3.5−2 俺中心で回っていない
ようやく、俺のメインヒロインを見つけたと言うのに。彼女は既に結婚しているとかいう、訳ワカメなシチュエーション。いや、誰かの奥さんを寝取るのも悪くはないが……できれば、メインヒロインは誰かの手垢が付いていない、ウブな子がいいんだよなぁ……。
(しかし……待てよ? こいつ……マモンって言ったか? マモンと言ったら、結構有名ドコロの悪魔じゃなかったか?)
俺のスーパーなファンタジー知識が囁いてくる……! マモンは確か、悪虐非道な強欲の権化だった気がする。そんでもって、目の前の男をマジマジと見れば。まさに、悪魔っぽい角が生えているじゃないか。そ、そうか……! つまり、こいつは……!
(無理やりリッテルさんをモノにしたのか……! 許せん!)
こうなったら、何が何でも俺が成敗してやって、リッテルさんの目を覚まさせてやらねば。そんでもって、俺が責任を持って可愛がってあげるからね……!
「デュフフ……! ここで会ったが、100年目! お前を退治して、お姫様を救い出すのが俺の使命ってことか!」
「えぇと……俺、最近は退治されるような悪さは、してないぞ?」
「嘘こけ! どうせ、リッテルさんを無理やり侍らせているんだろ! 俺にはお見通しだからな!」
「……」
よし、ビシッと言ってやったぞ。見れば、マモンもリッテルさんも、驚きのあまり動けない様子。ふふ……俺の勇敢さが伝わったようで、何よりだ。
「あ、あなた……。私、この子がちょっと怖いわ……。何がどうなったら、ここまで勘違いできるのかしら……」
「へっ?」
「うん……こいつは、凄いな。ハーヴェンからも、ちっとは聞いてたけど。どうも、イグノくんは妄想癖が酷いらしくてな……」
「なっ⁉︎」
おい、コラァァァッ! 2人して、何をドン引きしてるんだよ⁉︎ そんな憐れみの目で、俺を見るなぁッ⁉︎ しかもハーヴェンの奴も、何を余計なことを言い降らしてくれてるんだ⁉︎
「とにかく、あなた。行きましょ?」
「う、うん……そろそろ、行こうか。しかし……なぁ」
「……まだ、何かあるの?」
「ハーヴェンによると、イグノ君はガルシェッド家から縁切りされたらしくてな。夏休み中、帰省できる場所がないみたいなんだ。結構な期間を1人になっちまうのは、可哀想かなぁって……」
えっ? ちょ、ちょっと待て。俺……縁切りされてたの? 一時的に追放されたんじゃなくて?
(ば、馬鹿な⁉︎ そろそろ、帰って来てコールが来ると思ってたのに⁉︎)
おかしい……。何もかもが、おかしい……。俺は転生者なんだぞ……? それなのに、チートもハーレムもない上に、ざまぁでスッキリ展開もないなんて。そう言えば……最初から最後まで、俺の思う通りに行った試しがないような……?
(ま、まさか……この世界は冗談抜きで、俺中心で回っていないのか……?)
そんなのあり得ないし、許せないだろ……! 折角、転生してやったんだから、誠意を見せろよ、誠意を!
「と、言うことで……イグノ君」
「あ⁉︎ なんだよ、悪魔!」
「……! 俺、久しぶりに悪魔って言われた……! 俺、久しぶりにちゃんと悪魔扱いされたかも……!」
「……あなた。今はそんな事に感動している場合じゃないでしょ? もぅ。いつも通り、シャキッとして」
……なんだ? こいつ。悪魔って呼ばれて喜ぶとか、どうなんだ? もしかして、ナンチャッテ悪魔なのか……?
そんな奴を、リッテルさんが隣からじっとりと見つめているけど。やっぱり、美女のジト目はいい。この間の美少女ちゃんの鋭い視線も、シビれるものがあったけど。俺もこんな瞳で、ソフトに虐められたい……!
「えぇと、コホン。この学園には、ちょっとした訓練用のシステムがあってさ。そこでは、遊び感覚で魔法の練習ができるんだ。丁度いい暇つぶしにもなるだろうし、もし良ければ案内するけど……どうだ?」
「そこまで言うんなら……そのシステムとやら、体験してやろうじゃないか」
「……うん、まぁ。素直についてくるんなら、その妙な上から目線は気にしないでおくか……」
いちいち、気に入らない反応をしてくるマモンだが。俺としても、暇で暇で仕方なかったし……少しは付き合ってやってもいいか。そうして、マモンとリッテルさんに付いていくが……。
(クソゥ……! これ見よがしにイチャイチャしやがって……! ま、まぁ? リッテルさんのヒップは絶景だが……)
リッテルさんは嬉しそうに、奴の腕に絡まったままベッタリしている。しかも、マモンも満更じゃないと見えて、時折彼女の可愛いおねだり声にウンウンと頷いているが……雰囲気からするに、リッテルさんはちょっとワガママっぽいか? しかし、美女はちょっとワガママなくらいが丁度いいんだよな。美女のワガママに振り回されるのも、男の嗜みってヤツだろう。……多分。
「ほい、お疲れさんでした。ここが仮想空間システムの訓練場だ」
案内されてやって来たのは湖にデンと浮かぶ、何かの結晶で覆われた塔のような場所だった。……そう言えば、学生寮からも何となく見えていたが。そうか、これ……訓練場だったのか。
「中にどうぞ。そんで……使い方をサクッと説明するから、ちゃんと聞いててな〜」
湖に架かった橋を渡りきり、塔の中に入ってみれば。円形の広い空間には、ゲーミングチェアっぽい卵型のシートがズラリと並んでいた。そうしてマモンが頼みもしないのに、仮想空間システムなるものの使い方を説明し始めるが。奴の話によると、あの卵型のシートに座れば、魔物やら魔術師やらの登録データを相手に、仮想空間でドンパチできるらしい。
「……これはあれか? 所謂、ヴァーチャル・リアリティってヤツか……?」
「ヴァーチャル・リアリティ……か。へぇ、上手いコト言うなぁ。ウンウン、イグノ君は優秀な魔術師候補なのは、間違いなさそうだな。飲み込みが早くて、助かるなー」
「フン、当然だ」
俺が胸を張ってやれば、リッテルさんがこれまたじっとりと奴を見つめ出したが。よく分からんが、マモンは俺の実力をちゃんと認めるつもりはあるらしい。ハーヴェンよりは、見どころがありそうだ。
「面白そうだな、これは。確かに、暇つぶしにも丁度いいかも」
「気に入ってくれたか? そんじゃ、こいつを使えるようにするから……魔術師帳、出してくれる?」
仕方なしに、俺が魔術師帳を取り出すと。マモンが何かのデータを送り出した。そうして、画面を見れば……【仮想空間システム戦績】なるタブが増えている。
「ホイホイ、これで準備もバッチリだなー。こいつを使うには、戦績アプリ解放済みの魔術師帳が必要でな。シート横に受け口があるから、そこに魔術師帳をセットすれば、あとはいつでも使い放題で利用できるぞ」
「そうか! ちなみに……これ、もしかしてランキングとかあったりするのか?」
「もちろん、あるぞ。ただ……一般生徒のデータは非公開になるから、ランキングに参加できるのは上位クラスになってからだな」
「上位クラス……とな?」
「うん。本格的な話は、新学期が始まってからになるけど。本校にやってきた新入生には、最初にクラス鑑定をしてもらうことになるんだ。最初は初級クラスからになるが……経験を積んで、上位クラスに昇格することもできるから、是非に上を目指して頑張ってくれよな」
よし、やってやるぜ! 作業ゲーも嫌いじゃないし、ここで経験を積みまくって、スタートダッシュだぜ! これは要するに、あれだよな? 新学期から上位クラスの俺が降臨すれば、モテモテルート&チートルート再開って展開なんだろう。こうなったら……ランキングトップを目指してやろうじゃないか。待ってろ、俺のハーレム要員達!