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44.拓也の誓い

 拓也を苦しめる「もやもや感」は、結局何か原因か分からない。



「ねえ、どうするの? この『どらごん』って人?」


 お昼。

 久し振りに美穂とふたりで、屋上で昼食を食べている拓也に美穂が言った。



「うーん、どうしよう。強いのは間違いないけど……」


 美穂と拓也は新たに入団申請が来ていた『どらごん』というプレイヤーについて許可するか悩んでいた。



「復帰勢とあるけど確かに古いキャラも持っていて、でも主力の多くが最新キャラだよね。ちょっと前のキャラが全然ないってことは、本当に最近また始めてそれで一気にガチャ回していると思うんだ」


 拓也の言葉に美穂が頷く。


「SNSは全くやっていない人っぽいよね。どうするの?」


 拓也は少し考えてから言った。



「とりあえず許可しようか。人も足りないし、あまり選んでいる余裕もないしね」


「了解!」


 拓也は新規入団申請を行って来た『どらごん』というプレイヤーの入団許可ボタンを押した。


 同時刻、スマホを見ていた龍二は「入団承認」のメッセージを見てにやりと笑った。そして『ワンセカ』と招待された『デスコ』内に簡単に挨拶を書き込むと、すぐに自分の仕事に取り掛かる。



『みんな、この度我が『竜神団』が復活します!! 前は自分の未熟さゆえたくさんの人に迷惑を掛けたけど、今日再びジリュウが立つ時が来ました。どんどん声掛けさせて貰います。どうか宜しく!!』


 突然の元強豪ギルド『竜神団』の復活宣言。

 最初はSNSでも冷ややかな声があったりしたが、団長ジリュウの真摯に謝罪を重ねる態度にやがて『竜神団』に人が集まって行くこととなる。






(もやもや感は、なくならないな……)


 体育祭の練習中、拓也は校庭を走りながらひとり思っていた。



(最近暑くなってきたからか、『ピカピカ団』二連覇の重圧か、涼風さんのことか、玲子のことか、それともマキマキさんのことか……)


 ひとり黙々と一定のペースで走り続ける拓也。気付かないうちに周りのクラスメートをどんどん突き放して行く。



 ピーーー!!


 担任の終了を告げる笛が校庭に響く。



(曇り空。全く自分の心を見ているようだ……)


 拓也は曇った空を見上げながら思った。





(雨、やっぱり降って来たな……)


 教室に戻った拓也は校庭に振り始めた雨粒を見て思った。



「で、団長はナスとメースクイーンのどっちがいいんですか?」


「ん?」



 ちょっと大きな声でそう言って膨れた顔をするマキマキの声に気付いて拓也が顔を向ける。


「あ、分からないって顔してる!? 聞いてなかったんでしょ!!」


 聞いていなかった、とは言えない。



「い、いや、その、なんだ……」


 必死にマキマキの言葉を思い出す。


(ナスに、メイクイーン、じゃがいもか? 何の話だ? 好きな野菜のことか!?)



「ナ、ナスが好きだ」


 とりあえずしっかり聞き取れた言葉を拓也が返す。それを聞いたマキマキがちょっと安心した顔で言う。



「良かった、()()()で。レースクイーンはちょっと露出が多くて、その、私……、あまり胸大きくないんで……」


「は?」


 拓也は恥ずかしそうにそう言って顔を赤らめるマキマキを見つめる。



(ちょ、ちょっと待て。一体何の話をしていたんだ!?)


 拓也は胸のあたりを隠すような仕草をするマキマキを見つめて思う。その視線に気付いたマキマキが小声で言う。



「団長は大きいのが好きなんですか、ミホンさんみたいに?」


(うぐほはっ!?)


 全然野菜の話などしていなかったマキマキに、今更ながら気付いた拓也が慌てて言う。



「そ、そんなことはないけど、あ、ああ、もうすぐ先生来るよ……」


 本当は全部好き、なんて言えない。

 マキマキが言う。



「仮装大賞のコスは、ナースで決まりですね。団長のリクエストっ!!」


(あ、そうだ。そうだったな……)


 拓也はマキマキが体育祭でコスプレをしなければならないことをようやく思い出した。






「へえ~、それでマキマキはナースのコスをするんだ」


 久し振りに拓也の部屋にやって来た美穂がマキマキの話を聞いて言った。

 夏に開催される『ギルド大戦争』、その方針を決める為に副団長として拓也の部屋にやって来た美穂。最初にマキマキの『仮装大賞』出場を聞き不満そうな顔で言った。



「そ、そうなんだ。ナースをするんだって」


 雰囲気的に、まさか自分のリクエストでそうなったとは言えない。美穂が言う。


「まあ、いいわ。私、負けないから。ところで木下君は何かして欲しいコスとかある?」


 美穂の目つきが獲物を狩る目になったことに拓也は気付かない。



「い、いや特に何も……」


 美穂の色々なコスプレを想像し、思わず恥ずかしくなる拓也。それを見越したように美穂が言う。



「私ね、『暗殺少女リリルカ』やろうと思ってるんだ」


「へえ」


 意外、いやそれは当然であろう。アニメ好きの美穂ならいたって普通のことである。拓也が言う。



「いいんじゃない。リリルカ、可愛いし」


 そう言いつつ、リリルカの胸元を強調する衣装を思い出し緊張する拓也。それを見た美穂が嬉しそうに言う。



「そうでしょ? やっぱりいいよね、リリルカ!」


「うん、そうだね」



 拓也はそう返事しながら心の中で思った。



(あ、もやもやが、消えてる……)


 ずっと心を覆っていた暗いもやもやが晴れていることに気付いた。



「で、団長。『ギルド大戦争』はどうする? やっぱ、狙っちゃう? 頂点」


 美穂は表情を変え、真剣な顔で拓也に言う。


「そうだね、『デスコ』でもそう言った意見が多いし、前回優勝のうちに来て優勝争いしたいって人も多そうだし」



(そうだ、そうしよう……)


「了解~、団長。副団長として、しっかり支えます!!」



(決めた。『ギルド大戦争』の二連覇、簡単なことじゃない。だけどもしそれが達成できたのなら……)



「頑張ろうね、団長っ!!」


 拓也はそう言って笑顔になる美穂を見ながら心の中で言った。



 ――俺の想いをきちんと彼女に伝えよう



 その瞬間、拓也を覆っていた黒いもやが完全に消えた。

お読み頂きありがとうございます。

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