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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−22 有り難みが微妙

 お姉様方はこの際、放っておこう。どうせ、勝手に騒いで、勝手に鎮静化するし。

 ミアレットは呆れた天使様達の習性に理解を示しつつ、この状況をどう打破しようか悩んでいた。今は天使様達の好奇心(という名の暴走)を心配するよりも先に、王子様達の熱意をどう受け止めればいいかを吟味しなければ。


(王子様達が必死な理由、よく分かった気がする。そっか……魔法が使えないだけで、ここまで自由を奪われるものなのね……)


 ディアメロの訴えからするに、彼らもミアレットが本校に登学したらば、そうそう会えなくなると理解しているのだろう。ミアレットも婚約者とまでは行かずとも、彼らと交流するのは構わないが……。


「もちろん、僕達もすぐに一緒に来いと強要するつもりはありません。しかし、話に聞いた所によると、ミアレットは本校への登学も手堅いとか。……オフィーリア魔法学園は、魔法能力がない僕達が簡単に出入りできる場所じゃない。だから……ミアレットが本校へ行ってしまう前に、交流の手段だけでも整えたいのです」


 今度は先ほどまで大人しかった、ナルシェラが淡々と事と次第を説明し始める。しかし、ただただ交流したいと言っても……彼らには不自由という障害が、常に付き纏う。手紙1通さえ、気軽に出すこともできない。


「僕達は愚王の失態のせいで、魔法能力を失ったまま苦しめられてきました。それでも、僕達が王族でいられるのは、女神と同じ血筋を引いているからに過ぎません。とりあえずの象徴として、僕達は生かされているだけなんです。自分らしく生きることもできなければ……一緒にいる相手さえ、選ぶこともできないのです」

「そうだったの。……今のグランティアズ、そんな事になってるんだ。これはちょっと、考えものだわね」

「えぇ。魔法を使えない事が、そのまま差別に繋がるのは最も忌避すべきことよ。……本部にも報告を入れた方が良さそうね」


 ナルシェラの話を聞いて、今度はティデルだけではなく、ネッドも渋い顔をし始める。しかし、この場で深く話し合うべきではないと判断したのだろう。王子様達の悲しい境遇はさて置いて、ティデルは仕切り直しとばかりに……視線と一緒に、話も戻した。


「いずれにしても、君達の意思を否定する理由はなさそうね。ま……最初から、私達にはミアの行く先を決める権利もないんだけど。とにかく、2人ともミアがいいんでしょ?」

「は、はい!」

「よろしくお願いします!」

「そう。とは言え……本人の気持ちをおざなりにするのは、良くないわ。……ミアはどうなの? グランティアズで暮らすつもり、あるのかしら?」


 熱意剥き出しの兄弟の一方で、ミアレットはすぐに答えを出せない。それはそうだろう。そもそも、ミアレットも彼らが自分を婚約者に望んでいるだなんて、今日の今日で知ったのである。恋愛感情のレの字も浮かばなかった時点で、即決せよ……は無理な相談だ。


「……すみません、よく分からないです……。あまりに、突然過ぎて……」


 ミアレットの正直な答えに両隣の王子様だけではなく、なぜか周囲からも残念そうなため息が漏れる。お姉様方達としては、ミアレットがどちらかとくっついた方が面白いのだろうが。……無論のこと、面白半分でアッサリと決断していい内容ではない。


「ま、それが標準的な反応だわね。第一、ミアはまだ12歳だし。お貴族様なら、ともかく……普通の女の子が婚約を考える歳じゃぁ、ないわサ」


 周囲の熱視線をよそに、冷静なティデル。ズズっとお茶を啜りながら、フゥと息を漏らすと……まずまず、常識的な提案を示してくる。


「まずは、お友達から始めるのがいいんじゃない? もちろん、交流の手段は私達も考えるから」

「本当ですか⁉︎」

「うん、それなりに。それに……丁度、ミアの旅行先がグランティアズだし。それまでに、どうにかできるようにしておくわ。幸いと、知り合いに物知りな奴らが揃ってるし……方法の1つや2つ、見つかるでしょ」


 ティデルの言う「物知りな奴ら」はきっと、悪魔のお兄様達の方だろうな……と、ミアレットはぼんやりと考える。

 天使のお姉様達も頼りになるのは、間違いないのだが。彼女達に相談した場合、どうも変な方向に暴走しがちな不安が付き纏う。そんな彼女達に比較すれば、悪魔のお兄様達の方が良識も常識も標準搭載されているので、彼らを相手に選んだ方が圧倒的に無難だ。


(アハハ……ホント、この世界の天使様は有り難みが微妙だわぁ……)


 見た目は美人揃いで、神々しいこと、この上ないが。実際に話してみると、中身は「恋に恋する乙女達」なものだから、一緒にいるだけで非常に疲れる。少なくとも、ミアレットは「真面目な天使」は指折り数える程度しか知らない。


「と、言うことで……すぐに答えは出なかったけど。孤児院側としては、君達の恋路を阻むつもりもないから。後は……ま、ミア次第だわねー。2人とも、ミアの心をゲットできるように、精々頑張りなさいな」

「は、はい……!」


 ミアレットが若干、上の空で天使様達の生態について考えていると。こちらはこちらで、有り難みが微妙な話がトントンと進んでいる。ティデルに焚き付けられるような事を言われ、両サイドから懇願するような視線をいただけば……ますますどうしたらいいのか、分からない。


(うぁ……これまた、面倒なことになったかもぉ……!)


 下手に思わせぶりな態度は取らない方がいいだろうと、ミアレットは警戒を募らせる。正直なところ、本当に恋愛イベントはいらないけれど。塩対応で変な恨みを買ってもつまらないし、それはそれで面倒なことになりそうだ。


「それはそうと……今日は突然お邪魔して、申し訳ありませんでした」

「いいって事。だけど、少しでもミアが嫌がるような事をしたら、タダじゃ置かないからね。それだけは、きちんと覚えておきなさいよ」


 最後に抜かりなく、釘を刺すティデル。それでも、対するプリンス兄弟は「もちろんです!」と口を揃えるのだから、情熱もやる気も満ち満ちている模様。そんな彼らに……ミアレットはやっぱり「アハハ」と乾いた笑いしか漏らせない。しかし……。


(ちょっと待って。えぇと……この世界って、成人年齢22歳よね? 結婚はもうちょっと若くてもいいみたいだけど……この人達、10年も待てるの? そもそも……王子様達、おいくつなのかしら⁇)


 見たところ、彼らは日本の基準で言えば高校生くらいだろうかと、ミアレットは首を捻る。そうして、首を捻るついでに……ある事に気づいた。


(私が成人するまで、あと10年……。その間に、王子様達も10年歳を取れば……あっ、これはもしかする?)


 考えてみればナルシェラもディアメロも、それはそれは整った容貌をしている。由緒正しすぎて、王子様成分が前面に押し出されているが、こうしてラフな格好もできるのだから「ナチュラルなイケメン」への転身も難しくなさそうだ。それに……。


(歳の差があるってことは、イケおじへの進化もあり得るってことよね? 年上なのは、変わりないんだし……)


 あっ、推し事スイッチが入ったかも。渋いイケおじがいないのなら、育てればいいじゃない。

 そうして、ティデルとネッドに見送られて帰っていく、ナルシェラとディアメロの背中に……夢の可能性を見出したミアレットはついでに恋愛も楽しんでみるかと、ちょっと前向きに検討し始めるのだった。

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