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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第4章】波乱含みの王都旅行
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4−15 母の悲願

 マーゴットはゲスト達を連れて、視察に出ている。前公爵夫妻は、優雅に中庭でお茶を楽しんでいる最中。使用人のほとんどは、彼らにつきっきり。だから、目もかけられていないクラウディオはゲストが留守なのをいいことに、易々とミアレットの部屋へと入り込んでいた。彼の探し物は……ミアレットが持ち込んでいた、魔法道具らしき「鳥籠」である。


(ない……! 確か、窓際にあった気がするけど……)


 昨晩、ミアレットがウキウキと文通に勤しんでいるのを……覗き見していたのは、クラウディオだった。クラウディオは「母の悲願」を叶えるため、「とある組織」に献上するための魔法道具を集めている。ミアレットが持っていた鳥籠が、どんな魔法道具かをクラウディオは知らないが。彼らの示す条件は、「希少な魔法道具」であれば用途は不問。とにかく珍しい魔法道具を集めれば、母・ミランダに魔力適性を授けられる道具と交換してもらえることになっている。


(きっと、あいつの鳥籠は王家から寄越されたものだろう。雰囲気からしても、希少な魔法道具……だと、思う)


 エルシャが自慢げに話していたことによると。ミアレットはローヴェルズ国王の覚えもめでたい、優秀な魔術師候補なのだそうだ。エルシャの親友だというそのミアレットは、平民のくせに当て付けのように「王子様から頂いた高級菓子」を持参してきた。そして……そんな彼女が大切そうにしていた空っぽの鳥籠は、明らかに「普通の道具」ではなさそうで。彼女の鳥籠はきっと、高級菓子と一緒に贈られたものなのだと、クラウディオは勝手に踏んでいるのだ。


(しかし……何がどうなったら、王子が平民に菓子を贈ることになるのかな?)


 自分の母親は平民だからという理由で、屋敷に入れてもらうことさえできず、菓子はおろか、食事にすら事欠く有様。それなのに、同じ平民であるのに魔法に長けるというだけで、ミアレットは貴族どころか王族からも厚遇を賜れる立場にある。この差たるや、許し難いものがあると……クラウディオはマーゴットへの不信を募らせ、八つ当たり気味にミアレットの部屋を無遠慮に物色していく。


(あれがあれば、今度こそ母上を屋敷に呼べるかもしれないのに……! どうして……父上が愛していた母上や僕がこんな思いをしなくちゃいけないんだ?)


 それもこれも、マーゴットが当主の座を譲らないせいだと、クラウディオは唇を噛む。魔力適性があるというだけで、祖父母に選ばれただけの女。実母にそんな事を吹き込まれているクラウディオの中では、マーゴットは「悪女」としてインプットされている。


(父上は母上を愛していたのに。あいつが間に割って入ったせいで、心を病んで死んじゃったんだ……)


 それは偏に、母親の一方的な言い分による誤解でしかない。父親の死因は「心を病んだ」ものではなく、「致していた最中の心不全」だ。しかも、「致していた相手」が愛人の方だった時点で……色々と「お察し」な状況であるのだが。当時3歳だったクラウディオには、内部事情(と書いて、醜聞と読む)は知らされていない。そして、クラウディオが「醜聞」を知らないままでいられるのは……マーゴットの配慮によるものだった。


(……やけに荷物が少ないような……?)


 内部事情もミアレットのことも何も知らないクラウディオが、部屋を物色すること……約10分程。いくら探してもお目当ての鳥籠は見つからないし……この部屋に新しく持ち込まれた物が、何もないことにようよう気づく。あるのは、ゲスト用にこちらが用意した部屋着くらいなもので。


(まさか、あいつ……いつも鳥籠を持ち歩いているのか? でも、出かける時に鳥籠は持っていなかったよね……)


 いや。持っていないも何も、手ぶらだった気がする……?

 そこまで思い至って……ハタと、何かに気づくクラウディオ。そう言えば……普段は大荷物でやってくるエルシャも、今年は身軽だった。いつもなら3台くらいでやってくる魔法駆動車も、1台しか来ていない。

 初日にマーゴットがメイドも総出でお出迎えしたのには、もちろん、歓迎の意味もある。だが、それ以前に……エルシャの荷物(主に衣装)が多くなりがちなので、それを運び込むための人員確保が大きな理由だ。しかしながら、今年はそのエルシャでさえ、トランク1つの荷物しか預けていなかったし、一緒にくっついていた使用人の荷物の方が多かった。そのことから察するに……。


(もしかして……セドリックが言っていた【アイテムボックス】を使っているんじゃ……? でも、セドリックも使えなかったはずの【アイテムボックス】を、どうしてエルシャやミアレットが使っているの……?)


 セドリックが悔しそうに、クラウディオに語っていたことによると。魔法学園で支給される「魔術師帳」は、ほとんどの機能を制限されている状態で、功績を認められれば機能が解放されていく……ということだったかと思う。そして、その中に「道具を自由に収納できる機能」・【アイテムボックス】があるのだと、彼は憧れの眼差しで語っていたが。


(それはそうと……そろそろ、約束の時間か……)


 あぁ、飛んだ無駄足だった。憎々しげにミアレットの部屋を見渡すついでに……ベッドサイドに置いてある時計に視線をずらせば、針はもうすぐ正午だと示している。そうして、今日も色良い報告はできなさそうだと、肩を落とし。クラウディオは何事もなかったかのように、部屋を後にした。

 ゲストルームには定期的に掃除が入ることになっている。鳥籠がなくなっていると言われても、クラウディオが持ち出した証拠がなければメイドが盗んだことになるだろう……そんな目論見もあり、昼時で使用人達が手薄になる時間帯を狙ったのだが。鳥籠自体がない以上、冤罪も発生しようがないので、ありもしない顛末を考えるのは無駄である。


(それよりも……はぁ。今日も母上をガッカリさせてしまいそう……。いいや。とりあえず、例の菓子を持って行こう……)


 少しでも、ミランダのご機嫌が上向けばいいのだけど。そう考えて、スティルルームから何気なく目についた、ミアレットのお土産を2箱ほど失敬し。部屋を出た途端にクラウディオはオドオドとしながら、裏口から外へと出かけていった。

【登場人物紹介】

・ミランダ

故・ファーガス・ファヴィリオの愛人であり、クラウディオの実母。38歳。

蠱惑的な美貌で数多の貴族男性を手玉に取り、贅沢三昧の日々を送っていた……のは、既に過去の栄光。

いずれは貴族の奥様に収まるつもりでいたが、ファーガスが「最中」に亡くなった事もあり、存在自体にケチがついてしまってからというもの、娼館では客を取れなくなっていた。

その上で、貴族の奥方になるには「魔力適性」が必要だという現実に打ちのめされ、愛人稼業からは引退を余儀なくされる。

現在は私娼として細々と生計を立てているが、浪費癖も野心も衰えておらず、魔法適性を手に入れてファヴィリオ公爵夫人の座に就こうと、目論んでいる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、クラウディオ君の願いが見えてきました。 お母さんが大好きなのね……。それは複雑な身の上だから仕方ない、ホロリ。
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