4−9 悪口のオンパレード
(なんだか、変に時間を食った気がするわぁ……)
ディアメロに強引に王宮内に引き摺り込まれ、応接間に通されはいいものの。魔法道具を渡すついでに、妙に複雑なロイヤルファミリーの家庭事情に首も突っ込んでしまった気がする。
(いけない、いけない。とにかく……ご用件を済ませなきゃ)
それでも、気を取り直して「エックス君一式」を【アイテムボックス】から呼び出せば。両脇の王子様達からだけではなく、目の前の王様からも感嘆の声が上がった。
「ミアレット……これ、本当に魔法道具なのか⁇」
「嘘、だろう? まるで生きているみたいだ……!」
凄いな、綺麗だ、可愛いな……と、様々な褒め言葉を浴びて、エックス君はとっても得意げに胸を張っている。このあからさまな「生物らしさ」がどこから調達されているのかは、分からないが。作成者があの大悪魔様ともなれば、この程度の奇跡を再現するのもお手の物……といったところなのかも知れない。
「そうですよね。私も最初、本当に生きているんじゃないかと、思いましたもん。それで、ですね。この子……エックス君には“飼い主”、つまり、利用者を認識する構築が組まれていまして」
「それって……あれか? ミアレットの箒と同じって事か?」
「えぇ、その通り。この子は認められた利用者の言うことしか、聞きません。それで、この子は特別に、私でも利用者を登録できるようにしてもらっていまして。登録情報として、エックス君に飼い主の声を認識してもらう必要があるんです」
自分の名前が聞こえたので、「ピチッ!」と元気よく返事をするエックス君。そんなお利口な様子に……本当に名前が「チキンさん」にならなくて良かったなと、ミアレットは苦笑いしてしまう。「チキンさん」と呼ばれるたびに、元気よく返事をされるともなれば。……毎回、居た堪れない気分にさせられた事だろう。
「こうして尻尾を下げて、っと。はい、まずはナルシェラ様。この子に自己紹介をお願いします。エックス君に自分のお名前を伝えてあげてください」
「うん、分かった。……名乗ればいいんだね?」
「えぇ。できるだけゆっくり、しっかりと発音してくださいね」
瞳を青くカチカチと輝かせて、エックス君が今か今かと、新しいご主人様のお名前を待っている。そんな小鳥ちゃんにゆっくりと、どこか噛み砕くように自分の名前を伝えるナルシェラ。そうされて、無事に認識ができたのだろう。エックス君はミアレットが尻尾から手を離すと、これまた嬉しそうに「ピチチ!」と元気よく返事をした。
「うん、大丈夫そうですね。それじゃぁ……次はディアメロ様、同じようにお願いできます?」
「あぁ、任せろ」
ミアレットに促され、兄に遅れをとるまいとディアメロもエックス君相手に名乗るが。……兄に対抗意識を燃やしているのか、妙に気取った調子で発音するものだから、ディアメロは結構な部分で負けず嫌いなのかもしれない。
「……はい、ディアメロ様の方も大丈夫そうですね。それじゃぁ、鳥籠の片方をどうぞ。エックス君はこの鳥籠を拠点にして移動しますので、鳥籠がないと、お手紙のやりとりができなくなってしまいます。ですので……鳥籠も大事にしてくださいね」
「もちろんだ。という事で……鳥籠は僕が預かっておくよ。兄上もそれでいいですね?」
「……うん、そうだな。鳥籠はディアの部屋にあった方がいいだろう。エックス君もそうだが、この鳥籠もあまりに美しい。ステフィアの目に入ったら、絶対に欲しいと駄々をこねる……いや。駄々をこねる前に、勝手に持っていってしまうか」
「そうでしょうね。全く……あの女は、本当に何を勘違いしているんでしょうね? 兄上の持ち物をイコール、自分の物だと思っているんですから」
やれやれとディアメロが、呆れたとばかりに言い捨てるが。彼らの話を聞く限り、ステフィアは手癖も悪いらしい。いくら相手が婚約者とは言え、持ち物を勝手に持って行ってしまうのは、泥棒となんら変わりない。
「……ナルシェラ様、苦労してるんですね……」
「うん、それなりに苦労しているよ。何せ、ステフィアは我儘で自分勝手で、相手の気持ちを何1つ理解しようとしない性悪だ。……可能な限り、ローヴェルズから速やかに出ていって欲しいし、できる事なら顔も見たくない」
「……意外とハッキリ言いますね、ナルシェラ様。ここまでの悪口のオンパレード、なかなかないですよ?」
「ハハ……確かに、少し言いすぎたかな? まぁ、ステフィアを大臣ごと追い出してしまいたいのは、本音だけどね。だけど……それをしてしまったら、アーチェッタとの間に軋轢が生じかねない。だから僕は当面、表向きは彼女の婚約者でいるつもりだよ」
「……」
アーチェッタについては、ティデルも「訳ありの宗教地区」だと言及していたが。ナルシェラの発言からしても、ローヴェルズの大臣はアーチェッタという地域に対して、それなりの繋がりを持っている立場にもあるらしい。大臣親娘の扱いを間違えると、アーチェッタと険悪になりそうな時点で、彼らはおそらく「向こう側」の息がかかった人物なのだろう。
(大臣はアーチェッタとも関わりが深い、と。う〜ん……早速、報告しなきゃいけなくなったかもぉ……)
王子様達が魔法を使えない理由が、もし人為的に作られたものであるとするならば。彼らから魔法能力を奪うことで、得できる人物の差金だと考えるのは自然な事だろう。そして……そこに付随する旨味を最も堪能できるのは、ハザール王を「傀儡の王」とし、ローヴェルズの実権を握っている大臣一派を置いて他にない。
(なんか、キナ臭くなってきたなぁ。このまま、何もなければいいんだけど。そうはならない気がする……)
こうも毎回、変な事に巻き込まれていれば、イヤでも自分が厄介事に好かれる体質なのを、自覚させられると言うもので。こうして、とりあえずは無事に魔法道具のお届けは完了したものの。ミアレットは王子様達との交流にも、波乱の予感を募らせずにはいられないのだった。