8/21
8 黒い霧 2
よろしくお願いします。
布団を上げた途端に、私は勢いよく飛び退いた。
布団の中には、真っ黒な霧のようなものしかなく、その真っ黒な霧の中から、か細く白い小さな雲のようなものが浮き上がり、暫く部屋を彷徨っていたが、やがて閉ざされた窓の隙間を抜けて鉄格子の枠を越えて空へと登って行った。
ベッドの上の真っ黒な霧が晴れると、彼の姿が見えてきた。
口は大きく膨らんで、ベッドの上の口元には、入りきらずにこぼれ落ちたのであろうテッシュペーパーがあった。
窒息死だ。
もしかしたら、この忠実な子犬は、彼自身が彼自身のことを一番嫌っていたのかもしれない。いや、気付いていなかっただけなのかもしれない。
規則。
彼にとっての規則、然しそれは、もう考える必要も無くなった。施設で一番の忠実な子犬は、やっと自由を手に入れたのだから。
ありがとうございました。