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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第4章】波乱含みの王都旅行
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4−18 恋愛脳バリバリ

 冷静に考えれば、考える程。「人の子探し」で天使長様を呼び出すのは、この上なく恐れ多い。天使長様にしてみたらば、ミアレットの緊急事態は雑用レベルでどうでもいいことではあろう。それでも、無力な「人の子」にできることは限られている。だからこそ、ミアレットは「ダメもと」で天使長様に「ヘルプ!」を出したのだが……。


(その結果が、これ……)


 代役を寄越してくれただけ、ありがたいけれど。いくらなんでも、恋愛脳バリバリな天使様を寄越さずともいいだろうに。


(あぁぁ……この世界、神も仏もあったもんじゃないわ……!)


 しかも、その神様(主に一番偉い女神様)もややズレているともなれば……仏様はさておき。この世界にはマトモに祈れる相手すらいやしないと、ミアレットは肩を落としてしまう。


「えぇと……ミシェル様。来ていただいて、なんですけど……」

「うんうん。皆まで言わずとも、ヨキヨキ! 心配しなくても、ボクのイケメンサーチは稼働中だからー! 人探しも任せなさいって〜!」


 フフンと、得意げに胸を張るミシェルだが。


(うああぁぁぁ! これは、絶対に任せられないヤツじゃないですかぁぁぁぁ‼︎)


 対するミアレットは嫌な予感以前に、人選ミスとしか思えない惨状に、内なる悲鳴を上げていた。第一、捜索対象はイケメンではない。ちょっぴり冴えない風貌の、ごくごく普通の少年である。捜索前から照準がズレにズレまくっている時点で、ミアレットは戦慄を禁じ得ない。


「それで? ターゲットは誰かな?」

「はい……クラウディオ君と申しまして。友人の従兄弟で、あのお屋敷の子だったんですけど……」


 それでも、やって来てしまったものは仕方がない。ミアレットは魔法も達者なミシェルを頼るのが得策だと思い直し、後方の屋敷を指し示してはクラウディオのディテールについて説明する。そうして、彼がいなくなってしまった原因も、時間も分からないものだから、どうすれば良いか相談したいと訴えてみるが……。


「ふんふん……要するに、貴族のお坊っちゃまってことだよね?」

「まぁ、そうなりますね」

「そっかー……クラウディオ君とやらは、イケメンじゃないのかぁ」

「可もなく不可もなくって感じですね。少なくとも、ハーヴェン先生やマモン先生みたいなイケメンじゃないです」


 ミアレットの相談を受け流しつつも、人探しは手伝ってくれるようだが。クラウディオが平凡な外観であることを伝えた途端に、この落胆ぶりともなれば。ますます不穏である。しかも……。


「うーん、残念。でも……ま、迷える子羊を助けるのも天使のお仕事だし。相手がイケメンじゃなくても、3割程度は頑張るから、安心して」

「……3割の数字は、安心していいレベルです?」


 3割とはつまり、30%である。要するに、相手がイケメンではない場合、ミシェルの稼働率は30%ということになるし、残りの70%はサボりますよと言っているようなものである。イケメンサーチなるものの正常稼働も怪しい。


(うぅぅ……なんだか、頭が痛くなってきた……)


 沈みゆくお日様に照らされて。ミアレットは黄昏れると同時に、肩を落とす。やはり、天使は肝心な時に頼りにならない。こんな事だったら、悪魔のお兄様達にも相談できるようにしておくべきだったと、遅すぎる後悔をしてしまうのだった。


***

「全く……! いつもながらに、人の話を聞かん奴だ……!」


 想定外の顛末を聞かされ、ルシフェルは天使長室で苦虫を噛み潰した挙句に、ペースト状になるまですり潰したような顔をしていた。そんな彼女の前には、いかにも申し訳なさそうに眉根を下げているラミュエルの姿がある。


「申し訳ございません……。まさか、ミシェルが飛び出してしまうなんて、思いもしなくて……」

「……もう、良い。出て行ってしまったものは、仕方なかろう。……やはり、私が直接出向けばよかったか」


 ミアレットからの「ヘルプ!」を受け取って、ルシフェルはラミュエルに任せるつもりで、彼女にメッセージを出していたのだが。運悪く、ラミュエルのすぐ側にミシェルもいたそうで……ラミュエルの制止を振り切り、ミシェルが勝手に代役として出て行ってしまったそうな。

 それでなくとも、普段からミシェルは人間界へお仕事に行きたがる。アーニャの代役派遣の依頼が来た時も真っ先に手を挙げて……大天使階級が出向くのはナシだと、天使長は元より、同じ大天使階級のオーディエルとルシエルにも反対されては、不貞腐れていたのだ。


「あいつにも困ったものだ……。通常業務はしっかりとしているようだから、多くは言わんが。……もう少し、節度を持てないものか……」

「そうですよね……。ミシェルにもパートナーがいれば、あんなにも焦らないのでしょうけれど……」

「うむ? ミシェルは……何か、焦っておるのか?」


 ラミュエルの物憂げな呟きに、ルシフェルは不思議そうに首を傾げている。そんな天使長の様子に、ラミュエルは相変わらず恋愛には疎いのだからと、苦笑いをこぼしつつ……ミシェルが「イケメン探し」に躍起になっている理由を述べる。


「大天使階級で旦那様がいないのは、ミシェルだけですから。オーディエルはまだ正式な婚約には至っていませんけれども……契約がなくとも、サタン様との仲は順調だと聞きますし。私や天使長様にも、大悪魔様のパートナーがおりますでしょう? そして、ルシエルは言わずもがな。……ハーヴェン様との夫婦仲は良好過ぎるほどです。この状況で焦るなという方が、無理ですわ」

「なる、ほど……それは考えてもみなかった。しかし、だな。私は望んで、ベルゼブブと夫婦になった訳ではないのだが……」


 ルシフェルとベルゼブブの婚姻は言わば政略結婚……否、助力の見返りにルシフェルを人質に取る格好で、ベルゼブブが強引に婚約を結んだだけだ。そのためか、パートナーにご執心なのは旦那側だけで、嫁側は今ひとつ彼との関係性には馴染めないと、距離を置きまくっている。

 ルシフェルが神界に籠りがちなのは、根本的に多忙なのもあるが……どちらかと言えば、ベルゼブブを避けるための方便とする方が正しい。


「まぁ……私自身の事を深掘りする必要はないか。お前の言い分からするに、ミシェルにも相手を用意すれば、あいつの浮かれ具合も落ち着くと?」

「そこまでは申しませんが……少なくとも、今日のような勇足はなくなるかと」

「……そう、か。であれば……この際、ついでだ。ローヴェルズの拠点構築の責任者に、ミシェルを据えるか。そうそう……魔界側の協力者は、それとなく募れそうでな。アケーディアからも、好感触の返事を得ている。いっその事、ミシェルに機会を与えるのも一興だ」

「左様でしたか。アケーディア様のお返事ともなれば、人選も安心できそうですね。……事情を説明しておけば、ミシェルの浮かれ具合も抑えてくれそうですし……」

「そうだな。……非常に情けない限りだが」


 深く刻まれた眉間の皺を揉みつつ、ため息をつくルシフェル。まさか、ミシェルがそこまで「旦那探し」に躍起になっているとは、思いもしなかったが。ローヴェルズの視察や、拠点作りの計画が持ち上がっているのだし……これもいい機会だと、早々に割り切る。


(ミシェルは態度こそ軽薄だが、優秀なのは間違いない。……意外な所で、責任感はあるようだし……ミアレット護衛の流れついでに、ローヴェルズを任せてみるか)

【登場人物紹介】

・オーディエル(炎属性/光属性)

神界に3人いる大天使の1人であり、「排除部門」の長を務める8翼の天使。

聖剣・オラシオンの所有者で、個としての戦闘能力は天使中最強を誇る。

炎属性の攻撃魔法を全て操る他、回復魔法にも長けており、部下に対する指揮能力も非常に高い。

普段から鍛錬も欠かさず、大柄で引き締まった体躯を持つが……中身は乙女であり、かなりのロマンチスト。

恋人である憤怒の大悪魔・サタンとは、交換日記を通じて交流を温めている。


・サタン(炎属性/闇属性)

魔界に君臨する、大悪魔の1人。

6種類の「欲望」と2種類の「感傷」を統括する悪魔のうち、サタンは「憤怒」を司る。

魔界で唯一、城と直轄の軍隊を持ち、魔界の最大勢力でもある憤怒の悪魔の頂点。

しかしながら、本人はいわゆる「脳筋」のため、城の維持や軍の統率は部下任せというやや情けない部分がある。

大天使・オーディエルとは相思相愛の仲ではあるが、(脳筋が故に)自身の祝詞を誦じることが出来ず、オーディエルとは契約に至れていない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミシェル様キターっ! 「……3割の数字は、安心していいレベルです?」(笑)
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