘を合図にするように、他の鱗達も靡け倣えと……その場の全員が、赤い涙を流して見せるではないか。そんな観客席いっぱいに広がる光景は、まさに地獄絵図。黒い体躯も相まって、鮮血のコントラストは見るも禍々しい。


「うっ……とにかく、やるしかなさそうね……!」

「そうみたいだね。でも、なんだか可哀想な気もしてきた……」


 しかしながら、クラウディオは不気味さ以上に、憐憫も募らせている様子。元から優しい人間ではあったのだろうが、ただただ手を伸ばして涙を流すだけの鱗達に同情している。


「……いや、これらに同情はいらないよ。一思いにやっちゃって」


 しかし、クラウディオの折角の感傷もバッサリと、ミシェルが切り捨てる。そうして、予断なくナイフを投げ続けるが……相変わらず、彼女は妙にイライラしている模様。


「ミシェル様……?」

「……きっと、あいつはこう言いたいんだろう。お前が踏み台にしてきた子供達は、今もお前を恨んでいるぞ……って。そんで、ご丁寧にも似姿を再現して、向こうもボクを煽っているつもりなんだろうね」


 だとすると、漆黒ニーズヘグが鱗を使って生み出したのは……。


「それじゃぁ、あの鱗の化け物はミシェル様の記憶によるものですか?」

「うん、多分ねー。……色以外はボクの記憶まんまだし。当たりどころが悪くて、手足が使えなくなったり、目が潰れたりと……いつもいつも、的役は散々だったから」


 ミアレット達の頭上から、ミシェルが苛立ち紛れにため息を降らす。それでも、今更後に引けないと思ったのか……はたまた、突破口を見つけたのか。ミシェルは早々にナイフを腰のホルスターに戻すと、手元に別の武器を呼び出し始めた。


「我の元に来たれ、アンヴィシオン! ふふっ……やっぱり、今のボクにはこっちの方が合ってるよねー」


 いつかにアレイルがミシェルを「弓の名手」だと、言っていたことがあったが。彼女の証言通りに、純白の弓を構えるミシェルは大天使の威厳に満ち満ちており、尚も神々しい。


「さぁて。そろそろ、怒るフリはいらないかな? これだけ鱗を使ったら……お仕置きも、たんまりと効きそうだし」

「えっ? も、もしかして、ミシェル様の攻撃が雑になっていたのって……」

「ミアちゃんは気づいたみたいだね。……ボクがわざと怒っていたこと」


 どうやら、ミシェルはニーズヘグの「怒りに反応する」性質を知っていた様子。彼女が「怒って見せていた」のは、ニーズヘグの防御を崩すためだったらしい。


「と、いうことで……全部まとめて、ぶっ潰してあげるよ。ふふふ……生きている事さえ、後悔するレベルでお仕置きしてあげるさ……!」


 だが、しかし。大天使様はお怒りと同時に、嗜虐性も限界突破されてしまったご様子。尚も恐ろしいことをおっしゃりながら、眩い矢を大量に放ち始めた。


(……ミシェル様、怒っていたのはフリじゃないんじゃ……)


 一応、魔法のステッキで参戦しますけれども。猛攻を繰り出すミシェルを前に、やっぱり自分の出る幕はないのではないかと、ミアレットはアハハと乾いた笑いを漏らさずにはいられないのだった。

【武具紹介】

・アンヴィシオン(光属性/攻撃力+199、魔法攻撃力+151、魔法防御力+185)

転生の大天使に与えられる、神具の1つ。

マナの女神が自らの髪から作り出した武器で、純白の煌めきを放つ聖弓。

持ち主の魔力を適宜消費することで、最大で500本もの矢を放つ事ができる。

その他、持ち主が攻撃を受けた際に自動的に防御魔法・ディバインウォールを展開するが、攻撃時と追加効果発動時にそれぞれ魔力を消費する事になるので、魔力の残量には注意が必要。


【魔法説明】

・ディバインウォール(光属性/中級・防御魔法)

「我は望む 堅牢なる地母神の庇護を 賜わらんことを ディバインウォール」


各ベースエレメントの魔法攻撃を防ぐ他、ある程度の物理攻撃にも効果を発揮する防御魔法。

対効果範囲が広く、汎用性も高い魔法ではあるが、耐久性にやや不安があり、最上位魔法や魔法解除効果のある武器での攻撃を防ぐことはできない。

錬成度を高めるか、同種多段構築(重ねがけ)をすることで多少の補強は可能。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖い情景……(;´∀`) ミシェル様の記憶。 なんて悪趣味な!
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