「普通の垣根を越えて」その4
「ユカリちゃんの熱意は伝わったわ、でもその女は信用したくないわ、どう見ても人殺しの臭いがするわ」
実際人殺しなんだけどユイさんの生気の深く淀んだ無い瞳は誰から見ても怪しい雰囲気を漂わせる。
「アンタ見る目無いのね?一番上だからって自分の事を棚に上げて見下すのは悪い女よ?」
「おっぱいがデカイだけの色ボケ女とは格が違うのよ」
「アンタも巨乳でしょ、胸の栄養だけは一流ね」
「あ?」
二人は口論しているとまた喧嘩腰になって顔の額をぶつけて言い争いを始めてしまった、こう言っちゃ悪いけど二人共顔が怖い。今まさに殺し合う一歩手前なんじゃないのかな?
「ユカリちゃん、貴女は私の味方よね?この女黙らせていい?」
するとユイさんは鋭く冷え切った声で言葉を告げる。
「駄目よユカリちゃん、この性悪クソ女は私が連行して処刑するわ」
だがそれと同時に究極の二択が与えられてしまった。
「ユカリちゃんは私に恩がある、アンタなんかの手を取る訳ないでしょ」
「殺し屋女が殺せないから今度は洗脳でも始めたの?冗談は顔だけしなさいよ」
「内蔵引き摺り出して顔面バラバラにするわよこのブス女」
「もう一回言ってみなさいデブ女っ!!」
数十分間、冷静さを完全に無視した醜い争いと互い啀み合って傷付け合う様を見続けた私は落ち着いて欲しくて頭の中かぐちゃぐちゃで私はもう我慢できなくなってしまった。
「もう止めてよ!!」
二人の怒号よりも大きく叫んだ私に一気に二人は面を食らったように静かになった。
「ユイさんもサナエちゃんも私なんかで喧嘩しないでよ!」
私は初めて必死に怒った、目が熱くなって胸が苦しくて二人を傷つけたくない気持ちで一杯だった。一気に吐くともう止められない、私は死力を尽くして二人に抗議する。
「お願いだから冷静になって話そうよ、ユイさんもサナエちゃんも話せば分かりあえる人でしょ?もううんざりだよ・・・」
精神がずっとボロボロで少しだけでいいから私を助けて欲しい。私ごときがこんな優しいお姉さん達が不幸になるのは嫌だ、私は肉体的に精神的にまいってしまいついに倒れてしまった。
そんな私を見た二人は一気に熱が冷ましてくれた。睨み合ってた二人だが何だか大人気ないと悟ったのか申し訳なさそうに見つめた。
「ご、ごめんなさい・・・私ちょっとイラついてたわ、本当に違うかもしれないのに疑って誘導しようとして・・・」
「・・・・別に気にしてないわ、私も口調を悪くしたわ」
「そうね、もう少し知性的になりましょう・・・可愛い子を泣かせるのは・・・母親として所長としてみっともないわね」
「ええ」
私の必死さに想いが伝わったのか無事丸く収まりそうな方向になりそうだ、私は心底ほっとした。あのまま戦いに走って殺し合いなんかされたら精神が崩壊するかもしれない。
私は小さい時から喧嘩が苦手だ、だからこそ皆の中立で冷静に判断が出来るまで言葉を強調させるしか出来ないんだ。弱い私でごめんなさい。




