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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−25 人員不足と余興に走る阿呆

 天使はそれなりに意地悪な生き物らしい。女性しかいないという事情もあるのかも知れないが、神界の人間関係(天使関係?)は思いの外、ドロドロとしている。


「しかし、皆様の意地悪加減が悪化したことに関しては、あまり判断材料にならないと思いますよ。……それ、あなたの思い過ごしではないですか?」

「だと、いいのだがな。……そう判断せざるを得ない、見過ごせない現象が発生しておるのだよ」

「ほぅ?」


 天使が更に意地悪になった……なんて、個人的な感覚はアテにならないと、アケーディアは当然の指摘を投げかけるが。しかして、要所要所では冷徹なルシフェルも、そんな曖昧な要素を判断基準とはしていない。


「意地悪になったと言うのは、偏に言葉の綾だ。……実は悪意を増長させた結果、堕天しかかった者が出ておるのだ。そして、それらの傾向が出たものは全員……グラディウスの枝の鑑定に関わった、勤務態度は真面目な天使達だった」

「なるほど。そうなると確かに、見過ごせない傾向でしょうか。堕天するともなれば、ちょっと意地悪になる程度では済まないでしょうから。……真面目かどうかは、さておき」

「そうだな。……いくら不真面目な者が多いとは言え、堕天しかかるともなれば、話は別だ。……堕天はマナツリーへの謀反を意味し、天使の本分を放棄することに繋がる。そして、人員の削減へと直結するのだが……タダでさえ、まともな人員が少ないのに、これ以上減らされては敵わん」

「……ある意味で由々しき事態ですね。……しかし、それ、根本的にどうにかならないんですか?」

「どうにかできたら、とっくにそうしてるわ! そもそも私の仕事が減らんのは、人員不足と余興に走る阿呆が多いせいだ!」

「堂々と、そんな事を言われましてもねぇ……」


 言い切ってやったぞとばかりに、ルシフェルはドヤっと胸を張るが。そんな彼女を遠い目で見つめながら、アケーディアはやれやれと額に手をやった。

 この世界の天使は、救いようもないくらいに軟派である。もちろん真面目な天使もいるにはいるが、そちらの方が少数派だというのだから、こうなると情けないを通り越して、世も末だ。


「……この際、我らの恥まみれの体たらくはどうでもいい。問題は天使を誑かすこの枝が、どのようにして生み出されたのか、だ。話によると、これが具現化した心迷宮の持ち主は、無理やり深魔にされたと聞く」

「そちらに関しても報告が行っているかと思いますが。……対象者・エルシャが深魔になった背景には、彼女の兄であり、魔法学園の生徒だったセドリックが関係しています。しかし……」

「彼は忽然と姿を消した。脱出不可能と言われる、この魔法学園の独房から……か」


 その通りです……と、アケーディアはまたも困ったように、肩を竦める。そうして、天使長が「真面目な話」に戻ってきたのにも安心しながら、「セドリックの現状」について補足を加える。


「対象者・アンジェレットの心迷宮にて、セドリックと遭遇したとアレイルから報告が上がっています。……どうやら、彼は厄介な相手に魅入られたようですね」

「そのようだな。そして、セドリックがエルシャを深魔に陥れた手法も、奴ら由来の技術だとするべきか」

「えぇ。アレイルに同行したランドルからは、アンジェレットが“黒いリンゴ”を食したことで深魔になったと証言が出ていますし、そのランドルの父親がグラディウスの尖兵であろうことも、判明してきています。そして、アンジェレットの姉・シャルレットは精霊の先祖返りであるとも」

「精霊の先祖返り……か。そうなると、奴らは霊樹の女神を擁立する気なのか。……かつてのシルヴィアのように」

「おそらく。驚くべきことに、シャルレットはアンジェレットと同じリンゴを食べても、深魔になるどころか、心迷宮の主人として君臨できる素地を有しているようです。その事からしても……セドリックを探すこともそうですが、シャルレットの一味を探し出すことも、急務だと考えますね」


 そうして、特殊祓魔師達には既に情報を共有しており、捜査網もあらかた整えていると……アケーディアは続けるが。しかしながら、進捗はあまり芳しくない。と、言うのも……。


「今のところ、目ぼしい情報はありません。何せ、こちらも人手が足りないのですよ。特殊祓魔師の絶対数が少ないのもそうですが、教師の数も足りていない。その上、各地で大なり小なり、深魔の発生も継続的に観測されています。幸いと、魔法学園自体は長期休暇に入りましたが……それも、3週間程度ですからね。始業直後はハーヴェンやマモンも教壇に立つ以上、一時的とは言え……更に深刻な人員不足が予測されます」


 特殊祓魔師に認定されている教師は、現在14人。しかしながら、心迷宮の攻略は非常に難易度が高いため、特殊祓魔師の生存率自体もそんなに高くはないのが現状だ。無論、特殊祓魔師の育成も一朝一夕でできるものではなく……人間が特殊祓魔師になるには、最低でも5年はかかるとされている。しかも特殊祓魔師になったらなったで、戦利品目当ての任務に手を出しては、殉職する者も少なくないのだから、窮状はちっとも改善されていない。


「しかしながら、今期はなかなかに期待が持てそうな人材が揃っていましてね。分校の試験が全て終了しましたが……結果として、本校への登学者は過去最多となりましたよ」

「ほぅ! それは喜ばしい事だな。して……見込みがありそうな者はいるのか?」

「えぇ、バッチリと。もしかしたら、特殊祓魔師認定の最短記録が出るかも知れませんね」


 憂鬱を領分とするアケーディアから出たとは思えない、前向きな内容に……ルシフェルも思わず、身を乗り出す。


「実はカーヴェラ分校の試験には、ヴェルを派遣してましてね。……既に心迷宮体験者がいる事もあり、少し難易度を上げてあったのです」


 アケーディアの言う「ヴェル」とは、彼の愛妻・ヴェルザンディの事である。アケーディアが最も信頼を寄せる相手であり、多忙を極める副学園長の代理として、学園の業務に携わる事も少なくない。


「そうだったのか? しかし、それでは……他の生徒には不利ではないか?」

「いえ、そうはならないように考慮はしていますよ? 各員には、選考基準を少し緩めるように指示してありますし。しかし……そんな配慮は必要なかったと、実感させられましたね。僕が想定していた以上の成績を収めたペアが3組もありましたので、彼らには是が非でも本校へ来てもらう事にしました」


 因みに……と、嬉しそうに続けるアケーディアによると、そのうちの1人は例の「女神の愛し子」であるらしい。


「シルヴィアが特別に目をかけている少女だったな。確か……ミアレットと申したか?」

「そうですよ。ふふ……ヴェルも興奮していましたが、彼女、心迷宮がどんな場所かを既にしっかりと理解しているようでしてね。……バルーンを無意味に壊すのではなく、全て生かす事を優先していました。その事からしても……彼女は深魔は討伐するべき相手ではなく、救助するべき相手だと認識しているのでしょう」

「そうか、そうか! その結果であれば、シルヴィアも喜ぶに相違ない。最近、愛し子問題で妙に落ち込んでいたからな……」


 天使達の素行だけでも、頭が痛いのに。自分が遣わした愛し子が「問題児」に成り下がったとあらば、女神の心労も嵩む一方だ。


「それはもう片方の愛し子が原因でしょうかね? 大丈夫ですよ。そちらに関しては、やや独断を含みますが……ハーヴェンが面倒を見てくれるそうですから」

「……であれば、一旦は大丈夫か。あいつであれば、それとなく上手くやってくれるだろうし。しかし、ハーヴェンも忙しいだろうに……」

「ですので、本校で最低限の授業を受けさせた後は、調伏に同行させると申していました。……どうやら、経験を積ませると同時に、本番環境で根性も叩き直すつもりのようですね」

「それ、大丈夫か? いくら、ハーヴェンとて……お荷物を抱えての任務は危険では?」

「大丈夫じゃないですか? それで候補生が死んでしまうのなら、それまでです。最悪の場合、問題児は捨てても構わないと、申してありますし。しかし、あの性格ですから……何が何でも、守り切りそうな気もしますけど」


 そこまで言い切り、お手上げのポーズを取るアケーディア。そうして、「グラディウスの枝」を預かりたいと、申し出る。


「それは構わないが……これをどうするつもりだ?」

「ここは1つ、こちら側の陰気な霊樹に相談してみようかと。もしかしたら、いい知恵を借りれるかも知れません」

「一理あるな。……ヨルムツリーも瘴気を吐き出している時点で、同類であろうし。では……これはそなたに預けておく。くれぐれも、頼むぞ」

「任せておきなさい。……僕だって、伊達に真祖をやっている訳じゃありませんから」


 天使達に悪影響を及ぼす以上、グラディウスの枝を神界で保管する訳にはいかない。そうして、元凶を預けると同時に、アケーディアが懸念事項も肩代わりしてくれるつもりなのだと、気づくと……ルシフェルは有り難いと思うと同時に、情けなくなってしまう。


(……この配慮が、ウチの奴らにもあればいいのだがな……)


 人員不足も素行不良も。無い物ねだりなのは、十分承知。しかしながら……この惨状はあんまりではなかろうかと、天使長の心労も積み上がる一方だ。

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