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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−23 生きづらい世の中

「それにしても、驚いたわ。まさか、ティデルがあんなに肩入れするなんて……」


 ナルシェラとディアメロを見送る小柄な堕天使の背中に、ネッドがそっと声を掛ける。そんなネッドの呟きに、ティデルはかすかに眉を吊り上げたが……やがてフルフルと首を振っては、フッと皮肉めいた息を吐いた。


「……なーんだか、他人事に思えなかったのよね、あの子達の境遇。魔法が使えないってだけで、自由を奪われて、自分らしく生きることさえできなくて。昔の自分みたい……って思っちゃったんだから、笑えるでしょ?」

「何も、そういうつもりはないのよ? ごめんなさい、嫌なことを思い出させて……」

「別にいいわよ。……私が無能だったのは、紛れもない事実だし。今更、どうって事ないわ」


 ティデルは堕天使である。そして、元々は天使でもあったが……転生する前の彼女の「人生」もまた、非常に悲惨なものだった。


 かつてのクージェ帝国には、魔法能力を持たない子供は生きている価値さえないとされた、歪んだ魔力至上主義が罷り通っていた時代が存在している。その行き過ぎた実力重視の理念は、まともに魔力適性を持たない平民はもちろんの事、貴族達の生活にも影を落としていた。

 そして……ティデルはそんなクージェの貴族・グレゴール家の双子の姉として生を受けたが、不幸にも魔力適性を持っていなかったのだ。

 当時のクージェ貴族にとって、魔法能力を持たない子供の存在は「血統の没落」と見做され、お家存続の危機に直結する。しかしながら、貴族は出生と同時に届け出を出すルールになっていたため、生まれてしまったものをなかった事にはできない。それが故に……ティデルは、双子の妹から通称・魔力の器と呼ばれる魔力因子を半分もらうことで、辛うじて魔法能力を獲得していた。だが……。


「……知っての通り、私は勘違いしていたのよね。魔法能力を持っていなかったのは私の方だったのに、妹がいたせいで自分は中途半端なんだって、勝手に恨んでは……馬鹿みたいに、惨めな境遇を作り出して。自分でも呆れちゃうくらいに、情けないわ」


 生前のティデルには、そんなハプニング付きの裏事情を知る機会さえ、与えられなかった。彼女が与えられたのは、無理やり男児として生きることを強制され、両親からは徹底的に冷遇されるという、惨めな立場だけ。どうして自分ばかりが辛い目に遭うのか。その理由さえ知らされることもなく、ティデルは最終的には妹の身代わりで火炙りにされてしまう。彼女の妹は聖痕持ちであり、クージェでは聖痕持ちの少女は見つけ次第、即刻生贄として捧げることが決められていたのだ。そして……彼女から魔力因子を分けてもらっていたティデルもまた、聖痕持ちであった。

 結局は条件を満たしていたティデルは天使へと、昇華したものの。彼女の中にある妹や両親への恨みが、転生で精算される事はなく。生前の記憶は、天使になってからのティデルの性格にも、真っ黒な影を落とし続けていた。


「魔力がなかったのは、ティデルのせいではないわ。でも……そうよね。かつての人間界には確かに、それだけで何もかもが生きづらい時代があったわね」

「ホントにね。どうしようもなく無駄な時代だったなぁ、って今更ながらに思うわサ。戦争真っ只中だったクージェは、何もかもが地獄に思えたし。ま……あそこまで実力至上主義を掲げ出したのは、そもそもがカンバラを征服するためだったみたいだけど。いずれにしても、今以上に生きづらい世の中だったのは、間違いないかしら」


 ヒラヒラと手を振って、小さく「馬鹿みたい」と呟きつつ。これで話も終わりだとばかりに、ティデルが中へ戻ろうとネッドを促す。そうされて、「それもそうね」とネッドも応じると……揃って、来た道を戻り始めるが。2人とも、確かな違和感と嫌悪感を感じては、どちらからともなくため息をつく。

 昔よりは、遥かに生きやすくなったご時世だというのに。目を凝らせば人間の世界には相変わらず、理不尽な格差がこびりついている。しかしながら、王子様達の境遇は成り行きの格差ではない気がして。彼らが苛まれている「魔力を持てないという格差」に仕組まれたものを感じながら……ティデルとネッドは、尚も嫌な予感も募らせていた。

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